【キャッチアップ! 転生録第2部】
――……俺はグウィネヴィアの記録を観た。
しばらく真っ黒な画面を見つめたままでいた。
グウィネヴィアのことは、客観的には、不幸というほかない。
彼女の決断は、司祭の言ったとおり、アダマヒアの発展を100年は遅らせることになるのだろう。
しかし。
俺はこれで好かったと思った。
良かったのではなく。
好かった。
俺は心からそう思った。
なぜなら俺は、聖人たちの生き様を視てきたなかで、ある結論に達していたからだ。
それは。
幸福感とは、結局のところ、当人が納得した決断をしたかどうかに尽きる。
という結論だ。
だからグウィネヴィアが納得したのなら、それで好い。
そう。それで終わり。
それ以上は、ゲスの勘ぐりになる。
余計なお世話になる。
それに他人の決断や人生を、良いとか悪いとか論じてもいけない。
たとえ神であろうとしてはいけない。
いや、神だからこそしてはいけない。
――ひとりひとりの人生を、神は判定してはならないのだ。
俺は、アダマヒアの民が生ききる姿を視てきて、そういう気持ちになっている。
まあ、こんなことを言うと。
マリには、ものすごい反論をされると思うけれど。
というより、思いっきり見下されて鼻で笑われて、
「ガキね」
と言われるかもしれないけれど。
しかし、神になんかなっちゃった場合は、ガキだと笑われるくらいがちょうど好いんじゃないか――って、今では思ってる。
それに。
もし、そんな神ができることがあるとすれば。
それはグウィネヴィアが幸せになるよう、ほんの少しの手助けをしてあげることだけだと思ってる。
それが、心の美しい者、人を疑わない者がしあわせをつかむ世界――そんな世界を目標に、今までずっと創世をしてきた俺が唯一できることだと思うのだ。……。
俺は穏やかな笑みをして、現在のデモニオンヒルを映した。
中央広場には、たくさんの魔法使いが集まっていた。
そしてワインを楽しそうに飲んでいた。
「グウィネヴィアが収監されて1年ちょっとか……」
俺はそう呟いて、彼女を探そうとしたが、しかし、すぐにやめた。
そしてカメラをズームアウトし、城壁のあたりに飛ばした。
これ以上の詮索は野暮だと思ったからだ。
「相変わらず美人なんだろうなあ」
俺は頭をかきながら、ワインを創った。
彼女たちと同じような軽食を創りだした。
そしてデモニオンヒルを観ながら、ワインを飲みはじめた。
塩豚をつまみながら、カメラを操作していると、城壁に人影を見つけた。
男が三人。
いかにも貴族って感じの金髪と紫髪、そして黒髪の男の子。
いや、男の子といったのは他のふたりに比べて小柄だからで、よく見ると子供ではなかった。というより、他のふたりがいかにも西洋人な、がっしりとした体型だから、黒髪の――おそらくは穂村出身の――男が子供に見えてしまったのだ。
「まあ、西洋人とならぶと、東洋人はどうしても子供に見えるよなあ」
そんなテキトーなことを呟きながら、俺はカメラを近づけた。
すると、そのとき紫髪の男が城壁の縁に飛び乗った。
男は城壁の外、遠く荒野の先を指差して言った。
「このデモニオンヒルの南、そしてザヴィレッジの南は未開の地だ。僕はその先に興味がある。モンスターを討伐しながらずっと南に進めばどうなるか? どこにたどり着くのか? 僕はそのことに興味がある」
そう言って男は、黒髪の男を誘った。
南を開拓しよう――と、男は朗らかに言ったのだ。
「って、マジかよ!!!!????」
俺は思わず画面にツッコミをキメた。
そしてツッコミを入れた後で、愕然とした。
全身から血の気が引いていくのを感じた。
マズイ。
マズイ、マズイ、マズイ。
デモニオンヒルの南には、大地がない。
