天守塔 (キープ・ドンジョン・ベルクフリート)
「今日はベルクフリートについて学ぶわよ」
とマリが言った。
「えっ? クーラが説明するんじゃないの?」
俺が訊くと、マリは根性の悪い笑みをした。
「説明ついでにお願いがあるから代わってもらったのよ」
そう言ってマリは、くるりと椅子をまわして背を向けた。
そして振り向いて肩越しに、
「ワタシが、ひとりエッチをするためのベルクフリートを、自らの体を慰めブッコ抜くためのベルクフリートを、この天空界に創って欲しいのよ」
と言った。
さらにマリは、
「説明が終わったら、ベルクフリートを天空界に創って欲しいのよ」
と念を押すように繰り返して、あごを上げて肩越しに見つめるシャフトのポーズをキメたのだ。
俺は、堂々と大声で『ひとりエッチ』と言う女も、自慰のことを『ブッコ抜く』と表現する女もはじめて見た。そんなことを思いながら苦笑いで頭をかいていると、マリが飛びこんできた。それからマリは俺をソファーに押し倒し、俺のボトムスに手をつっこみ、そして甘えるように耳もとで囁いた。
いきなり説明するわよ、はやく終わらせるわよ――と囁いた。
そして唐突に説明をはじめた。
「ベルクフリート(Bergfried)とは、厚い壁を持つ主塔のこと。ちなみに、ベルクフリートはドイツ語よ。フランス語ではドンジョン、英語ではキープと言うの。ちなみに、アダマヒアでは『天守塔』と呼ばれているわよ」
と、ここまで一気に言うと、マリは滑り込むようにして俺の横に座った。
そしてテレビに要点を映した。
ちなみに、彼女の手は依然、俺のボトムスのなかである。
■――・――・――・――・――
天守塔・ベルクフリートの主な機能
5階:見張り部屋
番兵の詰め所。周囲を常に監視し、敵であれば射撃する
4階:城主の居室
城主と家族の居室。私室として使われる
3階:炊事場
食事を作る。また非常時にはピッチを沸かす
従者の宿泊所としても使われる
2階:入口、城兵の宿泊所
入口は、ひとりずつ入れる程度の横穴。丸太のカンヌキで閉ざす
暖房できるホールで、城兵たちの宿泊所として使われる
1階:土牢
窓のない塔の底。出入口は二階の床にある揚げ戸のみ
食糧備蓄庫、あるいは囚人の牢獄として使われる
※ 平均的なサイズは、直径:20m 高さ:30m 厚み:3m
各階は時計回りのラセン階段でつながっている
■――・――・――・――・――
「さて。今回もザヴィレッジの領主城を例に説明するのだけれど。その前にひとつ、前回の補足があるわよ」
「ええっと、それは?」
「塔の距離よ。領主城の塔は、実はある規則をもとに設置されているのよ」
「それが塔の距離?」
「そう。門塔、側塔、そして天守塔。これらの塔は、お互いの射撃が届かないよう設置されているのよ」
「つまり、塔から弓を撃っても、ほかの塔まで届かない」
「その通り。これは攻城戦の際に次々と塔が占領されていくからよ」
「もし塔の距離が近かったら、占領された塔からの射撃で、次の塔が落とされてしまう」
「ええ。だから塔と塔は離れているのよ」
「なるほど」
俺が頷くと、マリは、つんと澄ました顔でボトムスに突っ込んだ手を動かした。
俺の下腹部にあるベルクフリートを握り、先端を人差し指で突きながら説明を続けた。いや、『俺のベルクフリート』とか、ほんと品のない言いかたで申し訳ないのだけど。と思いながらも、この表現のまま続けてしまうのだけれども。……。
「ではさっそく説明をはじめるわね。ベルクフリートの▼最上階▼は見張り部屋。番人が配置されているわ。彼らは周囲を常に監視していて、近づく者があれば、角笛などで門番や領主に伝えるのよ。もちろん、戦闘時には射撃するわよ。ちなみに、この仕事は城の命運に直接結びつくため、塔の番人は妻帯を許されていないのよ」
「なるほどね」
