起承
始めまして。
ねこしょーです。
小説の投稿は初で、読みづらくて稚拙な文章です。
ダラダラ長くなって、一話完結にできないくらい、文章構成力ないです。
でも、よければ読んでください。
では、、どうぞー。
『運命…それは過ぎた事象を肯定するための口実として、人が勝手に作った幻想にすぎない』
どっかで聞いたコトがあるような、それでいてないような…そんな言葉が頭に浮かんだ瞬間に…。
ドンッ……!!
【前編】
1.
今日…ってか今さっき俺は交通事故にあった。なんか知らんが死にかけたらしい。
その時に脳の視床下部と小脳に多大なダメージが~、とかなんとか言ってて原因は理解不能で意味不明だったが、どうやら後遺症があるらしい。
今はその後遺症を先生が調べてくれた後で、待合室で結果を待ってるところだ。暇だ。
先生はいつくるんだ?もう3分は待っている。3分21、3分22、3分23…もうすぐで3分30秒だ。いくら心が広くて忍耐強い俺でも、4分待たされたらキレる。キレてやる。
貧乏ゆすりが止まらない。腕を組んで足で地面をノックし続ける。暇だ…。
もういっそ帰るか?俺を待たせたこの病院を某大型掲示板サイトでめちゃくちゃに書いてやろうか。
佐藤は徐々に顔をしかめていった。基本的に人を見下す性格のこの男は、待たされるのが心底嫌いだった。小さな舌打ちをしたその瞬間に先生はきた。
あ、来た。殺そう。
「お待たせしました。えぇっと、これが結果の方で………佐藤さん?どうかしたんですか?」
「…いえ、別に」
…俺は…内弁慶なんだ、くそ…。
「は、はぁ……あ!で、結果なんですけど、よかったですね、脳にあれだけ甚大なダメージがあったにも関わらず後遺症はないようです!」
「…へぇ」
じゃあなんでこの俺を3分51秒も待たせたんだよヤブ医者。まぁ仕方ない。俺は優しく寛大だから許してやろう。
「怪我も軽症で済んだようですが、頭を強く打っていたようなので、一週間ほど様子を見て入院していただく形でよろしいでしょうか?」
「…はい」
入院?…おいおい…入院?初めてだぞ、俺…。
…。
…。
…ワクワクすんなぁ…。めちゃくちゃワクワクすんなぁ~…。
佐藤は少しニヤけた。
「では佐藤さん、病室tag@g#/p'.yb…-<:|%4」
「!?」
なんつった!?…声が…出ない!?頭痛い…!目の前が…暗くなってる!…あぁ!?
死…ぬ……。
…嫌な臭い…。
「〜〜〜〜〜〜〜。〜〜〜。〜〜〜〜〜。」
なんか…言ってる。うるせ。
「〜〜まだ目覚めないのか。」
ここは…病室?
佐藤があたりを見渡すと数人の先生が立っていた。白くて綺麗な病室。手術室とか治療室ってより、昔見たホラー映画の精神病患者が送り込まれた部屋みたいだった。
佐藤が先生に声をかけようとした時、先生が気づいた。
「あ!気がついたんですね!」
「おぉ!佐藤さん!大丈夫ですか!?」
「先生、あまり声を大きくなさらずに…」
「大丈夫ですか!?」
「はぁ…」
明るく目鼻立ちの整ったまだ若そうな青年が佐藤に向かって話している。
おいおい、美人ナースちゃんが困ってんじゃねぇか。うるせー親父(先生)だな。…俺は…イケメンが…イケメンが、ホント~~~にホント〜〜〜に嫌いなんだ…。滅べ…。
決してかっこいいとは言えない容姿の佐藤は、少し不機嫌になった。
「まだ頭痛いですか!?」
「…少し」
「喋れますか!?」
今喋ったじゃん…。
「はい、まぁ…」
「聞こえますか!?」
この親父(先生)…本物のヤブ医者だな…。
佐藤は心中で毒づくクセがあった。
「…はい」
徐々に不機嫌になっていく佐藤を察したのか、ナースが先生に声をかけた。
「先生、佐藤さんが困ってます、質問をやめて下さい。あと、他の患者様もいるので、もう少し静かにして下さい。」
ナイス!美人ナース!
「あ、あぁ…ゴメンよ田中君。…ん!佐藤さん、頭が良くなるまで…いや、原因がわかるまでココで寝ていてもらえますか?」
「…はぁ…」
いろいろと謎だ…。なんか、肩に変な違和感あるし…、ぶつけたのかな…。あ、ヤブ医者親父と美人ナースちゃまどっか行っちゃった。…また暇だ。とりあえずケータイでエロサイトでも見るか。…ナースものでいこう…。
佐藤はスマ〜〜〜〜〜〜トフォンでエロサイトにアクセスした。
「楽しそうだな」
佐藤のベッドの下…ちょうど足元の方から声がした。あり得ない場所からの声に佐藤は驚いた。
「!?…誰…ですか?」
いつもだったら怖くなるだろうが、なぜかこの時だけは自分でも不思議なくらい冷静に声を出すコトができた。
これは幽霊だ…。なぜか自分でもわかる。
「……」
?…俺の声が小さくて聞こえなかったのか…?
佐藤は少し恐怖を覚えたが、もう一度聞いた。
「…誰ですか?」
幽霊は返事をしないのか、と、またも冷静に分析した。まるで自分が幽霊と同じ立場、状況、次元…そう、次元だ。次元が重なったようだ…とかなんとか厨二病患者的な考えをしてるなぁ、幽霊に会える俺かっけーっ!
佐藤は、なにもない、静かな空間では心の中でいろいろ考える癖があった。
「……」
…気のせい…か。頭打ったせいかな。幻聴的な?大丈夫か?俺…。頭おかしくなったんじゃないか?…ハハ…笑えねー。…いや、まぁそんなコトはもう気にしない。俺はこれから素晴らしきエロエロワールドに突入するのだ。くだらん幻聴にかまってられん。…やっぱナースものでいくしかないな…。
「楽しそうだなぁ?」
突然の声に佐藤は驚いた。しかし、佐藤には不気味なほどのポーカーフェースで平気で会話できる能力があった。怯まず億ぜずに先の質問をした。
「…誰ですか?」
返事はない。無表情超真顔イケメソフェイスで佐藤は冷静に対処したが、心の中はぐっちゃぐっちゃに荒れていた。めっちゃ荒れていた。発狂寸前だった。あたふたしてパニクって死んでしまいそうだった。イケメソフェイスに汗が滲む。
ヤバイ…コレはヤバイ…。きっとコレは…この状況は…ホラー的展開になってる…!病院で、しかも入院したてで聞こえた幻聴…。これはイコール死亡フラグ!噛ませ犬役で即死するヤツだ!噛ませ犬(俺)が死んでから主人公がなんやかんやで幽霊病棟を生き残る…そんな展開!死亡フラグ!ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバ…
「おい」
「うわぁ!!」バタバタ…
「逃げやがったなぁ…」
ーーー4階トイレ前ーーー
「ハァハァ…」
もういない…よな?
「どうしよう…」
俺は相手の姿すら見てない。が、ホラー的展開を考えると…トイレの個室に入って「はぁ、もう大丈夫」とかなんとか言って安心した瞬間に後ろからバア!パターン…死亡フラグが確定する…ココはあえてトイレという絶好の隠れ場所を放棄…すぐ隣にある非常口、この外にある階段から下へおりて家に帰る。死亡フラグなんてへし折ってやる…。やだココ…幽霊病棟に入院するくらいなら死んでもいいから家でゲームしてやる。くそ…。この病院マジでふざけんな…。大型掲示板サイトに書き込んでや
「バア!」
「!?!?」
ヤバイ!ヤバイヤバイ!ヤバイヤバイヤバイ!死亡フラグたった!!どうするどうするどうするどうするどうする…!?
心の中ではパニクっていたが、顔には全く出さなかった。それが佐藤という人だった。
「…お前、あんま動じないな、見えてるだろ?俺のコト、なんでそんなに冷静なんだ?」
「…ふっ、お前がくるコトはわかっていたよ」
驚かされたのにスーパーポーカーフェイスのまま固まってしまった佐藤は、それをあえて利用した。佐藤は頭の回転が早い男だった。
やだ、なんか死にたくなった、恥ずかしい。
しかしメンタルはかなり弱い男だった。
俺はただ怖くて声が出ないだけだっただったのに、冷静だとか見えてるだろ?だとか言うから俺の厨二病が出ちゃったじゃねぇか。
「…お前…なに言ってやがる?俺がくるコトが分かってた…だと?ハッタリを言うのもいい加減にし…」
「ハッタリじゃ…ない…っ!」
なに言ってんのぉ!?俺ぇ!!
