【キャッチアップ! 転生録第3部】
俺は地下迷宮を作り終え、モンスターを配置した。
しかし南征隊は遠くから眺めるだけで、何日かするとザヴィレッジに帰った。
そこでいったん準備を調えたのち、挑むに違いない。
俺はその様子を見て父性に満ちたため息をついた。
そして、ワイズリエルたちを呼んだ。
これからのことを相談するためである。――
「とりあえず地下迷宮は創ったんだけど、これからどうしよう?」
俺が訊くと、マリが即座に言った。
「西に大地を創造するのよ」
「今度は西か」
「そう。おそらく地上界はこの後、ザヴィレッジ領主の主導のもと、迷宮前に集落を建設するわよ。そして、もしザヴィレッジの領主が賢かったら、川を上ったところ――アダマヒアとザヴィレッジの中間地点――にも集落を作るわよ」
「ほんと?」
「まず間違いないわね。というのも、地下迷宮から財宝が出た場合――まあ、財宝はカミサマが創るのだけど、だから必ず出るのだけど――そうなると、ザヴィレッジの経済力がアダマヒア王国を上まわってしまうのよ」
「だからザヴィレッジの領主は、川上に集落を作るの?」
「ええ。ザヴィレッジは王国に睨まれないために、地下迷宮から発掘した財宝を直接アダマヒアに水上輸送するの。そのための港町を必ず作るわよ」
「なるほどそれは分かったが」
なぜそれが西の大地創造に結びつくのだろうか。
「それを説明する前に、すこしだけ早送りしてみて。アダマヒア王国の西部開拓は、港町の建設がトリガーなのよ」
「よし分かった」
俺はテレビに映るアダマヒアを早送りした。
そのことによって地上界はどんどん時間が進んだ。
何日か経つと、マリの言った通り、川上と川下に集落の建設がはじまった。
「思ったより早かったわね」
「ああ、せっかちなヤツだ」
「あはは。でも、完成まではしばらく時間がかかるわよ」
「まあな。で、このあとアダマヒア王国は西部開拓に乗り出すわけかい?」
と、俺が訊くと今度はワイズリエルが応えた。
「ご主人さまッ☆ アダマヒアはご覧の通り、ザヴィレッジが交易の中心地となっていますッ☆ これはご主人さまにとっては喜ばしいことですが、しかし、アダマヒア王国の支配階級からしてみれば、とても恐ろしいことなのですッ☆」
「というのは?」
「アダマヒア王国は現在、穂村の刀剣や香辛料を輸入しています。それらに頼った生活をしていますッ☆」
「その通りだ」
「それでそういった状況下、地下迷宮から価値のあるものが数多く出土すれば、王国は、ますます他所からの物資に依存した都市になりますッ☆」
「たしかに」
「近い将来、自給自足のできない都市となってしまうのですッ☆」
「ん? それで?」
「ザヴィレッジに物流を止められると、アダマヒア王国は干上がってしまいますッ☆」
「あー、そういうこと」
「はいッ☆ ザヴィレッジに主導権を握られてしまうのですッ☆」
ワイズリエルはそう言って、マリに視線を移した。
するとマリは、ひどくゲスな笑みをして、それからこう言った。
「このまま、ぼーっとしていると、王国はザヴィレッジにライフラインを握られることになるわよ」
俺が眉をひそめると、マリは言った。
「そうならないための西部開拓なのよ。アダマヒア王国はザヴィレッジを経由してくる物資だけに頼らないためにも、必ず西部を開拓するはずよ」
「なるほど」
「王国には、あの鉄血王妃アナスタチカがいますッ☆ マリさまの今言ったことに必ず気付くはずですッ☆」
「たしかに」
俺は大きく頷くと、姿勢を正した。
それから、みんなをゆっくりと見まわした。
そして訊いた。
「俺にできることは?」
するとマリが、まるで将棋でもさしているかのような、そんな慎重さで言った。
「西部を開拓する隊は、アダマヒア王国からは直接出発しないわよ。おそらく王国の西に港町を作って、そこを西部開拓の前線基地とするはずよ。で、カミサマにお願いしたいことなのだけれども――。その港町を川の南側に作るよう誘導して欲しいの」
「というのは?」
「川の北側に町を作ると、アダマヒア王国は近い将来、ほかの都市から孤立してしまう。最悪、戦争をすることになるわよ」
「それはイヤだな」
というより絶対に避けたい。
「だから南側に町を作らせるの。そうすることによって、デモニオンヒルからも魔法使いが仕事にやってくる。開拓事業を通じて、魔法使いへの偏見と恐れが取り除かれる。西部開拓事業がそういった意味合いを帯びてくる」
「それは好いな」
で、その誘導のしかただが。
「人型モンスターの集落跡地を創るのよ。そうすれば、王国はそこに港町を作るわよ」
「えっ? それだけで好いの?」
「まず間違いなく成功するわよ。ねえ、ワイズリエル?」
「はいッ☆ というのもご主人さま。町の建設にはとても多くの人とお金と、そして月日がかかるのですッ☆ ですから、たとえば中世ヨーロッパの都市は、古代ローマ帝国の都市や要塞の跡地に作られることが多いのですッ☆」
「アダマヒア王国も、利用できる跡地があれば必ずそれを利用するわよ」
「言われてみればもっともだ。じゃあ、さっそく作ろうか」
と言いながら、俺はいきなり集落を創った。
するとクーラが悲鳴のような声をあげた。
俺がなんの相談もなく、テキトーな位置に創ったからである。
「ごめんごめん。もし、なにか問題があればすぐ直すよ」
俺が頭をかきながらそう言うと、クーラは悔しそうな目をした。
そして、くすりと笑った。
それから穏やかにこう言った。
「そのままで結構ですが、カミサマさん。集落に名前を付けませんか?」
「ああン、好いねえ」
ミカンが大らかな声をあげると、クーラたちは微笑んだ。そして頷いた。
それから、みんなの視線がいっせいに俺に集まった。
で。
俺は面倒くさかったから、
「じゃんけんして勝った人が名前付けなよ」
と、彼女たちに丸投げをした。
すると彼女らは嬉々として、じゃんけんをはじめた。
その結果、ミカンが名前を付けることになった。
「じゃあ、『広い川』。『広い川』って意味の名前がいい」
ミカンは、いきなり言った。
「えっ?」
「だってモンスターの村だろ? モンスターが南から来てさ、川を発見したらこう叫ぶじゃん? で、それが集落の名前になると思うんだよ」
「ああ、そういうことね」
たしかにあの川は川幅が広い。
10キロくらいある。
「なあ、ワイズリエル。『広い川』ってスペイン語でなんて言うンだ?」
「Rio Ancho――リオアンチョですねッ☆」
ワイズリエルはバチッとウインクをした。
するとマリが、
「ちなみにバスク語では、イバイサバルよ」
と言って、根性の悪い笑みをした。
ミカンはカラッとした声でこう言った。
「なあ、カミサマ。リオアンチョとイバイサバル。どっちにするか決めてよ」
俺はしばらく考えたのち、『リオアンチョ』に決めた。
ただ単純にこれ以上、地上界に外国語を増やしたくなかったからだった。
――・――・――・――・――・――・――
■神となって知り得た事実■
西にモンスターの集落跡地を創った。
……仕事のブン投げかたが、だんだん分かってきた。以後こんな感じで、ゆるーくテキトーに創世したいものである。