「塔は円形、もしくは多角形のかたちをしているわ。円形は、中世ヨーロッパでは戦闘にもっとも適していると考えられていたから。そして――多角形はとりあえず後まわしにして――正方形なのは住居として使いやすいから。だから、ベルクフリートが正方形をしているのは、平和な時代に作られたか、それか中世以前に作られたものが多いのよ」
「なるほど。で、円が戦闘に適しているっていうのは?」
「正方形だと破城槌による攻撃に弱いのよ。角の部分に丸太を突っ込まれると、もろく壊れてしまうのよ」
「だから角のない円なのか」
「そう。で、それを発展させたのが多角形。この思想はベルクフリートの形状だけでなく、城郭そのものにまで浸透しているわ」
「ああ、五稜郭なんかはそうだよな」
俺がぼんやりつぶやくと、マリは満ち足りた笑みをした。
そして俺のベルクフリートに指を這わせながら言った。
「ベルクフリートの直径はだいたい20m、高さは30mね。ちなみにドイツのマリエンベルク要塞のそれは、高さ42メートル。壁の厚みは、ガイヤール城で4メートル、ジゾール城やロッシュ城だと3メートル、なかには6メートルの厚さを持つベルクフリートもあるわよ」
「なにしろ最終防衛の拠点だからな」
簡単に壊せないよう建造するだろう。
「同じ理由で、窓も極力小さくしたのよ」
「塔内は暗いだろうな」
「まず間違いないわね。ちなみにベルクフリートを取り囲む壁のことを、フランスでは『肌着 (シュミーズ)』と言うの。これが壊れると裸同然という意味をこめて」
「なかなか実感のこもった表現じゃないか……って、脱がなくていいって」
「なによ。じゃあ脱ぐ? 胸の敏感なところ、先っちょも弄って欲しいの? 弄んで欲しいの?」
「いやいや。説明は説明、エッチはエッチで切り離して考えようよ」
そう言ったまま俺が口を尖らせていると、マリは、俺のベルクフリートをぎゅっと握った。下から少し上に指を滑らせ、そのあたりを親指で押さえて言った。
「あはは、それはさておき、ともかくとして。これから各階を説明していくわよ。で、まずは▼2階▼ね。ベルクフリートの入口は地上5~10メートル、つまり2階にあるの。そこからハシゴや橋をつかって中に出入りするのよ。もちろん、ハシゴや橋は塔内に引っ込められるようになってるわ」
「籠城するためだな」
「その通り。それで入口は、ひとりずつしか入れない横穴なの。しかも、何本もの丸太でカンヌキをすることができるのよ」
「それなら侵入者を撃退しやすいな」
「そう。で、2階のホールは城兵の宿泊所になっているの。このホールには暖房があって、煙突はすべての階に通じていたのよ。ちなみに各階の連絡は、時計回りのラセン階段よ」
「時計回り?」
「階下から攻められたとき、敵の右側を攻撃しやすくするためね」
「敵の右側を攻撃しやすくするのは、城外の小道も一緒だな」
「へえ、意外と詳しいわね。ちょっと尊敬しちゃったわ。ちょっと潤んでしまったわ、湿ってしまったわ、欲しくなってしまったわ」
「いや、いちいち下ネタに結びつけなくてもいいから」
「あはは、下半身を弄ばれているのに、なにを言っているのよ……っと、じゃあ次は▼3階▼ね、ここには炊事場があるわ」
「攻めてくる敵に浴びせるピッチを沸かすのに使えるからだな」
「その通り。ちなみに『ピッチとは――コールタール・石油・木タールなどを蒸留したあとに残る黒色の物質。ふつうコールタールピッチをさす。 《引用:デジタル大辞泉 小学館》』よ」
「そんなものを上から浴びせるのか」
「ぶっかけるのよ。で、この3階は調理場ではあるのだけど、従者が寝るところでもあるのよ」
「なるほどね」
と、俺はうめくように言った。
マリが説明しながら、徐々に俺のベルクフリートを上へ上へと責めるからだ。ひどく根性悪い笑みをして、俺の顔を間近で見ながら、テクニカルな指使いをするから、マリのひんやりとした、か細い指が繊細なタッチで俺を責めるからである。
「さて次は、いよいよ▼4階▼ね。ここは一番安全なところ、領主とその家族の私室よ。領主は、ここにこもって城の防衛につとめるの。ちなみに、後世では捕虜の牢として使われるようになるわよ」