佐藤の中の意識と無意識が葛藤する。
「どるういう…コトだ?」
「くっくっく…くく…あーっはっはっはっはっはっ!」
「なんで…笑ってやがる?」
もう笑うしかないからでぇーっすっ!…いや、待てよ!この幽霊…驚いてる…?感情があるってことか…。加えて人並みの思考力がある。いかつい男の幽霊だが…もしかしたら切り抜けられる…!!
IQ110の頭脳(平均よりは少し高い)がフル回転する。
「私は…………………」
「……あ…?」
「…私は…神だ…!」
あかぁーん!死にたぁいっ!
「!? なん…だと…!?」
なん…だと…!?だってよぉおーー!ぷぷぷーーーっ!馬鹿だコイツぅ~!馬鹿だコイツぅ~!うぇひひひひひ!え?え?信じてんの?このおバカちゃん。馬鹿だ馬鹿!いや~コイツおもしれぇわ~。
「お前は生前、救われなかった哀れな仔羊…死して尚、僅かな不確かな…そう…希望…」
「俺には希望なんてない。俺は復讐を糧に世にとどまっている。」
めんどくせぇんだよ!コイツも厨二病か!ありきたりな設定しやがって!
心中で毒づくが、合わせようとがんばる。佐藤は周りに流されやすいが、その分、周りと意見を合わせるのが上手な人だった。
「そう!それだっ!復讐、復讐!その復讐という愚かで低俗なくだらん行為に」
「ああ!?なんだと、このやろう!!」
「うわぁあうわぁ!ちょっ!待って、ちょっマジで!ちょっとだけ!聞いて…聞いて下さい!お願いします!」
「次侮辱したら呪い殺すからな…」
もう…勘弁して下さい…あ、やべ泣きそう…あれ?泣いてないよね…?俺。
「どうして…泣いてやがる?お前…!」
あ、泣いてた。
「私は…神だと言ったであろう。お前の過去を…生前の人生を…のぞかせてもらった…」
「お前、まさか本物の…!?」
「俺は嘘を言わない…。グスンッ…ホントに…ズズッ…辛がっだなぁ…」
「……」
さすがにわざとらしいか?…前を見れない…なんで無言なの?
佐藤は不安になった。瞬きが増え、変に唇を尖らせ、下を向いた幽霊(仮)の顔を覗こうと必死になった。
「……」
「……」
さらに不安になった。汗が滲み、目が泳ぎ、若干の腹痛に襲われた。佐藤は緊張するとお腹が痛くなる、そんな男だった。
ヤバイヤバイ…マジギレしてるな…コレは。俺の嘘がばれたか…まぁイイや、もう疲れました、どうぞ殺して下さい。
「……」
「……グスンッ」
!?なに!?え!?待て待て待て待て!この幽霊さん…泣いてる…?おぃぃい!勘弁して下さいぃい!俺が悪かったですぅう!もうめんどくせぇよぉ!いっそ殺せぇ!一思いにぃい!!生き地獄より死んで天国行きてぇよぉ!!
「この世界は…確かに…お前が思うとおり…暗く黒く…切なく哀しく…」
「あぁ…」
「でも……、なぁ、お前も…少しくらいはわかり始めてるだろ?違うって…」
「…あぁ…」
「たくさんの…暴力、理不尽、不条理…そーゆーのが詰まった世界…これは揺るぎない事実…」
「……」
ヤバイ…収集がつかなくなった…。…もうどうでもイイやぁ!なるようになれ!
佐藤は厨二病モードになると頭で考えるより先に、昔見たり聞いたりしたアニメとかのセリフを言ってしまう男だった。
「でも、そんな世界にも…僅か…ホントに少数派だが、正義はある」
「……」
「なにが正義で…なにが悪なのか…わからない、なにも…。ただ一つ、ただ一つだけわかるコトは…」
「もう、イイ」
「……え?」
あ、殺してくれるんですねーありがとーございますー。今までありがとーございましたー。たのしー厨二病を満喫できましたー。冥土の土産にしますー。
「もう…イイから…グスンッ…」
「……?」
…え?…待てよ…コレは…!この状況は…!もう少し…もう少しでフラグがたつ…!
佐藤から殺してほしいという願望は消えた。生き残る可能性を発見したからだ。
「もう…未練は…なくなったよ」
キターーーーーーーーーーーッ!!ふ…いかつい幽霊さんよ、お前には成仏フラグが成立したっ!終わりだあ!!
神も仏も信じない佐藤は、今までのゲームで培った経験則、いわゆる分岐地点で現れるフラグなどをこよなく信じていた。
「そうか…天国で、報われるとイイな…」
……勝った…!
「いや、天国へは行かない…」
「大丈夫、お前なら地獄じゃなくて天国へ」
「いや、そうじゃない」
「……?」
ちっ…なんだこの幽霊…さっさと成仏しやがれ…!
「俺は……」
「……?なんだ?」
「俺は救ってもらったお礼にお前の守護霊になろうっ!」
「……は?」
……前からなんとなく、バカバカしいコトによく巡り合うとは思っていたが…こんなのは初めてだ…。まるで漫画の主人公みたいだ…。
「お前が…守護霊?」
「あぁ、お前を守ってやる。助けてやる。救ってやる!」
…普通…美人な幽霊さんとのドタバタライフとかだろ…。ハプニングエロのオンパレードが俺の人生でレッツパーリィすんじゃないのかよ…。
「と、いうことで!よろしくな!」
ふざけんな。断る。死んでもゴメンだ…。
「……う、うん…」
…俺は…内弁慶なんだ…。
「とりあえずココを出るぞ」
「は、はぁ!?病院だぞ?俺は患者!治してもらわなきゃダメ…」
「イイからいくぞ!」ゾンッ…!
…え?体が動かない…んじゃなくて勝手に動いてる…!?
佐藤は突然のコトに驚いた。
「俺が憑依して操ってるんだ。あ、そういえば、俺の名前は安藤丈太郎。カミサマ、お前の名は?」
あ、神様設定は変わらないんだね。まぁ当然か…。てか、声が少し変わったような…気のせいか…。
佐藤は平気で嘘をつけるキレものだった。
『我が名は…天の神"シユウ"…女神"アイス"と共に鬼神"トラージュ"と死神"ジャッシュ"を倒す為に日夜ジハードに臨んでいる…』
そろそろ自殺したくなってきたあぁああ!恥ずがじぃぃいいああ…!!………でも、まぁ、こんな展開も悪くないかな…。
「…そうか、俺には神の戦いとか…わかんないけど…がんばれよ…シユウッ…!」
俺もわかんないよぉぉぉ…それに本名は佐藤こうじ…普通の名前なのにシユウっておい…。かっこよすぎんだろ…///
佐藤は自分のネーミングセンスに酔いしれた。
『あぁ…この世界に…この世に…俺が、俺が護りぬくと決めた人が、ものがあるかぎりっ!俺は!…負けない…』
「俺に…手伝えるコトはあるか…?」
成仏するコトだよ~成仏してくれるコトが、俺を救う君にできる唯一の手伝えるコトさ~…。
丈太郎は純粋だからか、佐藤のいうコトをなんでもかんでも信じた。それを佐藤は悟っていたのか、嘘がエスカレートしていた。
『お前に…危険なコトはさせられない…』
「…そうか…、…とっ!外に出たはイイが、お前の家はどこだ??」
『あぁ、俺の家は……え?ココはどこだ?わからん…』
「は?あ、そうか、お前は搬送されたのか」
『…あぁ…そうだった…』
そうだ、俺は事故って搬送されたんだ…。いろんなコトが一気に起こりすぎて忘れてた。てか、こいつの頭の中では俺は神様なんだよな?なんで神様が事故ったりしたコトについてなんの疑問も抱かないんだ??バカすぎるだろ…。
佐藤はなんでも信じるこの純粋な幽霊に嘘を吐き続けていることに、罪悪感を感じていた。
「どうするんだ?シユウ」
『どうするったって…あ、一旦体の自由を返してくれないか?』
「なんでだ?」
『いや、あの…なんでっつーか、そもそも俺の体じゃん…』
「あ、そうだな……」
『……返してくんない?』
「……」
『……』
なんで返してくれねぇんだぁあ!?!?どーゆー風の吹きまわしだぁあ!?!?
『な、なぁ丈太ろ』
「すまん」
…え?は?
佐藤は戸惑った。
「実はな、シユウ…俺の憑依能力は霊世界でも指折りでな…一度憑依したらもう所有者の身体が動かなくなるまで出られないんだ…」
『……は?』
「まぁ、だから…つまり…この体は、滅びるまで俺のもの…ってゆーか…」
『…は?ちょちょちょちょちょ!待て待て待て待て!じゃあなんでさっきあんなに軽々しく憑依したんだよ!?』
「それは…」
『……?』
「単純に…忘れてたってゆーか…」
死ねぇぇええええ!なにバカすぎるコトしてくれてんだぁ!?!?てか、霊世界ってなんだぁああ!?なんで当たり前のように話し進めてんだよぉお!!
