プロローグ
死んだのだと、思う。
いつものように部屋でぼんやりしていたら、突然、視界がまっ白になった。
そして次の瞬間、俺は気を失った。……。
意識が戻ったときには、まっ白な部屋にいた。
床も壁もまっ白だ。
いや、よく見ると壁はない。
あたり一面、まっ白で、どこまでもまっ白が続いている。
そして、目の前には陰鬱なジジイがいた。
ジジイは、まっ白な椅子に座っていた。
ギリシャ彫刻のような渋い表情をしていた。
そして俺を見つめていた。
ギリシャの哲学者には、ホモが多いというが――。
思わず泣き顔になると、ジジイは言った。
「結論だけ言う。世界は滅亡し、おまえだけが生き残った。否。厳密に言うと、おまえだけを、余が拾い上げた」
俺は首をかしげた。
しかし、ジジイはそのまま続けた。
「余は疲れた。だから、これから余の力をすべておまえに渡す。おまえは神となり、世界を創るのだ」
ジジイは、うんざりして言った。
目を逸らし、ため息をつき、また俺を見て、大きく息を吐いた。
ここで俺はようやく声をあげた。
「神となるゥ!?」
声というよりも悲鳴に近かった。
そんな俺に、ジジイはもう一度ため息をつき、そうだ――と、言った。
「俺が神にィ!?」
「それは、すでに言った」
「世界を創るって!?」
「おまえは神となり世界を創るのだ」
「なっ、なぜ!?」
「滅びたからだ」
「はァ!?」
「見よ。この広大な純白がおまえのもと居た世界だ」
「あ"!?」
「20XX年……すなわち今日、世界中に滅びの光が降りそそいだ。あらゆる生命体は絶滅したかに見えた。しかし、人類は死に絶えてはいなかった。余がおまえを救ったからだ」
「ああ!?」
「おまえはこれから、世界を滅ぼした報いを受けるのだ。まあ、その様子だと、いろいろと都合良く忘れているようだがな」
「ああン!?」
なにを言っているのだ、このジジイは。
俺は眉をひそめ、そしてジジイを睨んだ。
すると、ジジイは沈痛な面持ちで、
「よいか」
と言った。
そして、
「必ずや世界を創るのだぞ」
と、低くよく響く声で、念を押すように言った。
俺は思わず、はァっと、息をもらすように失笑した。
するとジジイは、哀れむような、あきらめたような目をして、
「これもまた、人の歩む道か」
と、俺を見て言った。
その言いかたと眼差しに、俺は、ひどく屈辱をおぼえた。
しかし、つかみかかろうとした瞬間。
目の前がまた、まっ白になった。――
目が覚めると俺は、まっ白な空間にただひとり倒れていた。
「なんだよ……」
上体を起こすと、一枚の紙切れが落ちていた。
そしてそこには、
―― 求めよ。さらば与えられん ――
と書かれていた。
俺は泣き笑いの顔をして、若干、不機嫌な声で、
「じゃあ、ワインが欲しい」
と、試すように言った。
すると、じわっと目の前にワインが露われた。
「あ"!?」
俺はそれを見て、しばらく声もなかった。
露われたワインを飲み、本物であることを確かめた。
そして、のどのつまったような声で叫んだ。
「パっ、パンが欲しい!」
じわっとパンが露われた。
「服を!」
じわっと白いローブが俺の体を包みこんだ。
「違う、もっとこう! カジュアルなのを!!」
じわっとTシャツとジーンズに代わった。
いやいや待ってくれよ――と、俺は苦笑いした。
もうちょっとラフなのを――って思ったら、頭に描いた通りの衣服に代わった。
「………………」
俺は、あっけにとられ、しばらく『俺の創作物』を見つめていた。……。
数分にも数時間にも感じる時が過ぎた。
俺はようやく状況を理解した。
それを受け入れ、落ち着きを取り戻した。
そして。
以後、俺は『カミサマ』と名乗ることにした。――