ドラッグ
著者注:現代日本における麻薬については、以下のサイトで最新の知識を得るようお願いいたします。
麻薬及び向精神薬取締法 《総務省法令データ提供システム》
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%96%83%96%f2%8b%79%82%d1%8c%fc%90%b8%90%5f%96%f2%8e%e6%92%f7%96%40&H_NAME_YOMI=%82%a0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=S28HO014&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1
麻薬及び向精神薬取締法で定められた麻薬一覧 《日本法医学会 法医中毒学ワーキンググループ》
http://www.jslm.jp/ftwg/hyoujyun/kiseiyakubutsu.html
麻薬とは
中枢神経を麻痺させ、陶酔感を伴い、強い麻酔・鎮痛作用があるが、連用すると薬物依存を生じる物質。アヘンおよびそれより抽出されるモルヒネ・コデインやコカインなどの天然麻薬と、塩酸ペチジンなどの合成麻薬とがある。
《引用:デジタル大辞泉 小学館》
「今日は中世ヨーロッパの麻薬について学びましょうッ☆」
と言って、ワイズリエルがやってきた。
タイトなミニスカにブラウス、エロメガネ。
指示棒を持った女教師スタイルだ。
俺が頷くと、彼女は言った。
「ではッ☆ 要点をまとめたので、まずはご覧くださいッ☆」
■――・――・――・――・――
中世ヨーロッパの主な麻薬
ベラドンナ (オオカミナスビ、セイヨウハシリドコロ)
ナス科オオカミナスビ属。西欧で自生する多年草
花言葉は「沈黙」
効果:異常な興奮状態
ダチュラ (チョウセンアサガオ)
ナス科の一年草または多年草で有毒植物。熱帯に生息
花言葉は「偽りの魅力」
効果:興奮状態、無自覚行動、記憶喪失
大麻 (マリファナ、ガンジャ、ハシシ)
アサの花冠・葉を乾燥、樹脂状、あるいは液体にしたもの
アサの花言葉は「運命」
効果:安心感、陶酔感、感覚鋭敏
芥子 (アヘン、ヘロイン、モルヒネ)
一年草の植物。ローマ帝国を経てヨーロッパ全土に広まる
花言葉は「慰め」
効果:抑圧からの解放、不安・欲望の喪失、陶酔感
■――・――・――・――・――
「中世ヨーロッパや古代インドでは、ベラドンナやダチュラが儀式に使用されていましたッ☆」
「麻薬として、ではないんだな?」
「前述四種はそのような用途としては使われませんでしたッ☆ あえていうなら、アヘンがいわゆるドラッグとして使用されたくらいですねッ☆」
「了解」
「ベラドンナは、摂取し中毒を起こすと、嘔吐や散瞳、異常な興奮状態になります。そして、最悪の場合には死にいたりますッ☆」
「リスキーだな」
「はいッ☆ 次にダチュラですが。これは、極東では鎮静麻酔薬として使われていましたッ☆ 摂取すると、全身の筋肉が弛緩して脱力感をおぼえます。また、嘔吐感をもよおします。そして、瞳孔が散大するのですッ☆ さらに摂取量が多い場合には、意識混濁、言語障害、昏睡、記憶喪失などをもたらしますッ☆」
「なるほど」
「一時的に刺激に対する反応が失われ、他人とのコミュニケーションが取れなくなりますッ☆ 興奮状態になって、自覚のないまま行動するのですッ☆ その後、昏睡状態が十数時間続くことがあり、これらの症状が収まったときには、その間の記憶が失われてしまいますッ☆」
「全身麻酔や自白剤として用いられたこともあるんだっけ?」
「その通りです、ご主人さまッ☆ また、無意識のうちに深層心理を探索できるので、人格形成に有益であるとされました。そして使用されていたこともあったのですッ☆」
「人格形成に有益かあ」
思わず声に笑いが混ざってしまった。
時代によってずいぶん評価が変わってくるものだ。
「ご主人さまッ☆ 次に大麻と芥子を説明しますが、これは21世紀にも麻薬として使用されていましたので、多くの資料が残っていますッ☆」
「ああ、いろいろと呼びかたがあって混乱するけれど、聞いたことあるよ」
「精製のしかたによって、名称が変わってくるようですねッ☆」
「だけど、効果はあまり変わらない」
「その通りですッ☆」
そう言って、ワイズリエルはバチッとウインクをキメた。
が。すぐさま慌てて頭を下げて、舌をちょこんと出した。