『…ちょちょちょ、ちょっとまて、まて…じゃあ俺は一生戻れないのか…?』
「まぁ、そーゆーことになるな…」
ふざけんなぁあ!童貞のまま死ぬなんて嫌だぁあ!!
『方法は…戻る方法はなんかないのか?』
「……唯一あるとすれば、俺が成仏するしか…」
『きた!それだ!お前には悪いけど…成仏、してもらおうっ!』
「……俺はあいつに復讐するまで…成仏などしないっ…!!」
知らねぇよぉぉおおおお!!
『え…?でもさっき未練がなくなったって…』
「あぁ…さっきまではそう思ってたんだけどな、いざ成仏となると…復讐を果たしたくなってしまってな…」
うぁぁぁマジかぁぁぁ…。ふむ…やはり状況から考えて…やるしかないか…。
困った佐藤だったが、内心は決心していた。アニメゲーム漫画映画小説の二次元世界の住人である彼が、このようなドラクエ的展開をスルーするなんてありえないのだ。ハナからなにをするから決めていた。佐藤は困っていたフリして、心中では喜んでいたのだ。
『…わかった』
「……?」
『その復讐を完了させよう…』
「え…いいのか…?シユウ、お前、ジハードは…?」
『女神"アクア"に任せるから大丈夫だ』
「……女神"アイス"じゃなかったか?」
『……女神は…双子だったんだ…』
「なに!?その話し、く、詳しく教えてくれっ」
『いや、もうイイからこの話しは…』
「聞かせろって!」
佐藤は嘘をエスカレートさせすぎて、自分でいったことを忘れてしまっていた。佐藤はまた嘘をついた。
どうしよう…。…よし、ビビらせるか…。
『……あれ、女神ってさ、プライベート話されると怒るんだよアイツら…』
「な…そうなのか?」
『うん…“マジキモいんですけどー、てゆーかマジ死んでくんなーい?、あれー?なんだかこの辺臭いなー!皆ー、臭くなーい?あ!丈太郎だ!アイツが臭いんだー!くっさ!くせー!マジ死ねよー…。うぜぇ…。くせーなぁ…死ーねっ♪!死ーねっ♪!死ーねっ♪!”』
「………………」
『………………』
「………………」
『……どうだ?これが女神の本性だ…』
「嘘だろ…こんな今時の女子高生みたいな…」
『これでもまだ聞きたいか?』
「いや、もう十分だ…」
丈太郎は本気でビビった。
『じゃあ話しを戻すぞ?お前の復讐相手について教えてくれ』
「俺の復讐相手の名は金田 股郎。悪質詐欺グループの親玉だ…」
『…なんで復讐を?』
佐藤は厨二病モードになった。
「……そいつに…騙されて、俺の、家族…俺の家族みんな!俺の大切なもん…!みんなみんな…!あいつが…あいつが全部壊していきやがった…!」
おぉっと~、なんだか思っていたよりもずっと壮絶な過去っぽいぞ~。
『…どこにいるんだ?そいつは』
「東京都☆☆☆市東町○-○○-○だ」
『…え?ずいぶんと細かくわかってるなぁ』
「生前に一度、復讐の為に会いに行ったからな」
こいつ、もうすでに復讐やったんだ…。なんか、すごい大変な過去ってコトはわかったけど、なんかワクワクするぜっ!不謹慎?好奇心に勝る事柄なんて存在しないわ!
佐藤は昔からヒーローや勇者、革命家や救世主などに憧れていた。それゆえか、この一般ピーなら焦り戸惑うこの状況をむしろ楽しんでいた。
『その時、お前はどうなったんだ?』
「……死んだ」
『!?』
「話しをして、警察に言うぞとかって脅してたら突然ナイフで…」
『……ちょっと待て…お前はその復讐をしなきゃ成仏しないんだよな?』
「……?さっきも言ったじゃないか」
『…今から復讐に行くのか?』
「早く体を取り戻したかったら今すぐにでも」
『…その復讐に行ったらさ…俺の体…死ぬんじゃね?』
「あ、たしかに」
ヤバイヤバイヤバイヤバイ!八方ふさがりじゃねえか!体を取り戻したいけど、丈太郎が成仏しなきゃいけない。丈太郎を成仏させたいけど、復讐を遂行しなきゃいけない。復讐を遂行したいけど、復讐に行ったら俺の体はナイフでグサリといかれて死ぬ。詰んだ…。どうしよう…。
佐藤は先ほどのように楽観的にこの事態を楽しめる状況じゃなくなった。かなりの焦りと恐怖を感じ始めていた。
「シユウ…復讐にいこう…!」
『…………は?…お前…自分で何言ってんのか、わ、わかってんのか!?殺されんだよっ!お前は…お前はすでに、し、死んでるからいいけど…俺は!生きてる…!お前の、お前の、その…身勝手!身勝手な復讐なんかのた、ために…なんで!』
「……」
『…くっ…!なんで!なんで俺が…死ななきゃいけないんだよっ!くそっ…くそっ…!ふ、ふ、ふざけんなっ…!』
佐藤は柄にもなく震えていた。
「大丈夫だ…」
『……あぁ?…何言ってんだよ…!さっきから!てめぇの復讐くらい…てめぇで、な、なんとかしやが』
「お前は神様だ」
『…は?』
「だから大丈夫。死なない」
佐藤は硬直した。そしてすぐに丈太郎がなんでも信じてくれているコトに若干の感動を覚えた。
…コイツ…さっきから、俺が神様じゃないって感じのコトばっか言ってんのに…それでも、まだ信じてたのかよ…。
「シユウ頼む!俺のために…手伝ってくれ!この…くだらない俺の…小さな、復讐劇を…!!」
思えば…俺の日々は虚無だった…。俺にはなにもない…取り柄は?地位は?名声は?…なにもない…特技もない。趣味もない。
「シユウ…頼む…!」
親からもつまはじきにされ、学校でも穏便に目立たないように暮らし、社会に出てからはどんな仕事もロクにできなくて…すぐにリストラ…。
「シユウ…シユウ…お願いだ…!」
なにもするコトがなくて、毎日パチンコとかしかしてない…最近はそんな毎日だ…。誰からも必要とされない…社会のゴミ…身内の恥…。不必要なクズ人間…。だが、今は?
「シユウ…」
『………』
「俺には…お前が必要だ…!!」
俺を…必要としてくれる人がいるっ!こんな幸せなコトがあるか!?俺は…俺を必要としてくれる、現状、唯一の友達のためなら、喜んで死んでやらぁ!!
厨二病モードが発見した。
「シユ」
『じょ…』
「え??……」
『…上等!』
「…シユウ?それは…OKってコトか?」
『…くっくっくっ…無論っ!友達のためなら喜んで了承だっ』
どうせ生きてたって誰も気に留めないんだ!そんなもん、死んでんのとなにが違うんだよ!今までも死んでんのと同じようなもんだっ!!復讐上等!死ぬ気でやってやらぁ!
「友…達…?」
『……あぁ…丈太郎、俺とお前は…今から友達だ!』
なんか、厨二病が再発した気がするけど気にしないっ気にしないっ!
佐藤は自分が厨二病であることに気づいた。
「なんで…?」
『………え?』
「どうして見ず知らずの俺…すごく、すごく…迷惑ばかりかけてて、それどころか…シユウにとって損しかないのに…」
『…へ…俺はさ…困ってるヤツを、なんつーか…見過ごせないんだよな~…』
「…シユウ…」
…俺かっけ~!かっけ~かっけ~かっけ~!主人公気分なーう!
