エピローグ
ワイズリエルは解説は、ひとまず終わった。
俺はソファーに深く沈みこみ、それを聞いた。
あたたかな昼下がり、天空界、神の家だった。
いつしかクーラたちが集まっていた。
俺は穏やかな笑みで、テレビに地上界を映した。
ワイズリエルが言った。
「ご主人さまッ☆ 地上界はこれより近世に相当する時代となりますッ☆」
「近世に相当する時代?」
「剣と魔法、そして王国による新大陸獲得とモンスター殲滅の時代ですッ☆」
「スケールが大きくなるな」
「はいッ☆ これからは個人が知恵と技術を元手に活躍する時代というよりは、英雄がリーダーシップを発揮し国家を導く時代、戦記の時代になりますッ☆ ですがその前に、まずは中世時代の創造、おつかれさまでしたッ☆」
「はァ、ありがとうございます」
俺は照れ笑いをしながら頭をかいた。
するとワイズリエルたちは、いっせいに母性に満ちたため息をついた。
クーラが俺を真正面に見て、ニコッと笑った。
それから笑顔のままでこう言った。
「それでカミサマさん。次の近世はどのようなスケジュールで学びますか?」
「いやっ」
すこしは休ませてくれよ――と言おうとしたら、マリが根性の悪い笑みをした。
そして言った。
「近世も好いけど、でも、ほかの時代も面白いわよ」
■作品年表――・――・――
▼古代▼――
1万2000年ほど昔 『コナン・ザ・グレート』
184年~ 280年 『三国志演義』
▼中世▼――
~539年 『アーサー王物語』(+1130年と1485年頃の風俗と宗教観)
1100年~1125年 『水滸伝』『金瓶梅』
1199年~1216年 『ロビン・フッド』
▼近世▼――
1493年■唐辛子 ヨーロッパ伝来 (コロンブス新大陸発見)
1542年■騎兵用短銃の発明(1543年種子島伝来)
1610年~1643年 『三銃士』
1643年~1715年 太陽王ルイ14世の治世
18世紀■トマト ヨーロッパで食用に
1789年フランス革命
▼近代▼――
1776年~1976年 『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』
1827年■イギリスで蒸気自動車の定期バス運行
1836年■サミュエル・コルトがリボルバーを開発
1885年 『ドラキュラ』
1885年 『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3』
1900年 『オズの魔法使い』
▼現代?▼――
1990年代 『ハリー・ポッター』
■――・――・――・――・――
「これは7話目でまとめた、カミサマが好きなエンターテインメント作品よ。こうやって並べてみると、近世以外にもまだまだ魅力的なファンタジーの舞台はあるわね」
「というより、近世に好きな作品が少ないですね」
クーラが切れ長の美しい目を細めてそう言った。
するとミカンが口を尖らせた。そして言った。
「つーか、『ベルサイユのばら』がないじゃん」
「いやっ、それはまあ、その通りなんだけど」
あれを参考にしたら、あれのまま、丸パクリすれば好いや――ってなってしまう気がする。王政ヨーロッパ世界のひとつの到達点だと思う。
「じゃあ、どうすんだ?」
「どうすんだって、近世を学ぶしかないだろう」
だって地上界の時代は流れていくのだから。
そう思って口を尖らせたら、マリが言った。
「あら、そんなことないわよ。たとえば、アダマヒア王国はこれから船に乗って西部を開拓するのだけれど、その船舶は近世のテクノロジーなのよ。だから新大陸に到達してからの西部開拓は、いきなり近代となっても、おかしくはないわよ」
「遠洋航海をしている間に、近世を飛ばしてしまうのだな」
「その通り。それに古代を学んでもいいわ」
「え?」
「だって地下迷宮があるじゃない?」
「ああ、そうか」
「そこから出土する財宝や迷宮のテクノロジーは古代のもの、そう考えれば、これから古代を学ぶことは決して無駄ではないわよ」
「たしかに」
その通りである。
「つーか、カミサマ。あんた神なんだから、いろんな時代に行けンだろ?」
「ええっ?」
「どーせ、なんでも出来ンだろ?」
「そっ、そんな」
人をなんだと思ってるんだ。
というか、神か。神をなんだと思っているんだよ。
「気が向いた時代に行けばいいじゃん」
「はあ?」
「で、みんなが各時代を担当するんだよ。競争しようぜ」
などとミカンが意味不明なことを言った。ぷるんと胸がゆれた。
俺は困り顔で頭をかいた。
するとマリがゲスな笑みでこう言った。
「じゃあ、ワタシは現代が好いわあ。もう一度、カミサマと現代をたっぷり楽しみたいわあ」
「現代を創造するの?」
「創るというよりも、その世界で楽しみたいのよ。また、カミサマと一緒に【大人気ヒロインたちを次々と転生していく話】のような、そんな世界を楽しみたいのよ」
「近未来のゲーム世界か……って、あのなあ」
そういうメタくさいの止めようよ。
というかノクターンに移したばかりだし。
俺がたしなめるような目をすると、マリは、にたあっと笑った。
ワイズリエルが俺をちらっと見て、クスリと笑った。
俺は苦笑いをした。リストを見たまま深く考え込んだ。
「お兄ちゃんお」
しばらくの後、ヨウジョラエルが腕をつかんだ。
ワイズリエルとクーラ、ミカンとマリは、じっと俺を見ていた。
俺は笑った。
それは今まで世界を創造してきたことからくる、自信に満ちた笑みだった。
まあテキトーにやっても何とかなるだろ――といった、無責任な気分も含んでいた。
「じゃあ、エッチなことでもしながら、ゆっくり結論を出すよ」
俺はそう言ってから彼女たちをつかみ、引きずり寄せようとした。
しかし言い終わるまえから、5人の目はもう俺の体を這いまわっていた。
俺は揉みくちゃにされた。その最中、クーラが言った。
「かっ、カミサマさん。なにか結びの挨拶をッ!」
俺は女体の海から懸命に顔を出した。
それから低くよく響く声でこう言った。
「以上が、俺の知る中世ヨーロッパの知識、そしてアダマヒア世界のことだ。もし、この時代のことで重大な見落とし等があれば、その都度、分かる範囲で説明を加えたい。もっともこれ以外にあるとすれば、それは近世編として新たに物語をつむぐべきだ――とは思うのだけれども」
【創世録中世編 完 】




