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2日目。結婚と婚約、女系継承

「中世ヨーロッパ、キリスト教は一夫一婦が原則よ」

 と、マリはいきなり言った。

 俺が頷くと、彼女は続けてこう言った。



「しかも離婚ができないし、相手が生きている限り再婚ができないのよ」

「離婚と再婚ができない?」

 俺は思わず眉をひそめた。

 するとワイズリエルが、ちょこんと俺の横に座って言った。


「キリスト教は離婚を認めていませんッ☆ しかし、現実的には『結婚の無効』というやりかたで離婚できましたッ☆ ただ、教会にそれなりの代償を払わなければなりませんし、場合によっては認められないこともありましたッ☆」

「教会に?」

「結婚を取り仕切っているのは教会よ。それは王侯貴族であっても変わらないわよ」

「どうにも息苦しいな」

 俺はため息のような声を漏らした。

 それを見て、マリは根性の悪い笑みをした。

 そして言った。



「そこで『婚約』が登場するのよ。この『婚約』は単なる結婚の約束ではないわ。むしろ結婚の第一段階と考えられていたのよ」

「つまり現代的な感覚では、結婚したも同然?」

「その通りよ」

 そう言ってマリは、なぜか優越感に満ちた目で俺を見下ろした。

 するとワイズリエルが俺の腕にしがみついて言った。


「中世では『婚約』が決まったとき、社会的な契約が締結されたとみなされますッ☆ 王侯の『婚約』ですと、国家間の条約にもつながりますッ☆ そして、婚約した女性は相手の家に嫁ぎ、その家で暮らすことになります。幼女だった場合は、育てられるといった感じでしょうかッ☆」



「婚姻は『婚約』と『結婚』の2段階をもってとりおこなわれる――これは1215年の第4ラテラン公会議で正式に決められたことよ。ただ、基本的には以前から存在する手順を正式に法制化しただけよ」

「起源はユダヤ教の法ですねッ☆ それがキリスト教にも受け継がれたのですッ☆」

「って、それじゃその『婚約』と『結婚』の違いってなんだよ?」

 と、俺が訊くと。

 マリは、にたあっと笑って言った。



「セックスしたら『結婚』よ。まあ、それが転じて、子供ができたら『結婚』なのだけど」



「この『婚約』制度が、中世ヨーロッパで重要だった理由は以下の通りですッ☆」


■――・――・――・――・――


1.キリスト教 (特にカトリック)では、原則として離婚ができず、相手が生きている限り再婚ができなかった。

 だから『婚約』期間を長く取り、子供が生まれない等問題があれば婚約を破棄した。


2.キリスト教では、交接(セックス)の確認をもって結婚の完了と見なした。

 だから幼児は『結婚』することができなかった。

 この場合、国家間の結びつきのために『婚約』し、成長したら『結婚』を行った。


■――・――・――・――・――


「これは婚姻の社会的な面 (家同士の同盟)と、生物学的な面 (子孫を作る)をそれぞれ『婚約』と『結婚』に分けたといえますねッ☆」


「近代では、北米などで試験結婚として利用されているわ」

「試験結婚?」

「夫婦として暮らしてみて、相性が合わなかったり子供が生まれなかった場合に、婚約を解消するのよ。そのことで、キリスト教の禁忌……離婚を避けたのよ」

「はあ」

 俺は首をかしげつつ頷いた。

 どうにも理解が難しい。

 いや、頭では理解できるのだけど、納得ができないというか。

 宗教的な知識と素養がないから、めんどくせえなと、思ってしまうのだ。




「まあ、それはともかく。そういった大前提で中世ヨーロッパの社会は動いているのよ。そしてそれはアダマヒアも同じなのよ」

「じゃあドライ王は?」

 そう言って俺は、アダマヒア王家の血統図をテレビに映した。



挿絵(By みてみん)



「太陽王ドライは法的には一夫一婦だけど、もうひとりの妻とその娘フィーアを養っていたわね。このような家族形態は中世ヨーロッパにもあって、『もうひとりの妻』のことを『愛人』と呼んだのよ」