『…さぁ!いつまでもグダグダするのもアレだし!いこう!』
「え?ホントに…ホントにいいのか?」
『Sure!全人救済!俺は天の神!メシア!ヒーロー!革命家!』
完全に厨二病患者です、はい。
「…お前に逢えて…ホントによかったぜ…!」
『…はは!よし!さぁ行こうじゃないか!』
「おうよっ!タクシー拾うけどいいよな?」
『あ、え?タ、タクシー?高くね?』
「今はそんなコト気にすんなよ!な!天の神"シユウ"!!」
『……あ、あぁ…あぁ!そうだな!』
「よし!んじゃタクシー待つぞ~」
『あ、医者にバレる前に乗らなきゃ面倒なコトになるな…』
「そうか!………まだこないな…」
『………………だな……』
「…………」
『…………』
間がかなり空いてしまっている。佐藤はだんだんとテンションが下がってきた。冷静に考えたらなに一つ佐藤は悪くないのだ。それなのにこの状況に陥ったコトに対して、誰にぶつけたらイイかわからぬこの不満を、ただただやり場もなく持て余すのだった。
「…………」
『………あ!きた!』
……なんか…ヒーロー気分が冷めてきた…、ヤバイ…やめたい帰りたい…。
「どちらまで?」
「東京都☆☆☆市東町○-○○-○です」
「…は?」
「いや、だから東京都☆☆☆市東町○-○○-○ですって」
「……わかりました…」
なんだ?この反応…。まさか…。
『……な、なぁ丈太郎…』
「……ん?」
『ここは…何市だ?』
「俺が死んだのは確か東京都**市の病院だったな…」
『は!?☆☆☆市と**市ってめちゃくちゃ離れてんじゃん!☆☆☆市で復讐相手に殺されたんだろ!?なんでそんな遠くに!?』
「…俺は、刺されてすぐには死ななかった…いや、相手が…殺さなかった…」
『……お、おう…それで?』
「めちゃくちゃ…血が出ててさ…徐々に意識が遠のいてくのが、わかるんだ…。」
『………生々しいな…』
「…相手は俺を…わざと死なないギリギリまで放置した…、そんで、そろそろ死ぬなって時に俺を遠くの病院まで運んだんだ…」
『…殺人の、隠蔽工作か…』
「あぁ…、そして病院についた時には俺はほぼ意識がなくなってた…。それでも踏ん張って生きて、病院から出てきた院長っぽいやつと金田とが会話していた内容を盗み聞きした…」
『ワイロだな…?』
「…そうだ…院長に渡した額はおおよそ2000万…イカれてやがる…!そうして俺は事故死ってコトで片付けられた…」
『…そうか…、あ、でも!刺し傷を見れば誰だって気づくだろ!事故じゃないって!』
「それすらも院長と金田は考えていた…。俺をすぐには運ばず、死ぬ寸前くらいまで放置したことで…」
『…刺し傷の確認をする前に、普通の医者達に【丈太郎はもう助からない】ってコトを認識させたんだな?』
「あぁ、見せつけるように死に顔を見られた…ふっざけんな…!くそっ…!」
『そうするコトで【事故だし死んでしまってるし確認しなくていい】ってゆー風になったんだな…。それにしてもおかしい点はいくつかあるが…、それは多分…』
「あぁ…お察しの通りだ…金田のワイロで黙らされたんだろう…」
…き、金田って…めちゃくちゃヤバくないか…?殺人すらなかったコトにする圧倒的財力と、平気で殺人を犯す非人道的な人格…。俺なんかになにかできるのか…?
『な、なぁ…丈太郎、一つ聞いてもイイか?』
「?なんだ?」
『…なにか…なにか勝算、というか…勝ち目とかはあるのか?』
「……ない…」
『は、はぁ!?…死ぬ!また…死ぬ!それじゃあ…!』
「確かにな…」
『確かにって…お前はイイよ!すでに死んでるから!…お、俺は!俺は!…俺は…』
「…………」
『……くそ…』
どうする…!?なにもなしでは勝てない…!確実にだ…。…あれ?ちょっとまてよ…?
『なぁ、丈太郎?』
「…ん?」
『関係ないんだが少し疑問に思ったコトがあるんだが…』
「なんだ?」
『俺の声は外部に漏れてるのか?』
「……さ、さぁ?」
佐藤は試してみることにした。
『…………運転手さぁぁあん!!運転手さあんんんん!!うーんてーんしゅさーんっ!!うぃんてゅうぇんしゅすぁぁあんっ!!!』
「…………」
「…………」
『…………』
「……満足か?」
『………あぁ…』
異常に恥ずかしくなり死にたくなった。
…しかし…俺の声は丈太郎と交信する以外はできない…。ふむ…これは使えるぞ…!そして、丈太郎と俺の共通感覚として、視覚、聴覚、嗅覚、あと…。
『丈太郎、今から自分の手をつねってくれ』
「な、なんで?」
『俺とお前の共通感覚を調べるためだ』
「了解……」ギュっ………!
『って!ちょちょちょちょ!』
「……」ギュゥゥゥゥ…!
『まままままてて!まて!ちょちょちょ!』
「………ニヤニヤ」ギュゥゥゥゥゥゥウウ…!
『おい!たいたい!いてぇ!ちょっ…!ま…!まじでっ…!まじまじ…!だあ!』
「おお、触覚も共通なんだな!」
『…………ぁぁ…』
「でもホントに共通なのか…?」
『…?なに言ってんだ?』
「どうやら完全に共通ってわけでもなさそうだ…」
『………さっきから違和感があったんだが、やっぱりそうか…』
「歩いてる時も違和感があったし…、一応俺が思うところでは、肩から指先までと太ももの付け根から足先までは、俺に感覚がない、動かしてる自覚はあるんだがな…。その他は基本的に共通しているな…味覚はわからんが…。」
『え…やっぱお前は手足の感覚がないの?』
「あぁ…これはまずいな…なんだか常に浮いてる感じだ…」
『俺からは手足に命令を出しても動いてくれない…ってコトは痛点、圧点とか冷点、温点とかだけ俺のもので、動かすための神経とかは丈太郎のもの…か…』
これって俺だけ損じゃないか…?
「ふーむ、動きづらい…」
『丈太郎、俺が今持ってる物を全部出してくれ』
「作戦を練るんだな?了解だ」
『………』
「………」
『……どうだ?』
「シャーペンの芯…HBとBの、0.5の芯ケースが二箱ずつ…」
『…あぁ、そういえば文房具を買いに行った帰りに事故ったんだった…』
「……イイ作戦、思いついたか?」
『…………』
「……まぁ、頑張ろうじゃないか」
ーーー約40分後ーーー
「もうすぐだぞ、シユウ」
『……あ、あぁ、ここか』
「…寝てた?」
『…すこしな…』
え?今何時?時計…あ、14時か…。
車の時計に目をやって時間を確認した。
「お客様、着きましたよ」
「あ、はい。何円っすか?」
おいおい、高すぎたら払えねえぞ…。
「えぇっと…9710円になります」
「…え?」
『…え?』
シュッ!バンッ!ゴキッ!!
「…これでよし…!」
『なにしてんだぁぁああ!?!?』
突然殴って気絶させるとか何考えてんだよこのばかがぁぁあ!!
「………」
『おいいいいいいっ!!こんなコトしてイイと思ってん』
「金がない…」
『……は?』
「けど払わなきゃいけない…」
『………』
「けど払えない…」
『………』
「…なら、払うべき人を消し去ろう!」
『あったまおかしいんじゃねえの!?!?このバカっ!!!!!』
「まぁまて…、俺が何も考えないでこんなコトやるバカだと思うか?」
『世界一のバカだと思う』
「今から金田を捕まえて警察に送る…」
『そうだな世界一のバカ』
「その前に…」
『………?』
「その前に、金田の金庫からお金をちょうだいする…!」
『お前…天才かよ…!!』
「へ…行こうぜ相棒!目が覚めて通報される前にさ!」
『あぁ…!5000万くらい押収できるといいな!』
そーすりゃ今までの苦労もすべて忘れられるくらい遊べるよ~~!!エッチな本を買って、エッチなビデオ買って、エッチなお店行って…スゥぺシャールライフ!ひゃっふ~!
「…シユウ…なにニヤニヤしてるんだ…?」
『……身震いが…止まらなくてな…!!』
俺はどーゆーキャラでいけばいいんだ…?
「そうか、勢い余って殺さないようになっ」
『…………』
「…………(期待に満ちたキラキラお目々)」
『……あ、ああ!神の力を…見せてやるよ!!』
「よし、じゃあ乗り込むぞ!」
2.
かなり大きめの一軒家。庭がかなり広い。季節が夏なためか、庭においてあるベンチで一休みしたい気分になった。だがそれは叶わない。なぜなら…
『あのベンチにいるのが…』
「そう、金田だ。」
大きなベンチに一人で、アロハシャツを着ながら座っている。大柄というよりはただ太っている感じだった。口は小さく目はもっと小さかった。鼻と耳が大きいバランスの悪い顔立ちだ。
あいつ…ブサイクだな…。
佐藤はにやけながら思った。
「………」
『…え?じょ、丈太郎?』
丈太郎が徐々に顔をこわばらせていった。やがてその顔は、怒りと恐怖を表すかのように汗を滲ませた。
「ふーっ…ふーっ…こ、ふーっ…殺して、やる…」
突然丈太郎が走った。
『ま、まて!まて!ばか!』
豪邸の大きな門を飛び越えて、一直線に金田に向かっていった。
「殺す…殺す…!」
『ばかやろう!だ、だめ!死ぬぞ!死ぬ!あいつの、あいつの家の中に、人!人がたくさんいんだろ!おい!』
「ふんふふーん……ん?」
鼻歌を歌いながらブランデー片手にいい気分の金田は、突然向かってくる男に気づき驚いた。
「な、なんだ、なんだ!?」
『やめろ丈太郎!戻れ!』
バキッ!!!