「ああ、たしかに入口のハシゴを外せば閉じ込められてしまう」
「このベルクフリートの機能と概念を分かりやすく表現しているのは、『ルパン三世 カリオストロの城 (1979年)』のクラリスの幽閉されていた塔よ。あれは近代的なギミックが施されて、まるで外観は違っているけれど、しかし、取り外しのできる入口と防御に長けた居住空間という意味では、間違いなくベルクフリートそのものよ」
「なるほど」
最近テレビでやってたよね。
「では――。最後に1階というか地下を説明して、ベルクフリートの説明は終わるのだけど。この後、カミサマにはベルクフリートを創ってもらいたいのだけど。そして、ワタシはそこで独りブッコ抜くのだけれども。でも。もし、カミサマが参加したいというのなら、ふたりでベルクフリートにこもってブッコ抜き、あるいはセックスをしまくってもワタシはかまわないのだけれども。と、その前にコレ、あなたが『俺のベルクフリート』などとバカな言いかたをしているコレ、この、怒髪天をつく――って感じの御柱をどうにかしないと」
「いや、『俺のベルクフリート』とか言ってないよ」
思っただけで。
「とか言ってるけれど。あなた、そんなの顔に書いてあるわよ。カミサマの考えていることなど手に取るように分かるわよ。と、ワタシはワタシは、あなたのベルクフリートを手に取りながら言うのです」
「って、はやくしようよ」
「どっちを?」
「好いから」
「どっちも?」
などと、またマリが面倒くさいことを言いだした。
俺はため息をつきながら、マリの胸をするっとさわった。
するとマリは、俺のベルクフリートの奥深く裏側に、最深部まで指を運んだ。
それから、にたあっと優越感に満ちた笑みをして、俺にもたれかかった。
そして言った。
「ベルクフリートの▼1階▼は、扉も窓もない塔の底よ。出入口はただひとつ天井のみ。2階の床が揚げ戸になっていて、そこからしか出入りできないのよ」
「食糧備蓄庫、あるいは囚人の牢獄って書いてあるけど?」
俺がテレビを指さして言うと、マリは嬉しそうに言った。
「1階はもともと食糧備蓄庫だったのよ。で、囚人をベルクフリートに閉じ込めるのは籠城をしないときなのだけど、1階に閉じ込める前に、まず4階に閉じ込めていたのよ。でも、囚人をそんな上階に住まわせるなんて、なんだか腹立たしいじゃない?」
「もとは領主のこもる部屋だしな」
「そう。だから、そのうち1階に閉じ込めるようになったのよ」
「ああ、なるほどね」
俺は大きく頷いた。
するとマリは、にたあっと根性の悪い笑みをして、そしてゲス顔でこう言った。
「以上で、ベルクフリートの説明は終わりよ。ところでカミサマ、この後どうする? ちなみにワタシは今、とてもサカリがついた状態よ。ええ、とても性欲の高まりを抑えきれないの。でも、このままカミサマの怒張した主塔を放置していくのはさすがに酷いと、それは分かっているのよ。と言いつつ、それでもワタシは、はやくベルクフリートを創って欲しいと思っているの。はやくベルクフリートでパンツを脱ぎすて、ひとり恥ずかしい姿になって、恥ずかしいところをまるで小鳥の頭を撫でるように、愛で、慈しみ、慰め、ほとばしり、むせび泣き、咲き乱れっ、カミサマがクーラたちに性的虐待を受けているそのさまを妄想しながらワタシは、ひたすらひたすら自身の敏感なところを嗚呼っ」
と、ここで俺は面倒くさくなってマリを押し倒した。
マリはひどく嬉しそうな声で、止めてえっと言った。
そして自ら服を脱ぎすて、むしゃぶりついてくるのだった。
――・――・――・――・――・――・――
■神になって知り得た事実■
天守塔について詳しくなった。
……ちなみに天空界にベルクフリートを創るという話は、この後うやむやのまま立ち消えとなった。リビングで抱きあったものだから、ほかの娘たちが参加してきてメチャクチャとなり、しかもそれが何日も続いたからである。




