10日目。歴史的城塞都市カルカソンヌ
ソファーでぼんやりしていたら、いつのまにかヨウジョラエルがいた。
ヨウジョラエルは資料を見ながら、イラストに文字を書き込んでいた。
「どうしたの?」
俺が覗きこむと、ヨウジョラエルは資料を差し出した。
そして、まるで赤ちゃんのような無垢な笑みでこう言った。
「今日は、ヨウジョラエルだよ~」
俺は、この言葉でおおよそのところを理解した。
一応、確認のため訊いてみた。
「ミカンたちは?」
「エッチな準備体操だって~」
「ワイズリエルたちと?」
「みんな一緒だよ~」
「やっぱり」
「昨日はね、ヨウジョラエルもやってたんだよ~」
「うーん」
と、俺は唸ったまま、ソファーに沈みこんだ。
するとヨウジョラエルが、ちょこんと膝に座ってきた。
俺は上体を起こし、資料とイラストを読んだ。
それは、かつて実在した城塞都市……フランスのカルカソンヌだった。
いや、忘れがちだけど――。
俺が今いる世界は、地球&人類が滅亡した後のおそらくは異世界である。
だから今、『かつて実在した』と表現したのだけれども、城塞都市カルカソンヌは2014年の時点でも、ちゃんと実在している都市である(ユネスコ世界遺産です)。
さて。
俺はヨウジョラエルの資料を確認した。
城塞都市カルカソンヌとは、フランス南部の都市『カルカソンヌ』の一部分。
丘のうえにある城壁に囲まれた街である。
つまり、カルカソンヌ (65.08km2)という都市のなかに、
城塞都市カルカソンヌ (0.17km2 ※著者目測による)があるわけだ。
ちなみに、65.08km2は、ほぼ山手線の内側と同じ面積である。
0.17km2は、東京ディズニーランドのおよそ3分の1。
東京ディズニーランドは、東京ドーム約11個分だから、
城塞都市カルカソンヌは、東京ドーム約3.6個分になる。
左:緑の部分は丘で、黒い囲みが城壁。
城塞都市カルカソンヌは、丘の上の城壁のなかに街があり、さらにその街のなかに小さな丘がある。その小さな丘の上に、天守ともいうべき領主の城がある。
この城壁に囲まれた要塞のような都市……城塞都市カルカソンヌは『シテ・デ・カルカソンヌ』、あるいは、単にシテと呼ばれている(以降シテと表記する)。
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参考サイズ
カルカソンヌ 65.08km2
東京ディズニーランド 0.51km2
東京ディズニーシー 0.49km2
ユニバーサルスタジオジャパン 0.39km2
シテ 0.17km2
福岡ドーム
敷地面積 0.17km2
建築面積 0.07km2
東京ドーム 0.046km2
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カルカソンヌは紀元前6世紀以降、古代ローマ帝国の都市として発達した。
以後、主を変えながらも戦略重要拠点として、また、前線基地として活躍し続けることになる。その印象は難攻不落そのものである。
カルカソンヌには、女領主カルカスの伝説が残っている。
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城塞とダム・カルカス伝説
シテの入り口、ナルボンヌ門の脇に置かれている女性の石像。その正体は女領主・カルカスです。伝説によれば8世紀、侵略をもくろむカール大帝がカルカソンヌ城塞を攻め、長きにわたり取り囲みました。城塞内の食料が尽きかけたとき、カルカスは、たった1頭だけ残っていた豚を城門から投げ落としました。それを見たカール大帝は、「太った豚を捨てるのだから、十分な食料が残っている」と戦意を喪失し、撤退していきました。カルカスの作戦は大成功。彼女は街中の鐘を鳴らしこの勝利を喜びました。「カルカスが鐘を鳴らす = CARCA SONNE」という言葉が、カルカソンヌの街の名の由来となったといわれています。
《引用:NHK BSプレミアム 世界ふれあい街歩き》
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ちなみに、以下はヨウジョラエルによるシテのイラストである。
この城を攻め落とすためには、まず見晴らしのよい丘を登らなければならない。