「ゔぇっ!!」
佐藤の声は少し遅く、金田は醜い声を発して地面に倒れた。丈太郎はそのまま馬乗りになり首を絞めた。
「殺す…殺す…殺すっ!」
「……か…は…」
「死ねぇ!!死ね!死ねっ!!」
「だ…だれ…だ…?」
『やめろ丈太郎!後ろを見ろ!!』
佐藤も後ろは見えてなかったが、確信できることがあった。金田の手下が金田を助けにきているはずだ。その予想は…正しかった。金田は、血管が浮き出て目は虚ろになり涙が溢れ、だらしなく口を開けていた。もう一息で殺せる…!丈太郎がそう考えた刹那、後頭部を殴打された。
『いって!!』
「な…!?」
そしてそのまま倒れた丈太郎は、口にハンカチを当てられ眠らされた。
「あいつは誰だぁ?」
「わかりません。おそらく、金田様の"解消"の被害にあった者の親戚かなにかでしょう。いずれにしろ金田様にかなりの恨みがあるのは確かなようです。」
「ふむ…そうかぁ。それは残念だ…。」
大きな一軒家のリビング。そこに4人のスーツ姿の男とアロハシャツの金田がいた。金田はソファにだらしなく座っていた。
「あいつをココにつれてこい」
「はい。」
金田がスーツ達のうちの一人に命令をした。そして奥から丈太郎、佐藤がつれてこられた。
「ん〜〜!んっん〜〜!!ん〜〜〜〜!」
『丈太郎、落ち着け…』
「ふむ…威勢がいいなぁ…」
丈太郎は口を布で結ばれて、椅子に固定されていた。
バチンっ!!
「っ!」
『いてっ!』
「うるせぇよ…」
金田は不意に叩いた。恐怖のあまり丈太郎、佐藤は震えて目には涙が浮かんでいた。
ふざけんな…。ふざけるなよ…!なんで、なんで俺がこんな状況に…!ざけんなぁ…!
「さっきまでしゃべってたのにどうしたぁ?あぁ?」
バチンっ!!バチンっ!!バチンっ!!
「っ!んっ!!~~っ!!」
『いてぇ!くっそ!くっそ!』
「ちっ…こんなやついたぶってもなにも楽しくなんかねぇよ…」
大男…筋肉より脂肪が多いといったこの男、金田。しかしそれでも、身長201cm、体重198kgの体格の人に、全力で平手打ちを顔面に受けるのは相当キツイ。口内はグチャグチャに切れて血が溢れた。左目は腫れ、涙が浮かび、充血していた。
このままじゃまずい…死ぬ。殴られて死ぬ。くそ…いやだ…!
「お前ら…アレ持ってこい…。」
「アレとは…」
スーツ男の一人は、"アレ"が何を表すのか察していたが、ホントに使うのか、というニュアンスで聞き返した。
「アレはアレだよ。わかんだろぉ?あぁ!?」
「は、はい!」
スーツ男は"アレ"と呼ばれるなにかを取りにリビングから離れ、二階へいった。
『な、なんだよ…アレって…!』
「苦しそうだなぁ?おい?」
「ん~ん~!!!んっ!!ん~っ!」
「うるせぇよ!」
バチンっ!!
「んぉ~…」
『いってぇ…!』
ヤバい…もう…死ぬ…。このまま嬲られて殺される…。
『……………』
「待ってろよぉ…なにもしゃべんな。うるせぇからよ…」
『………もう、いいよな、丈太郎…」
「……?」
『金田、俺の声は聞こえてないだろうが…早く殺してくれ…。』
「ん!?」
『丈太郎しゃべんなよ!!』
「あぁ?うるせぇんだよ、てめぇ。次しゃべったら殺すからな…。」
『…もう…これ以上…苦しみたく、ないんだ…』
「……………」
丈太郎は悲しんでいた。シユウをこんな目に合わせた引け目と、神なら大丈夫だと無鉄砲に突っ込みシユウに頼りっきりになっていた自分が情けなくなったからだ。結果としてシユウこと佐藤は自ら死を望むほど追い込まれてしまった。もう、佐藤には戦う気力もなかった。今まで味わったコトのない恐怖と絶望感に苛まれ、なにか考えるコトさえも苦しくなってしまっていた。諦めたのだ、この男は。生きるコトを、考えるコトを。
「持ってまいりましたっ」
「おせぇなぁ!!」
「も、もうしわけありません…!」
「まぁイイや。実際に生き物に使ってみるのは初めてだしな。俺は上機嫌なんだ。」
なんだ…?なんだ、あれは?………いや、よそう。考えるな…。もう…いいんだ…。
持ってこられたのは長い筒状の棒と、その棒よりは短めの袋のようなもの。棒は子供がよく遊んでいるチャンバラで使う、丸い感じの刀みたいなやつだ。ただし少し違うのが、柄の部分に謎のスイッチがあるコト。
「さぁてと、さっそく使ってみっかぁ」
そう言って金田は袋から、かなり細い長めの針のようなものを出した。それを棒の後ろからセッティングした。
「歯ぁ食いしばれぇ…っていっても口塞がれてっから無理かぁ」
なんだ…?なにをするんだ…?くそ…くそ…くそ…!!……ただ、一つ言いたい…、口を塞がれてても歯を食いしばることくらいはできる…。このばか…。
「…いくぞぉ…」
謎の棒を丈太郎、佐藤の左手に当ててスイッチに手をかけた。
「3……」
『ま、まてまてまてまてまて!!』
「ん~!ん~!」
「2……」
『ちくしょう!ちくしょう!ふ、ふざけんな!」
「1……」
『うぁぁああ!!!!』
「んんんんん!!!!」
「0!!」
ドンっ!!!!
『っ!!!うぁああぁあぁぁ!!!あっぐ!ああ!!ぁぁぁ…!ぐぁぁぁ…!』
「んん?んんん?あれれれれぇ?痛くないのかぁ?お前…」
手足の痛覚は佐藤にある。丈太郎はまったく痛みを感じていなかった。スイッチを押されたコトで棒からはその長い針が放たれた。それをくらって痛がりもがき苦しむ丈太郎を見たかったのだろうが、丈太郎には痛覚が共有されていなかった。
『あ…熱い…!熱い熱い!』
「痛くないはずないんだけどなぁ…。この針には毒が塗ってあるしよぉ…。」
「…………」
ドンっ!!
『おぉぉおおぉぉお!!!うぁぁ…ぐぅ…!ああぁあぁ…!!』
「あぁ~?なんで?なんでなんでなんで?」
「………………」
「……はぁ…つまんねぇ~~よぉ~~~」
金田は飽きたかのように棒を投げ捨て、そのまま庭へ行ってしまった。後からスーツ男が丈太郎、佐藤をどうするか聞いたところ、地下室で監禁するとのことだった。丈太郎、佐藤は地下室へと連れていかれた。
これは…また白い部屋か…。だけど、病院の時みたいな綺麗な感じじゃないな…。所々カビが繁殖してるし……、あれは…血か…?血で部屋が汚れてやがる…。このままココで死ぬのか…俺は…。
「スーツ男たち…みんな行ったようだな…」
『……………』
「見張りがないのは好都合だ。頑張れば抜け出せる。」
『……………』
「ドアには…多分、外側からかなりのロックがかけられているだろうな…」
『……………』
「なぁ、シユ」
『うるっせぇんだよっ!!!』
「…え…?」
突然の咆哮に丈太郎は驚き戸惑った。
『ふ、ふ、ざけんな!ふざけんな!お前は!お前は…一度…!し、死んでる…死んでんだ!』
「……シユウ…」
『今…!今殺されたら…じょ、丈太郎…!お前だけじゃなくて…俺も死ぬ!と、当然だが、死ぬ…!』
「……………」
『死にたくねぇ…!ふざけんなよ!ざっけんな!なんで…』
佐藤は興奮して叫び続けた。しかし、それは自明の理であったのだ。厨二病患者故の主人公気分テンションだけでここまでやってこれた、それだけでも常軌を逸している。まともな人間では、発狂したりして最低限、丈太郎とコンビになろうとは考えないだろう。佐藤は常人ではない。だがしかし限界であった。
『どうして…どうして俺が!俺が死ななきゃなんねぇんだ!?おかしい…お、おかしいおかしいおかしい!』
「……………」
『くそ!くそ!くそくそくそ!くそぉおおぉおおお!!!』
「……………」
『はぁ…はぁ…はぁ…、くそっ…!』
「……シユウ、ちょっと聞いていいか?」
『…………あぁ?』
「好きなマンガ…いや、オススメのマンガとかって、なんかあるか…?」
『……………は?』
呆然唖然。当然ながらすぐさまの反応はできなかった。
「いや、だから…オススメのマンガ…」
『…え……いや、…え?は?』
佐藤の頭は真っ白になっていた。
「いいから教えてくれよ。聞きたいんだ」
なにが言いたいのか、なにがしたいのか、佐藤にはなにも理解できなかった。
もし、まだ復讐を果たそうとしたいのなら、俺自身に体の操縦権はないのだから勝手に動かしていけばいい。俺がなにを言おうがなにをしようが体は丈太郎の支配下なんだし。もしこれから俺を説得するつもりなら、それこそ意味がわからない。俺の存在価値、必要性、今現在この状況において、なにもないはずだ。
『……最近は、カイジとか…かな。』
「………カイジ?」
『…お前まさか…知らないのか?』
「知らないけど…」
『はぁ!?はぁ!?まじか!お前まじか!』
「え、え?知ってなきゃいけないの?」
『当然だろぉがっ!ばか!』
「……なんか…ごめん」
『………いや、ごめん…こっちこそ…。なんか、ムキになっちゃった…』
「……うん」
『そ、そうだ!今度読ましてやるよ!』
気まずいムードを断ち切るために佐藤は必死だった。
「ほんとか!?めっちゃ読みたい!」
『あぁ!もちろんっ!すんげぇおもしろいから!』
「じゃあよ、生きてココを出なきゃな」
『!!……』
わかってた…こいつが俺を説得するつもりだったことくらい。でも…雑じゃね…?