「すみません、ご主人さまッ☆ つい、はしゃいでしまいましたッ☆」
「ああ、好いよ。別にかまわないよ。不謹慎とか思わないから」
「いえッ☆ 私はよく、クスリがキマってるんじゃないかって言われるのでッ☆」
「大丈夫、大丈夫。そんなこと思ってないよ」
と、言ったものの。
クスリをネットで検索しまくっていたら、誤解されるとは思う。
誤解されるというか、心配されるというか。
まあ、通報されなければ別に気にすることもない、とは思うのだけれども。……。
「さてッ☆ 大麻は中世ヨーロッパでは治療薬として使われました。特に、うつ病の治療に使われ、高い効果をあげたようですねッ☆ さらには多幸感をもたらす鎮痛作用と、食欲増進などの薬理作用がありますッ☆」
と、ここまで言って、ワイズリエルは注意するように手を差しだした。
そして言った。
「などと良さそうな薬効を並べましたが、大麻は21世紀の日本の法律では麻薬に分類されていますッ☆ 無許可所持は犯罪ですッ☆」
俺は頷いた。
「大麻は使用者に安心感と陶酔感をもたらしますッ☆ たいていは、吸うと感覚が鋭敏になり、視覚はとくに激しく敏感になりますッ☆ 目に映るのものが鮮明に見え、残像がいつまでも残ります。壁の染みが人の顔に見えたり、雲が神のように見えることもあるのです。また、音が色彩をともなってあらわれたり、考えていることが映像として見えたりもしますッ☆」
「こうした現象を『トリップ』と言う、でしょ?」
「さすがです、ご主人さまッ☆ このトリップはその時の精神状態による影響を受けやすいので注意が必要ですッ☆ 気分のいい時は、極上の陶酔感『グッド・トリップ』となり、心配事のある状況や緊張のなかで使用すると、ひどい『バッド・トリップ』状態におちいってしまいますッ☆」
「好い気分はより好く、悪い気分はより悪く。感情が増幅される感じだな」
「はいッ☆ ちなみに、大麻の陶酔成分は、花・茎の先端・葉など、株の上部に多く含まれていますッ☆」
そう言ってワイズリエルは、ちょこんと俺の横に座った。
甘えるようにもたれかかり、太ももをするっと触った。
そして息を吹きかけるようにして言った。
「次に芥子ですが――ッ☆ 芥子は、果実から麻薬『アヘン』『ヘロイン』や医療品『モルヒネ』が採れますッ☆」
「ああ、これだよ。これの名前が色々あってややこしいんだよ」
「ケシ……アヘンの薬効成分であるアヘンアルカロイドは、強い抑制効果を持ちますッ☆ 特に精神的な部分に強く作用し、服用者はあらゆる抑圧から解放されます。不安・欲望といった感情が消え、しばらく強い陶酔感のなかにいるような感じがします。この状態は純化ヘロインで2~4時間程度持続すると言われていますッ☆」
「なるほどね」
「ちなみにッ☆ 紀元前400年頃のギリシアのヒポクラテスや、ローマ時代の医師ガレノスは、アヘンを薬として使用することを推奨しましたッ☆ また、1世紀の古代ローマの医師ディオスコリデス――皇帝ネロの侍医、植物学者でもある――は『ケシは少量であれば痛みをやわらげ眠りを誘うが、しかし、量が多すぎれば昏睡状態におちいり、やがて死にいたる』と言いましたッ☆」
「危険性は分かっていたんだな」
「取り扱いの難しい医薬品という認識ですねッ☆」
「たしかに」
「その後、アヘンを使った医療は、紀元5世紀に西ローマ帝国が滅ぶとアラビアに移りますッ☆ そして11世紀にイスラム圏を経由し、ヨーロッパに再伝来するのですッ☆」
「再び医薬品としてもちいられたわけだな」
「その通りですッ☆ ヨーロッパでは、15世紀からは麻酔薬としても使用されるようになったのですッ☆」
「医療で使われたということは、修道院や薬売り、そして床屋が使ったわけか」
「そうなりますねッ☆ ただ、どの植物もヨーロッパに自生してますので、いわゆる麻薬のような使いかたをした人も、なかにはいたと思いますッ☆」
「果実を切って樹脂を採取するだけだもんな」
「ものすごく手間と時間のかかる作業のようですがッ☆」
「まあ、やるヤツもいただろうという可能性の話だよ」
そう言って俺は、苦笑いをした。
ワイズリエルは満面の笑みで俺に抱きついた。
そして、しばらくそのままアダマヒアの様子を眺めたのだった。――
――・――・――・――・――・――・――
■神になって知り得た事実■
クスリについて詳しくなった。
……これらの写真を見てみたが、ケシ以外は普通の葉っぱに見えた。たぶん、そこらへんに生えていても俺は気付かないと思う。