そして、【1.正門】から突入することになる。
この正門は、馬車一台くらいの幅しかない。
馬に乗った騎士は、ひとりずつしか通れないだろう。
正門には、吊り橋がかかっている。
それを超えて外側城壁を潜ると、ちょっとした広場に出る。
そこから進むと、【2.ナルボネーズ門】。
内側城壁の門である。
この城壁は15メートルの高さで、およそビルの5階ほどになる。
外側城壁は、この内側城壁より数メートル低いが、正確な数字は分からない。
ちなみに。
10メートルの高さから落ちると、着地時にはおよそ時速50キロとなる。
これは時速50キロの車に衝突したのと同等のダメージである。足から着地すれば、時速50キロの車にドロップキックをカマしたのと同じ衝撃になるはずだ。たぶん。
この二重の城壁は、砂岩製で全長3キロ。
53の塔や外堡を含んでいる。
外堡とは、城壁の外に向かって突き出した角の部分だ。
これらの塔や外堡のかたちが円柱なのは、中世ヨーロッパでは、円が戦闘において優れた形状だと考えられていたからである。
(塔と外側城壁の建造は、13世紀のフランス王たちによるもの)
さて。
塔からの射撃に堪えながら、ふたつの城壁を突破すると、次は入り組んだ街となる。そして、せまく曲がりくねった道を越えてしばらく進むと、【3.城壁と入り口】だ。
ここの門も今まで同様せまい。
しかもそこを超えると、【4.堀と橋】が待っている。
それらを超えるとようやく、領主の天守・コンタル城となる。
この小高い丘の上に建つコンタル城にも、たくさんの塔があり、そして射手がいるのは言うまでもない。……。
女領主カルカスは、5年間の篭城のすえ勝利した。
しかも、彼女の時代に外側城壁と塔はなかった。
それと航空写真を見た感じだと、城壁内に大規模な畑や、充分な空き地はない。
だから、シテには5年分の食料 (少なくとも豚と小麦はあった)を備蓄するだけの能力がある。あるいは、城壁内の生産量を消費量が上まわっていて、備蓄がゼロになるのが5年後なのかもしれない。
13世紀以前のカルカソンヌの住民は、城壁外の市まで含めても数百人。
必要とされる守備兵は 600人程度――との試算がある。
参考までに、東京ドームの収容人数は5万人である。もちろん観戦するのと暮らすのとではまったく違うのだが、しかし、シテが東京ドーム約3.6個分の広さだということは、篭城する際の最大収容人数の一応の目安になると思う。
ちなみに、ヴィオレ・ル・デュックの試算によると、市の防衛に必要だった人数は、1323人。これは外壁や塔を建造した後の数字である。
「まさに難攻不落だな……」
俺はヨウジョラエルの描いたイラストと、アダマヒアのデモニオンヒルを交互に見ながら、ため息を漏らした。
デモニオンヒルは戦闘用に造られた都市ではない。
だから、オード門のあるところ……アダマヒア側の門は広く、吊り橋もない。
それに城壁の塔からは、内側にも射撃できるよう銃眼――弓を放つための穴――が、全方向に開いている。
しかし、何年かかけて徐々に改築すれば、アダマヒア王国と戦うための難攻不落な要塞へと変貌を遂げるだろう。
「………………」
俺は、つい、そんなことを思ってしまい陰鬱な気持ちになった。
と、そのとき。ヨウジョラエルが屈託のない笑みで、イラストを広げた。
「おにいちゃん、できたよ~」
シテの正門、それを真横から見たイラストだった。
「これは?」
「シテの正門には、吊り橋があるんだよ~」
「ああ、うん」
「閉じることができるんだよ~」
「そっ、そうだよね」
「テレビに映ってるデモニオンヒルの正門も同じだよ~」
「ああ、ほんとだ。ザヴィレッジ側にある正門、東にある正門には吊り橋がある」
「かっこいいお~」
そう言ってヨウジョラエルは、くるっと俺のほうを向いた。
そして満面の笑みをして、まるでコアラのように両手両脚で抱きついたのだった。
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■神となって3ヶ月と10日目の創作活動■
城塞都市カルカソンヌについて知った。
……デモニオンヒルは、これよりも大きくて1.5倍程度ではないか思われる。わりと引きこもりがちな俺としては、一生そこに住めと言われて閉じ込められたとしても、案外、気楽に暮らしていけそうな気がするのだった。




