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3日目。世俗貴族と騎士、レーン制

「今日は、世俗貴族がいかにして支配層となったのかを見ていきましょうッ☆」

 と、ワイズリエルが言った。

 俺が頷くと、ちょうどそのときマリが来た。

 マリは、じっとりとした目で俺とワイズリエルを交互に見た。

 にたあっと笑って俺の横に座り、テレビに中世の社会構造を表示した。



挿絵(By みてみん)



「世俗貴族は、中世盛期 (11世紀~13世紀)に三層構造が確立しましたッ☆」

「諸侯・城主・村落領主の三層だな」


「はいッ☆ そして彼ら世俗貴族の支配の特徴は、バン権……すなわち、秩序維持権に裏打ちされている点にありましたッ☆」

「秩序維持権っていうのは、たしか裁判権と軍事権だっけ?」


「その通りですッ☆ ですから単なる経済的な支配者ではなかったのですッ☆」

「なるほど」



「ちなみにその成立ですが、まずは諸侯からでしたッ☆」

 と、ワイズリエルが言うと、マリが言葉をつないだ。


「フランスの場合、諸侯層のルーツは9世紀のカロリング王権、あるいは10世紀のポスト・カロリング期にまでさかのぼるわよ」

「カロリング王権?」



「まあ、王権についての詳細はテーマから外れるから知らなくていいわよ。ただ、カロリング王権のもとで地方官を務めた者や、ポスト・カロリング期に辺境の防衛に当たった軍事司令官が、王権の弱体化に乗じて公的支配権を私物化したのよ。その子孫が、中世盛期フランスの諸侯層だと考えられているわ」

「ちなみに、彼らは『公』『伯』『辺境伯』といった称号を持っていますッ☆」

「なるほど」


「で。その諸侯層の子孫が、いくつかの主要拠点に自ら城主領を形成したの。そして、周辺の城主層をレーン関係、姻戚(いんせき)関係により傘下におさめ、諸侯領を実質化したのよ」

「ん? 婚姻によって周囲の城主層を傘下におさめたのは分かったが、レーン関係っていうのは?」




「レーン関係とは……主君から封土を受けた臣下は、忠誠を誓い、そして主君が要求する『軍務』と『奉仕』に従うという、そんな主従関係のことよ」

「うーん、日本の武士と同じようなもん?」

「まあ、主従関係はどこもそう変わらないわよ。でも、このレーン関係は大きな特徴がふたつあるのよ」



■――・――・――・――・――


レーン関係の特徴1 主従が雇用解消に対等

 いずれの側の義務不履行によっても、同じように関係が解消される。


レーン関係の特徴2 複数臣従関係

 家臣は、同時に複数の封主をもつことが許されている。


■――・――・――・――・――



「まず1の特徴なのだけど。これは『誠実な主君ありて、誠実な家臣あり』という言葉があるように、主君が横暴だと感じた場合は、家臣のほうから関係を断ち切ることができたのよ」

「主君にダメ出しできたのか」


「ええ。それで、それを可能としたのが特徴2の『複数臣従関係』よ」

「同時に複数の封主をもてるってこと?」

「ひとりの主君に仕えるわけではないのよ」



「つまり、足立区の区長は、東京都と千葉県と埼玉県と茨城県の4人の知事と、同時に臣従関係が結べたわけですねッ☆」

「……分かったような、分からないような」


「4人の知事と関係を結び、こいつはダメだと思ったら『軍務』と『奉仕』を拒否し、臣従関係を解消するのよ。そうやって自分がどの知事の傘下におさまるのかを決めていくのよ」

「うーん」

 複数の学校の生徒になるようなもんかな。



「それで、中世ヨーロッパに話を戻すけれども――。この複数臣従関係の実例としては、ある伯が20人の主君をもっていたという事例が有るわよ。まあ、それは少し多いとは思うけれど、でも、複数の主君に仕えることは、それほど珍しいことではなかったのよ」

「なるほどって、でも」


「ええ、そうね。主君Aと主君Bに仕えているときに、AとBが戦争を始めたら、どちらにつけばいいのか困るわね」

「そうだよ」


「もちろん、そういった矛盾を解消するための制度はちゃんとあるわよ」

「優先制ですねッ☆」

「優先制……ってことは、つまり臣従関係に優先順位が決められているわけか」

「さすがです、ご主人さまッ☆」



「この複数臣従関係と優先制は、レーン関係を密にしたものとして評価されているわ」

「レーン制そのものも優れた雇用形態だと評価されていますッ☆」

「まあ、たしかにパワハラには対抗できそうだ」


「ええ。でも、封建社会の王はこのレーン制があるから弱かった――とも言えるわね」

「ああ、なるほど」

 今、なんとなく中世社会が理解できた気がした。





「では最後に、騎士層についてだけれども――。これは『村落領主』の名の通り、城主層から小さな村を譲り受けた者たちのことよ」

「ああ、それはこの前教えてもらったけれど、ちょっと」

「ええ、そうね。ワタシたちのもつ騎士のイメージとは、ちょっと違うわね」

 そう言ってマリは、ワイズリエルのミニスカに手を伸ばした。

 ワイズリエルはその手を、ぺちんと叩いてこう言った。


「騎士という言葉ですが――ッ☆ フランス語のシュヴァリエ、ドイツ語のリッターは『騎馬で戦う』が語源で、英語のナイトは『従者』の意味を継承しています。そして、ラテン語のミリテスは『兵役に服する』という語が起源ですッ☆」


「ようするに、身分の低い軍事的な従者のことよ」



「そして、その騎士という概念が、中世で貴族の概念に接近するのですッ☆」

「軍事的な従者に、貴族的なイメージが付加されたわけだ」

「さすがです、ご主人さまッ☆」


「で。それを象徴するのが教会主導の騎士叙任式(じょにんしき)よ」

「ああ、クーラがやっているのを見たことがある」


「騎士叙任式(じょにんしき)――帯剣の日には、すべての騎士が教会におもむく。そして剣を祭壇(さいだん)にささげ、荘重な儀式の後にそれを再び受領する――そう記録されているわね」



「ちなみにッ☆ 王は『戦士の首領』なので、王の即位式でも、王に特別な剣の授与がされるのですッ☆」

「それも教会主導なのか」

「はいッ☆」

「上から思いっきり頭を押さえつけられている感じね」

 そう言ってマリは、ひどく根性の悪い笑みをした。

 それと同時に、ワイズリエルがテレビに騎士の定義を表示した。

 そして俺の胸に飛びこんだ。

 で。

 それからのことは、めくるめくラッキースケベというか、ガツガツとした肉食系で、男女が性的支配に対等な複数性交関係となったのだった。――



■――・――・――・――・――

中世盛期における『騎士』とは、


1.貴族諸階層出身で独自の基盤をもたない従者層

2.軍役を提供する家臣

3.領主層の最下層 (村落領主層)

4.王を含めた支配階級の総称


を差した言葉であった。

■――・――・――・――・――



――・――・――・――・――・――・――

■神となって3ヶ月と3日目の創作活動■


 世俗貴族の成立と、レーン制について知った。



 ……明日は王家の立場から、この貴族・領主制社会を見ていく。


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