こんな理由付けで常人なら説得されるはずがない。だが、相手は奇人変人、他に類を見ない圧倒的厨二秒患者、佐藤だ。頭の中では丈太郎を馬鹿にしているが、それでも納得してあげる。自分が一番大馬鹿であるとは気づく余地も知る由も無いだろう。
『あぁ…そうだな。』
「!シユウ…!やった…!やった…!!」
『なぁ、丈太郎、一つ聞かせてくれ』
「ん?なんだ?」
『どうして俺を説得したんだ?』
「………え?」
『体の操縦権はお前にある。俺が納得しなくてもお前が自由に動かすコトはできたんだ。なのにどうして?』
「……うーん、なんてゆーか…」
『…………』
「……さあ…?」
『ん、はぁ!?』
「なんか……なんとなく…」
『…そうか…』
納得してなかったが、聞いても答えが出なさそうなので聞くのを諦めた。
「まあ…いいじゃないか、んなこと。それよりココを出る方法を考えよう」
『そうだな。しかし…』
先ほどから少し考えたりはしていた。しかし、なんの答えも出なかったのだ。この部屋にあるのは電気スタンドとドアのみ。外が明るいのか暗いのかも知ることが出来ない。窓がないからだ。真っ暗な部屋にスタンドライトの灯りのみという状況。かなり暗い。また、両手両足は強く縛られていて、自由なのは口くらいだ。部屋は4畳半くらいの正方形の床と、170cmくらいの身長があれば背伸びすれば上につくくらいの低い天井。持ってるアイテムは…。
『シャーペンの針だけでどうしろと…?』
そもそもドアがどのくらい強く閉ざされているのかもわからない。ドアノブが無い、珍しいドアだ。初めて見たぞあんなの。多分、外側からしか開け閉めができない…のかな。くそ…。
「…っ!この…!」
『いててててっ!…な、なにしてんの!?』
「両手両足を自由にしようと思ってな。とりあえず力任せにこの縄を解こうとしたんだが…」
『痛いのは俺なんだよ!力任せにやって脱臼とかしたらどーすんだ!?』
「あ、すまん…」
…しかし…これでハッキリした。手の縄は自分では外せない…。多分、足も同じくらい強く縛られてるだろうな…。これ、詰んでないか…?
『……………』
「……………」
『…………丈太郎』
「あ!なんかひらめいた!?」
『ダメだ…なにしても逃げられそうにない…』
「……やっぱりか。そんな簡単に出られるはずないもんな…」
『………くそっ……』
せめてなにか…小さくてもイイ…、どんなに些細でもイイから…手がかり足がかりが掴めれば…!!
イタズラに時間だけが過ぎていき、丈太郎はなにもしないよりはマシだと思って、ひたすらにこの状況下を分析していた。
「……床も、白いタイルが敷かれてるだけか…、壁も天井も床も真っ白とは…。なんっつーかイヤだなぁ…」
『…………あぁ…』
「小さい電気スタンドがあるのが唯一の救いだな。アレがなかったら真っ暗だった」
『…………あぁ、そうだな…』
「音楽の一つでも流してもらいたいもんだぜ…。こんな時に聞こえるのは金田と部下の、クソッタレなくだらねえ会話とはよ…」
『……………え?…は?』
「…え?なに?」
佐藤は驚いた。当然のことだった。佐藤には会話など聞こえてなかったのだから。
『じょ、丈太郎、会話が聞こえるのか?』
「え、いや…今も普通に」
『聴覚…まぁ、限らずに感覚すべて、共通はしているが、差はあるんだな…』
「あぁ、そのようだな…」
『………今、金田はどんな会話してる?』
「えっと、さっきまでは金田の…部下?みたいな奴らに針に付けた毒が本物かどうか検証させてたみたいだ。今は…関係ないな。おろしハンバーグがどうとかこうとか言ってやがる」
『…呑気なやろうだな…』
佐藤はかなり考えていた。突破口。例えて言うなら針の穴程の突破口を探していたからだ。だが、至極当然、見つかりようもなかった。通常こういう場面において、相手が圧倒的優位にあり自分が絶望的立場にあった場合、相手は基本的に油断している。それが仇となり裏をかいての逆転が狙えるコトが多い。コレが、弱い自分vs強い敵で戦う際の唯一の勝ち方と言えるだろう。しかしそれはあくまでも、鼠vs猫で、いわゆる「窮鼠猫を噛む」というような状態のコトを言っている。だが、現状はまったく異なっている。例えるなら蟻vs象。蟻が必殺の最終兵器、奇襲を兼ねたリーサルウェポンである「蟻酸を用いた大顎攻撃」を使っても、象にはまるで効果がない。それはもはや油断が仇となるとか、奇襲、闇討ち、裏をかくとかでどうにかなる問題ではなかった。故に、考えに考えた末に思いついた、佐藤の決死の策は…
『………ふむ…よし…』
「ん、きたか!」
『…諦めよう』
「…ん…は!?」
『いいから…あ、あと一つ。これからここを出るまで、俺が"スピーク"って言ったら、俺が話したコトをそのままリピートして話してくれ。"リッスン"って言ったら、今度は俺が言うコトを黙って聞いててくれ。いいな?』
「え、あ、わかったけど…なんで英語なんだ…?」
『……かっこいいから…』
「……………そうか…」
『ま、まぁ!そーゆーこった!とりあえず今は俺が言った通り諦めよう』
「………わかった」
…しかし…これで正しいよな…?くっそ、最善の策が諦めってどんだけ追い込まれてんだよ…。
佐藤にはこれしか思いつかなかった。手足を縛られ動けなくて、敵は何人もいる上にまともに1対1で戦ったとしても勝てるような相手じゃない。故に佐藤は待った。なにもせずにただひたすら待つことにしたのだ。
『あ、丈太郎、聞こえてきたコトは全て俺に教えてくれ。できるだけ要約してな』
「あぁわかった。……今はなにも話してないみたいだ」
『…そうか』
佐藤には一つだけ、予想ではなく確信的な変化が起こるコトがわかっていた。最初に事故にあって起きてから、その時は服装はなにも変わっていなかった。次に診察後に倒れて起きた時、服装はなにも変わっていなかったが、服のしたの肩の部分に違和感があった。まったく気にしていなかったが、そこには数字が書かれたバンドが巻かれており、書かれた数字は患者ナンバー、これはおそらく精神病院とかで患者が暴れて逃げ出したりした時のための予防だろう。その証拠にバンドはどういうつくりなのかわからないが、これだけ暴れたり殴られたりしたのに取れないし、出っ張った一部分からは微妙な電子音が流れ続けていた。注意深く耳を澄まさなければ聞こえない微弱な音だが、丈太郎には聞こえていないようだった。人によって聞こえにくい周波数があるというが、それは事実のようであった。
『…………』
「………な、なぁ、シユウ…?」
『…ん?なんだ?』
「……ホントに…なにもしなくていいのか…?」
『……………』
それは俺も不安だよ…、でもできないだろ…。なにも…。
「な、なんかしないと……なんかジッとしてたらマズイような…、なんてゆーか…そんな気がする…」
『……………わかってる…けど…』
……無理だろ…。なにもできない…。てかそもそも、なにかできることがあったらもうやってる。
佐藤は考えた。答えがないと思いながらも考え続けた。
「…………待つしかないか…」
『…………』
電気スタンド………。
「………待つしか…」
『…………』
病院の先生………。
「……………くそ…」
『…………』
シャーペンの針………。
『…………あ?』
「え、ど、どうした?」
『……これか…?』
「は?え?な、なにが!?」
これが…突破口…か?
