船舶
今日は、中世ヨーロッパの船舶について学ぶことにした。
「中世ヨーロッパの船舶ですが、初期の主流はおそらく『クナール船』ですッ☆」
「クナール船?」
「これは9世紀あたりのヴァイキングの貿易船で、浅い船体に1本のマストと横帆を備えた船でしたッ☆」
「シンプルだな」
「はいッ☆ そのクナール船から派生してコグ船、キャラック船が開発されます。それに、オールでこぐガレー船を加えたのが、中世ヨーロッパで主に使用されていた船舶ですッ☆」
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中世ヨーロッパの主な船舶
コグ船
12世紀に開発された浅い船体に1本マスト、横帆のみの小型帆船。
バルト海で主に貿易に使用、ハンザ同盟が多用した。
キャラック船
15世紀にスペインで開発された、ヨーロッパ初の外洋航行船。
大西洋の高波でも安定を保つ巨体と、大量輸送に適した広い船倉を持つ。
コロンブスのサンタ・マリア号、マゼランのビクトリア号が有名。
ガレー船
古代に開発された、主として人力でオールをこいで進む軍艦。
地形が複雑で風向きの安定しない地中海やバルト海では、19世紀初頭まで使用された。
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「ただ、これは海洋の船舶ですッ☆ ドイツなどの川では、バージ船が使用されましたッ☆」
「バージ船。あの巨大なイカダみたいな平板、別名『はしけ船』のことか」
「さすがです、ご主人さまッ☆ バージ船は、重い荷を水上輸送する船舶ですッ☆ 底が浅く平らになっていて、陸上輸送が困難な重たい貨物などを運ぶために用いられますッ☆」
「なるほど」
「一芸に秀でたオンリーワン船舶で、21世紀でも活躍していますッ☆」
「21世紀でも使われているのか」
「バージ船は、河川や運河などの内陸水路や、港湾内で重い貨物を積んで航行するための平底船舶ですッ☆ また、バージ船はエンジンを積んでいないため自力で航行できず、タグボートにより牽引されながら航行しますッ☆」
「じゃあ、中世では?」
「馬や人が引っぱりましたッ☆ ドイツの運河など内陸運河では、『曳舟道』を歩く馬や人に牽引されて進んでいたのですッ☆」
「曳舟道って、河に沿ってる岸辺の道のこと?」
「はいッ☆ 馬が川沿いを歩き、ロープでつながれたバージ船を引っぱったのですッ☆」
「日本でも見られた、のどかな風景だよな」
引っぱってる人や馬は、つらいと思うのだけれども。
「バージ船にはエンジンがなく、方向を変える舵だけがついていますッ☆ ちなみにアダマヒアの船舶――ザヴィレッジで開発された船舶――は、このバージ船のようですねッ☆」
「ほんとだ」
テレビには、ザヴィレッジから出たバージ船が映っていた。
バージ船は月明かりのもと、川を南下していた。
「このバージ船は、川を登るときは馬の力を借りるようですねッ☆ ですが今は下りですので、ただ流れにまかせるままにしていますッ☆ もっとも、帆が一枚ついているようですがッ☆」
「ほんとだ。って、結構大きいんだな」
「バージ船は、アメリカの河川で使われる典型的なものですと、長さ60メートル、幅10メートルで、1500トンまで積載できますッ☆ 日本のものはだいたい、長さ20メートル、幅6メートル、深さ2メートルの積載重量は50トン~200トンです。ちなみに鋼鉄製ですッ☆」
「アダマヒアのは、アメリカのに近いかな」
「幌馬車や馬を載せて、しかも簡易宿舎までありますからねッ☆ ちなみに馬1頭の重さは500キロ~1トンですッ☆」
「じゃあ積載重量は余裕だな」
「はいッ☆ このバージ船は、貨物を満載しても水面下の深さが2メートル以内ですッ☆ だから、水深の浅い川でも通ることができるのですッ☆」
「すごいな」
「すごいですッ☆」
「って、マズイだろ」
このままバージ船が南下してしまう。
なんも創世していない、まっ白なエリアへと進んでしまう。
と。
このとき、マリがサッパリとした顔でリビングに現れた。
マリは普段とはまるで違う可愛らしい笑みで、ワイズリエルのほっぺたをさすった。
「きゃはッ☆ なにをするんですかッ☆」
「さっきまでこの指で自らの体を慰めてたのよ」
「その指でさわったのですかッ☆」
「拭いたのよ」
「なるほど、だから湿ってってムキャーッ☆」
飛びかかるワイズリエルを、マリはするりとかわした。
そして宙に浮くワイズリエルのパンツに手を突っ込んだ。
その勢いをもってソファーに投げつけた。
叩きつける前に、マリはそっと衝撃をやわらげた。
さりげないやさしさだったが、しかし、手はパンツにつっこんだままだった。
って。
おまえ華奢なのに、投げキャラなのかよ。
などと、割とどうでもいいことを、どうでもいい感じに心中でツッコミを入れつつ、俺は二人を制止した。
そして、テレビに映るバージ船を指さした。
ふたりに対策を求めたのである。
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■神になって知り得た事実■
中世ヨーロッパの船舶を知った。
……船とか海とか移動範囲が広がるものは止めてくんねえかなと思いつつ。創世初期にワイズリエルが海を嫌がっていた理由を、俺は今さらのように知るのであった。




