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30日目。月次報告

 神となって2ヵ月と30日目のお昼。

 俺たちはミカンの料理を楽しんだのち、リビングに集合した。


「今月は今日で終わりなんで、簡単に月次報告を」

 そう言って俺は、テレビにアダマヒアを映した。



挿絵(By みてみん)



 そして現状を確認しようとしたのだけれど。

 するとマリがそれを制するように手を上げた。

 そして言った。


「現在、地上界のモンスターは野生動物のようになってるわ。そして、緑のオアシスにあった霧はなくなり、西部の沼には霧が残ったわ。ちなみに、コイル装置を破壊したときに降り注いだ『神の力』は、おそらく数年後には、いわゆるファンタジーな魔法として地上界に定着するわよ」

「ファンタジーな魔法?」

 俺が首をかしげると。

 マリは面倒くさそうに言った。



「地上界が、ドラクエみたいな世界になるのよ」

「いや、もうちょっと別の言いかたで」

「なによ、分かりやすいでしょう?」

「いやでも」

「だったら言い直すわよ。ダンジョンズ&ドラゴンズみたいな」

「だから」

「なによ、剣と魔法のファンタジーが好きなのに、ドラクエやD&Dを知らないなんて不自然よ。それにドラクエって言えば一発で伝わるでしょ、分かりやすいじゃないのよ」

「それはそうかもしれないけれど」

 それに頼らずに伝えるのがお約束じゃないか――と、俺はぼそりと言った。

 するとマリは、ひどく根性の悪い笑みをした。

 そして、


「まあ、それはさておき。ともかく。少し話がそれたからもとに戻すけど」

 と、ものすごく上からの目線で優越感に満ちて言った後。

 話をまとめた。



「とりあえずは、このことでアダマヒアは、カミサマの目標とする『剣と魔法のファンタジー世界』になるわよ。まあそれは、すべてこの大人気ヒロインであり大人気の美少女であるところのワタシのお陰なのだけれども」

 と、そこにジャストのタイミングで、

「うっせえ」

 ミカンが頭突きをカマした。

 そのことでマリは仰け反った。

 しかしマリは、ちらっと俺を見てから、

「きゃー」

 と、ひどく棒読みな悲鳴であげて、俺の胸に飛びこんできた。

 そして腕を俺の首にからませると、


「あはは、これがワタシの逃走経路よ」

 と意味不明な言葉を吐いて、俺の首筋を強く吸った。

 さらには、

「ご主人さまッ☆」

「おにいちゃんお~」

 と、ワイズリエルとヨウジョラエルが便乗した。

 俺はこの美少女2名に美幼女1名、合計3名の熱烈な吸いつきに身悶(みもだ)えた。

 それを見て、ミカンが母性に満ちた笑みをした。

 クーラが、しかたがないですねと、ため息をついた。

 そしてクーラは姿勢良く座り直してから、こう言った。



「あの、カミサマさん。ここなんですが――」

 そう言って、クーラは画面を指さした。

 俺は、まためんどくさいことを言いだした――と、思わず顔をしかめた。

 頭をかきながら上体を起こした。

 クーラは冷然と言った。


「あの、アダマヒアの橋から黒い沼まで伸びていた雷の痕跡、あの地面がえぐられた跡ですが……いつのまにか無くなっていますよ」

「ああ、あれ? なんか申し訳ないから直しといた」

 俺はぶっきらぼうに言った。

 説教をかわすために無自覚にとった態度だった。

 そして俺は無意識に身構えた。

 しかしクーラは穏やかに、


「それは、かまわないのですが」

 と微笑んだ。

 そして、


「あの、私はいつも怒っているわけではないのです。別に、カミサマさんの仕事のアラを探しているわけではないのですよ」

 と言った。

 で。

 ここまで言ってから、クーラはまるで思い出したかのように、


「でも、そうですね。もし、私が怒っているとしたら」

 と言った。

 長いまつ毛を伏せ、目尻からぞっとするような視線を俺に送った。

 そしてクーラはため息をついてから、こう言った。



「なんで途中で止めるのですか?」

「えっ?」


「霧のところに、まだ痕跡が残ってますよ」

「ああ、あれ?」


「ちゃんとしてください」

「いやでも、黒い霧のところは『神の力』が無効化されるから」


「それで途中で止めたのですか」

「だって仕方ないだろ」


「それなら最初からやらなければいいじゃないですか」

「はァ?」

「途中で止めるなら、最初からやるなと言っているのです」

「ああン?」

 俺が思わず声を荒げると、ワイズリエルたちが、くすくす笑いだした。

 クーラが思いっきり、ため息をついた。

 そして、しばらくすると。

 クーラは(りん)として、こう言った。


「もう、ヤるならヤる、ヤらないならヤらない。ハッキリしてください!」



 それと同時に、激しい噴霧音(ふんむおん)がした。

 首をかしげて見まわすと、ミカンがジュースを噴いていた。

 そして、マリとワイズリエルがスケベな笑みで俺たちを見ていた。

 眉をひそめると、マリはひどくイジワルな顔をして、俺を見ながらワイズリエルに言った。


「あのふたり、セックスの前も、きっとあんな感じよ。前戯(ぜんぎ)のときも、あんなやりとりをしてるわよ」

「ははあッ☆」

 ふたりは俺とクーラをスケベな目で見た。

 そんなふたりにクーラは、


「あなたたちは最低です!!」

 と悲鳴のような声をあげた。

 そして顔をあからめた。

 しかしすぐに可愛らしく、クーラはため息をつくのだった。――





 その後、しばし談笑の後。

 マリが大きく息を吐いてから言った。

「さて。創世も一段落ついたことだし、大団円って感じでめでたしめでたしなのだけど。ねえ、カミサマにみんな」

「ん?」


「もし()かったら、かるく冒険してみない?」

 そう言ってマリは、テレビに映るアダマヒアを指さした。

 そこには雄大なる広大なる荒涼たる大地。

 そしてはるか彼方には、なんとドラゴンが悠然と飛んでいた。



「きゃはッ☆」

 それを見て、ワイズリエルが好奇心に満ちた笑みをした。

「しかたがないですね」

 と、クーラは微笑んだ。その切れ長の美しい目を伏せた。

「やってやンよ」

 と、ミカンが不敵な笑みをした。

 そして。


「まあ、今月の目標のうち『モンスターの観察』は達成できたとは言えないからなあ」

 と俺は言いながらも、自然と笑顔になっていた。

 で。

 そんな俺たちを見て、マリは満ち足りた笑みをすると、ヨウジョラエルに声をかけた。



「ねえ、あなた。もし好かったら、あなたも一緒に冒険しない?」

「……おっ、おにいちゃんお」

 ヨウジョラエルは(おび)えて俺にしがみついた。

 するとマリは穏やかな笑みで、思わせぶりな言葉をヨウジョラエルに放った。


「もし、それがあなたの望んだ姿なら、そしてあなたの望んだカミサマとの関係だというなら、ワタシは邪魔をしないわよ」

 そう言って、マリは手を差しだした。

 するとヨウジョラエルは、ぱっと花が咲いたような、そんな笑みをした。



 というわけで、俺たちは。

 俺の創造したこの『剣と魔法のファンタジー世界』を、しばらく楽しむことにした。――



――・――・――・――・――・――・――

■神となって2ヵ月と30日目の創作活動■


 『剣と魔法のファンタジー世界』の創造がとりあえずの完成をみた。



 ……その後、マリにヨウジョラエルのことを訊いたけど、彼女はただ「ううん、なんでもないの」と言うだけで、なにも教えてはくれなかった。



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