そこから南は、真っ白な世界が延々と広がっているだけだ。
俺はそこになにも創っていないのだ。
しかも最悪なことに――。
騎乗戦闘によってモンスター包囲網が破られる可能性が出てきた。
そうなのだ。よく考えればグウィネヴィアは魔法使いとなったけど、騎乗戦闘の可能性を騎士たちに示して去ったのだ。
それに地味なところで、リチャードも騎乗戦闘の練習につき合わされていた。
彼は騎士ではないが、しかし、彼の主は王直属の高級官僚である。なにかの拍子に、騎乗戦闘の有用性が王族に知れるかもしれないのである。
もし、そうなれば最悪である。騎士団の騎兵化が一気に進む。
アダマヒアの版図が東西南に一気に広がってしまう。
今までサボってきたツケを、ここで一気に払わされることになる。
「ちょっと、これはなかなかのピンチだぞ」
結構呑気していた俺は、慌ててソファーから跳ね起きた。
ワイズリエルたちを探しまわった。
寝室の扉を開けた。
「ご主人さまッ☆」「おにいちゃんお~」「カミサマさん」「よお!」「あはは」
ワイズリエル以下5人の美女・少女・幼女が全員そこに居た。
彼女たちは合体ロボのようになっていた。
仁王立ちしたミカンの右足をマリが、左足をクーラが持ち上げていた。
右腕にはワイズリエル、左腕にはヨウジョラエルがしがみついていた。
ミカンの手脚に、四人の美少女・幼女が合体していたのである。
「というか、なにやってんの!?」
俺はアホみたいな顔をしてアホみたいな声をあげた。
するとミカンが、顔を真っ赤にして言い放った。
「エッチな準備体操だー」
「はあ、それがァ」
俺が息を漏らすように失笑すると、ミカンたちは一斉にほっぺたを膨らませた。
「って、それどころじゃなくてさ」
と言ったら、ワイズリエルがさえぎるように言った。
「多関節ラッキースケベくんMK2ですッ☆」
「それが?」
「5人のエッチパワーが合わさって、ご主人さまを圧倒するのですッ☆」
「はあ、はい」
「結構動けるのですよ」
と、クーラがすこし誇らしげに言った。
それと同時に、美少女ロボはセクシーなポーズをとった。
持ち上げられたヨウジョラエルは、逆立ちしたような状態だった。
ワンピースがまくりっぱなしになっていた。
「って、凄いなキミたちは」
「結構練習しましたッ☆」
「キミたちは、チーム機知GUYか」
「いいえ、チーム機知GIRLですッ☆」
その言葉とともに、がしんがしんと美少女ロボは歩いてきた。
まさに多関節キャラである。
というか、凄いけど何をやりたいのかが分からない。
まあ、それは後で聞くとして。
「あのさ、南を開拓しようとしている連中がいるんだよ」
俺は眉を上げて言った。
それと同時に、ミカンがバランスを崩した。
華奢なクーラとマリが、三人の重さに耐え切れなくなったのだ。
「って、マズイ!」
俺はヨウジョラエルに手を伸ばし飛び込んだ。
すると、
「エコヒイキすんなコラァ!」
と言ってミカンが腰をひねった。
そのことで彼女たちは、きりもみ気味に崩れた。
俺を巻き込んで、ベッドでめちゃくちゃな状態になった。
「ふごごごっ」
俺は呼吸をするために、やわらかな感触といい香りのなか、この女体地獄をもぞもぞと這いまわった。むっちりとした太ももを、頭で無理やりこじあけた。
「ひゃあん」
ミカンの可愛らしい声が、俺のへそのあたりからした。
俺は、あごをしゃくるようにして、無理やり顔を出した。
そして喘ぐように言った。
「南にッ! 南になにか大地を創らなきゃッ!!」
――・――・――・――・――・――・――
■神となって知り得た事実■
南を開拓しようとしているヤツがいる。
……次回からは久しぶりの大地創造です。