佐藤は熟考した。見つけた小さな小さな糸口。それを生還というゴールと繋ぐ。
『………きた…』
「……え…え?え!?」
『…丈太郎、ポケットの中にシャーペンの針があるよな?』
「あ、あぁ…でも、どーすんだ?」
『とりあえず、電気スタンドのコンセントが繋がれてるとこまで行ってくれ』
「…わかった」
手足が縛られており、非常に動きづらかったが、芋虫のような進み方をしてなんとかたどり着いた。
『…手が前で縛られてるのが不幸中の幸いだな…』
「…そうだな。んで、どうするんだ?」
『針を出して手で持ってくれ』
「…?…わかった」
丈太郎は素直に言われた通りにした。
「…………む…と、取りづらいな…」
『……できたな』
「え?…あ、そうか、感覚はシユウにあるからわかるのか」
『あぁ…それをコンセントを差し込む所と、コンセントのプラグの間の部分の上でかまえてくれ』
「…え?どういうこと?」
『コンセントの隙間、感電する部分あるだろ?その上でシャー針が床と並行になるようにかまえてくれってことだ』
「おぉ、そーゆーことか、わかった」
『…………よし』
「うん、よし………」
『…あとは、待つだけだ』
「結局さっきとあんまり状況変わってねぇじゃねぇか!」
『いや、これでOK。あとは…』
「……?」
『丈太郎、お前の耳が頼りだ』
「…え?」
『金田の家にチャイム…ピンポンが鳴ったらシャー針を落としてくれ』
「………なにがしたいかよくわからんが…まぁ、シユウ!信じよう!これから金田のいうコトを一応喋ってくからな」
『よし、サンキュ!』
シユウの作戦。状況打破の必殺技。いわゆるウルトラCの準備をしてからおよそ20分の時が経った。5分待ったら奇跡って感じの男には超苦痛であった。
まだか…長いなぁ…。ひま~…。一人しりとりしよう。しりとり、リップ、プリケツ、つり目、めしうま、○○○、コン○ーム、無修整、陰茎、淫靡、卑猥、イ○ポテ○ツ、……つ?……"つ"でエロい言葉…しょうがないな……土、ち○こ、コ○ドーム、あ、○ンドーム二回言っちゃった。"こ"…なんかエロいのあるか…?こ…こ…
「さっきからあいつ…独り言をよく言うなぁ…、やっぱり頭おかしいんじゃないか…?」
『………』
「…気でも触れてるんですよきっと…そうだな…」
『………』
「シユウ!!」
『こ!?』
「え!?」
『は!?』
「こ!?」
『え!?なに!?』
「なにが!?」
『え!?いや!は!?』
「こ!ってなに!?」
『いや、こ、はいいから!それよりなんだよ!?』
「チャイム!」
『鳴ったのか!?』
「ああ!鳴った!落とすぞ!シャー針!」
『あ…』
佐藤は止まった。そして、
『ま…待て!!!待て!!!!』
「え、は!?」
直感…、動物が持っている感覚の中で、これほど不確かでありながら正確なものはないだろう。とある人物が行った実験で、【目の前に数学の問題を用意する。そこに書かれた問題はとても難しく、被験者の脳で解けるような問題ではなかった。答えは4択の選択方式。これを10問ほど解いてみる。】また、条件として、【被験者は問題を解こうとしてはいけない。問題を読み、答えの選択肢を読み、少し時間をおいてから直感で解答する。】そして結果は10問中8問正解。つまるところ直感というのは、現段階、現状況で考えられる最高に合理的な解答をするのである。 不思議なことに、無意識的に1番正しい答えを頭の中で、信じられないほどの処理速度で創り上げられるのだ。佐藤はその直感を感じとった。不意に今ではないコトを無意識から掴み取った。ゆえに叫んだ。
『ごめん丈太郎、だけど待ってくれ。今じゃない』
「…なにがなんだかわかんねぇが…信じよう…」
『…………』
なんだ…なにがひっかかったんだ…?結局このままじゃ無意味に時間は消えてく…。考えろ…。
佐藤は熟考した。現状況において最も誤った行為…それはチャンスが過ぎるコト。故に、考えて行動しない時間は惜しい。当然ながらチャンスが過ぎれば、考えて見出した作戦も、しょせんは机上の空論で終わってしまうからだ。……と、これが一般人の考え。なりふりかまわず突っ込んでたまたま成功するか、考えがないのに攻めたがため失敗するか、ほとんどは焦って間違える。ことここにおいて、佐藤はあえて考えた。それは確実な生還をものにするためと同時に、焦る気持ちを落ち着かせ一種のフロー(リラックスして一番の力が発揮できる)状態に持っていくためであった。しかし、あまり時間はとれない。佐藤は自分に課題を出した。「15秒以内」。この時間内に答えを出すコト。現段階で8秒が経過しているが、答えの糸口すら掴めていない。
「………どうやら…客さんとソファーで話してるようだ…」
『………そうか』
10秒経過。
「…………」
『…………』
12秒経過。
「…………」
『…………』
14秒経過。と、その時、
「うぉ!!!!!!!」
丈太郎の声が響く。
『え!?』
「…あ、…ゴキブリがいただけだよ、ごめん…」
『………なんだよくっそ……。…っ!!』
15秒は過ぎていた。同時に閃きも降りてきた。
そうか…!これだ…!これが…これがひっかかってたんだ…!
『丈太郎!今、金田ときゃ、客はどんな感じだ!?』
「…話し終わったのかな…あ、帰ろうとしてるぞ!」
『急いでドアに口がつくくらい近づけろっ!それで目一杯叫べぇええええ!!!』
「おおう!」
ドアに近づいて…。
「………すぅ~~…」
息を吸って…。
「たぁあああぁあぁああすうううぅうううぅうけぇええぇえええええぇぇえてぇええええええええええぇぁああぁぁあああ!!!!!!!!!!!!!」
佐藤が引っかかっていたコト…、それは、佐藤と丈太郎の会話のさい、佐藤は丈太郎の"心の声"か声帯から出る普通の"声"か、どっちの声を耳に聞き入れてるのか、である。自分は霊体(?)であるから丈太郎の"心の声"と会話している可能性もあると考えたのだ。しかし、それが違うコトがわかった。一つ目の根拠は、憑依する前と後の対話での違和感である。憑依する前に聞いた丈太郎の声と憑依した後の丈太郎の声にはかなりの違いがあった。それは気のせいでは済まないレベル。なにも気にしていなかったが、ここにきて謎が解けた。例えば、自分が歌った歌を録音したとしよう。自分が聞いた自分の歌声と、録音した歌声はかなりの違いがあるはずだ。今回、丈太郎が佐藤の体をのっとったことでその現象が起こった。つまり、佐藤が丈太郎に憑依されか後、佐藤が聞いてる丈太郎の声は、「佐藤の体を通して佐藤自身の耳に届く声」であったのだ。これは喋ってる人物が佐藤の体である限り、佐藤の声が出ないのはおかしなコトではあるが、理由はともあれ事実である。そして二つ目の根拠。それは、
「たぁぁあああああすぅぅううううぅぅ…ハァ…ハァ…けぇえええええええてええええええええええええ!!!!!!!!おぇ…」 ビリビリ…
無意識時の声の反響音である。タクシードライバーと話していた時、その声は佐藤にも聞こえていた。しかしそれは丈太郎が、「佐藤にも声を聞かせようとしていた」可能性があった。丈太郎にそんな気がなくても、心の声で考えてから言葉に出す、というのはむしろ当たり前だからだ。しかし此度、不意に現れたGの存在により丈太郎は、頭で考える前に声を出した。そしてその声は部屋でかるく反響し、また、佐藤自身の耳にも聞こえた。よってわかったこと、それは、「佐藤は丈太郎が実際に出した声を聞いている」ことである。
ドタドタドタ…
…!よし…!よし!よしよしよし!ようやく見えたぞ…生き残りが…!!