「愛人か」

「一夫多妻制のように、正妻・第二婦人といった呼びかたはしないのですッ☆」


「そこが中国や日本の権力者と大きく違うところね」

「そうだったのか」

 どうにも戦国時代や三国志のイメージで、奥さんがたくさん居るのを想像してしまう。



「この一夫一婦制は、権力を広げたい王侯貴族にとって大きな障害だったのよ」

「中世社会は、血統が重要視されましたから、子供が多いほど支配地域が広がり、逆に子供が少ないと領地の維持すらままなりませんでしたッ☆」

「ああ、奥さんひとりじゃ子供も少ないよな」


「それもあって『女系継承』というのが、中世ヨーロッパの王侯貴族ではよく行われたのよ」

「女系継承?」

「血統の根拠を女親の血統に求めることですねッ☆」

「子供が少ないから男の跡継ぎがいない場合もあるのか」

「その通りです、ご主人さまッ☆」



「たとえばアダマヒアの血統図だと、継体王フュンフの直系は、アナスタチカ含めて女三人、男一人。傍系は男三人よ。そのなかで直系のアナスタチカが夫を迎えて、共同で王位を相続したわよ」

「それって一般的なの?」

「一般的ですねッ☆ 中世ヨーロッパでもよく行われていましたよッ☆」


「ちなみに、この女系継承のせいで相続順位が複雑になり、混乱が生じることもあったわ。そういった場合、継承争いが起こらないように傍系男子を娘の夫にすることも多かったのよ」

「ん?」

 俺が首をひねると、ワイズリエルがバチッとウインクをキメた。

 そしてテレビの血統図を指さして言った。



「最下段、次世代のアダマヒア王族と書かれたところを見てくださいッ☆ 彼女たちの場合は、直系が第1王女のアンジェリーチカと第2王女のイモーチカ。傍系が、第1公子エルフ以下八名。継承順は、1.第1王女、2.第2王女、3.第1公子、4.第2公子……といった感じで第8公子まで続きますッ☆ それで女系継承がありますので、通常なら次世代の王位は、第1王女アンジェリーチカとその夫になるのですがッ☆」


「それで納得すれば好いのだけれど。まあ、常識的には、第1王女と公子の誰かが結婚して王位を継承することになるわよ」

「継承争いが起こらないために」

「順当にいくと、第1公子エルフと結婚ですねッ☆」

「その前に『婚約』よ」

「それで子供ができたら『結婚』か」

「そして王位継承ですねッ☆」

「うーん」

 なんだか王家も大変だなあ。

 というか、第1王女は逆ハーレムじゃないか。

 そう思って、ため息をついたら、


「公子がイケメンばかりだったら好いわね」

 と、マリにイジワルな顔で言われた。



「ご主人さまッ☆ 中世ヨーロッパでは、夫は王として妻 (女王)と共同で統治するか、統治権は持たず軍事のみ女王の代理を務めましたッ☆ ちなみに、アダマヒア王国はアナスタチカが初めての女性継承者なので、法がまだ整備されていませんッ☆ ですから、単純な妻と夫とのパワーバランスで決まっているのですが……現在は、アナスタチカが完全に王権力を握っていますッ☆」


「鉄血王妃って書いてあるくらいだもんな」

「あはは、それはまた後で説明するわよ」

「彼女の素晴らしい演説から、その名は付けられたのですッ☆」

「はあ」

 俺が眉をひそめると、ワイズリエルは夢見るような顔をした。

 マリは、仁王立ちして不敵な笑みをした。

 どうやらカッコイイ演説があったようだ。



「ちなみに、中世のフランス王家は、結婚政策によって王国内の諸侯領を併合する方針だったのよ。それもあって国内諸侯との婚姻が多かったわ」

「現在のアダマヒアも同様の政策をとっていますッ☆」

「結婚で領土の支配権を広げていくのか」

「その通りです、ご主人さまッ☆」

 そう言ってワイズリエルは満面の笑みをした。

 そして、マリがまとめて言った。



「王家は血族関係と姻縁関係の強化することによって、直接支配できる領地が増えるのよ」



――・――・――・――・――・――・――

■神となって3ヶ月と2日目の創作活動■


 中世ヨーロッパの結婚と婚約、女系継承について知った。



 ……酒池肉林のハーレムを想像していたら、まるで違った。今さらでほんと申し訳ないのだけれども。


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