しかし、佐藤は丈太郎の実際に出した声を聞いているコトがわかったが、これでやっと半分である。もともとの佐藤の作戦は、シャー芯をコンセントの間に落とすと大きな音とまばゆい発光をするので、その時の音を利用して金田の家への訪問者に自分の居場所を知らせる+異常な音が鳴り続ける、すなわち異常事態、ただ事ではないコトを分からせるコトであった。だが、事情は先ほど分かった新事実により一変する。丈太郎は佐藤の会話とかでかなり大声を出していた。そしてさっき、心の中独りしりとりをしていた時に丈太郎が言っていた金田の言葉。これらから想像するに、金田に丈太郎の声は聞こえていた。部下にも。おそらく金田ほどの奇人ならば、痛めつけた相手の苦しむ声を聞くのが楽しいとかでも不思議ではない。そしてここで佐藤は作戦を変更した。シャー芯をコンセントの接続部分に落とした時のもう一つのメリットを利用するコトにしたのだ。
「大丈夫か!!??」
『ようやくきたか…!』
「やっ…」
『丈太郎ぉ!!!スピークっ!!!』
丈太郎が喋ろうとした時、佐藤が急いで言った。
『早く俺の後ろに隠れろ!』
「は、早く俺の後ろに隠れろ!!」
「え!?そんなコトより縄を…」
『いいから隠れろおお!!!』
「いいから隠れろおお!!!」
「あ、ああ、わかった!」
シャー芯をコンセントの接続部分に落とした時のもう一つのメリット…光。佐藤が利用するのは光を用いた単純な目くらまし、そして気を逸らし、ひるませる。これで少しでいいからチャンスを作るコトが佐藤の作戦ウルトラC-2である。
最初に男がきてから、少し遅れて金田とその部下がやってきた。次々と部下は現れ、金田を含めて6人となった。入り口を塞ぐかのように金田が立ち、その他5人の部下が部屋に入り佐藤(丈太郎)と男を取り囲むかのように並んだ。
「てめぇ…なんのつもりだぁ…!?」
金田が怒りを堪えながら喋る。
「こっちのセリフですよ…金田さん…!」
「くそ…病院からわざわざ来て、ココにいないかどうかの確認をするだけだろ…?お前が来てすぐに…ここにはいないって答えたのに…せめて家にあげてくれだと…?図々しいんだよ!しかも…ただ声がしただけで家宅捜索みたいなコトしやがって…!許されると思ってんのか!?」
金田が抑えられないというように怒り狂っている。佐藤は気分がよかった。
ざまぁ…金田ぁ…!そんで…こっからが問題だ。どうすれば勝てるか…、ここまで順調にこれたのが奇跡だ…。6VS2か…。普通にやったら当然勝てない…が…。
『丈太郎、小声で話してくれ…』
丈太郎が頷いた。
『先生、俺が隙を作るから、その瞬間に俺と2人で金田に突っ込んでくれ』
「先生、俺が隙を作るから、えーっと…」
『その瞬間に俺と2人で金田に突っ込んでくれ!!』
「その瞬間に俺と2人で金田に突っ込んでくれ!!」
『ば!小声で話せよっ!』
金田に聞こえたか…?いや…もしかしたら!聞こえてないかもぉぉぉぉ…。
「俺に突っ込むぅ~?何言ってんだぁ?」
はい聞こえてた~…。
「くそがぁ…まだてめぇ…なにかしようってのかぁ~?」
……あ?
「もうなにしてもよぉ…見ろよ、部下…5人いるぜぇ?強い強い部下5人…詰んでんだろぉがぁ」
……こいつぁ…まだいけるか…!
「この中の…1人だけでお前ら2人くれぇ、どーにだってなるんだぜぇ~?」
『丈太郎、スピーク…』
丈太郎は指を少し動かし返事した。佐藤は一つだけ、この状況を破れる打開策を思いついた。
入り口に立つは金田…、作れるチャンスは少しだけ一度きり…、外に出るのが目的…。たった一つ、たった一つだけ作戦思いついた…。成功の鍵は…俺の国語力と丈太郎の聞いてから話すまでのスピードだ。
『丈太郎、これから俺が話す言葉をできる限り早く再生してくれ。あ、早口で言えってことじゃなくて、聞きながら喋ってくれってことだ』
またも丈太郎は指を少し動かして返事した。佐藤はとうとう作戦を実行に移す。
「……いや、勝てる…!」
丈太郎は佐藤が言ったのとほぼ同時なレベルで声に出した。自分で考えることは一切せず、ただひたすら佐藤を信じてそのまま喋っていた。
「…あぁ?なに言ってんだぁ?てめぇ…この状況でぇ!まだなんかできるとでも」
「俺は!いつも…壁を超えてきた…」
佐藤は金田の話しを遮った。
「…そんなこと言ったってよぉ、こりゃ無理だろぉが?わかん」
「逆境!…逆境、険しい道、そーゆー人生を、俺はおくってきた…!」
またも佐藤は金田の話しを遮った。
「…だからぁ…わか」
「不平不満!不平等!理不尽!不可能…を超えてきた…」
佐藤の作戦、第一段階は金田を苛立たせること。
「うぜぇなあ!!なんだてめ」
「金田ぁああああ!!!」
佐藤はまたも遮るかのように叫んだ。
「お前は…、なぁ、金田……お前は、俺たち2人にゃぁ勝てねぇよ」
「…ああ?」
「あ、ごめーん。金田くん耳悪いから聞こえなかったねー。…あなた様のような変態クソばかイカれ豚にはもっとおお~~~…っきな声で話さなくちゃダメでしたね~」
「ああ!?ふざっけんなよ…てめぇ…!なにいってやがる…!状況わかって」
「あ!ごめんごめーん!悪いのは耳だけじゃなくて頭もだったねー!もっかいだけ言ったげる〜…」
「…………て…めぇ」
「頭も耳も目も鼻も顔も運動神経も性格も体格も悪い…そんなお前に負けるわけがないって言ったんだよばーーーーーーー…っか!」
「死ねっ!!!」
佐藤の挑発に乗った金田は、2人を殴りにきた。だが、ここまでは完全に計算通り。次にすること…それは金田を倒れさせて外に出る。そのために佐藤は丈太郎に言った。
『丈太郎!芯落とせ!!』
返事する間もなかった。丈太郎がシャー芯を落とした。刹那、急な発砲音にも似た音が発せられ、同時に佐藤(丈太郎)が後ろ手に組んだ手のあたりから強い光が放たれた。この瞬間、部下は全員仰け反り、また金田も当然ながら仰け反った。しかし金田の場合は他の部下とは少し事情が違った。重い体重で前かがみから急に後ろに仰け反ったので重心の急な移動によりアンバランスな状態になっていた。あとはもう、ただ…
『突っ込めぇええええええ!!』
「おおおおおおおおお!!」
丈太郎が突っ込むと途端に金田は倒れた。
『スピーク!先生!俺を抱っこして階段上がってくれ!』
「先生!俺を抱っこして階段上がってくれ!」
「え!?ほんと!?無理でしょ!」
「いいからやれぇえええ!」
「う…やんなきゃだめか…!」
不恰好に佐藤を持ち上げた先生は、階段を真ん中くらいまで上ったあたりで疲れてしまった。
「せ、先生!おい!しっかりしてくれよ!てめぇだけが頼りなんだよ!」
「そ…ゼー、ゼー…そんなこと言われても…ゼー…ゼー…」
「金田の部下が金田を心配してかまってくれてんのもあと少しなんだよ!急いで上がってくれ!」
「む…おおぉおぉおあああ!!!」
「おお!ありがとう!」
火事場の馬鹿力。なんとか上まで上がったところで佐藤は気づいた。
『……部下がきてる!』
「やばい!どーすんだ!?」
「え!?」
「部下がきた!」
「や、やばい!やばい!」
『スピーク!とにかく縄を解いてくれ!』
「とにかく縄を解いてくれ!」
「わ、わかった!」
先生はポッケからカッターを取り出し、佐藤の手首の縄を切ろうとした。その時。
「んらぁ!!」
先生は後ろから殴られ、同時に佐藤も吹っ飛んだ。先生は少し遅れてやってきた他の4人の部下に取り押さえられ、佐藤と共に喉元にナイフを突き立てられた。最後に一番遅れて金田がやってきた。
「ふざけんなよぉ…てめぇらぁあ!」
金田は激怒していた。肩のあたりが血で濡れていた。転んだ時に後頭部を強く打ったのだ。
さて…と。困った。…こんどこそ詰んでね…?逆転が見えない…。くそ…。
『スピーク…。金田、少し話しを聞いてくれないか…?』
「金田、少し話しを聞いてくれないか?」
「ううるっせぇ!ボケがぁ!てめぇの声なんて聞きたくもねぇんだよぉ!!」
『がッ!?』
怒鳴り声と共に金田の蹴りが左足の太もも、ちょうど足の付け根あたりに飛んできた。聞いたコトもないような音がすると同時に激痛が走る。そして、なんとも言えない違和感を感じた。先生は金田の怒鳴り声を機に部下にリンチされた。
『ぐぅ…くっそ…!…じょ、丈太郎、丈太郎!左足を、動かせるか…?』
「……!?…動かない…」
丈太郎は小声で返事した。
まずい…非常にまずい…!こっちの話しは聞いてもらえない…俺も先生も身動きがとれない…しかも、2人とも、いつでも命が持ってかれる状況…!
佐藤は考えた、生存方法を。あるかはわからないが諦めたら死ぬので死ぬ気で考えた。
ここはキッチンの前ら辺か…。床には火災報知器…。ガス栓は…少し遠いがあのガスコンロの裏か…。ガスでみんな中毒死~とはいかねぇよな…くそ。
そーこー考えてるウチに、金田は部下に例の"アレ"を持ってこさせた。
『!!…あれは…さっきの…!』
「まずいぞ…シユウ…」
『あ、あぁ…わかってる…わかってるよ…あいつ、お、俺を殺す気だ…!』
金田はアレと呼ばれる兵器を、先ほど佐藤に激痛を与えた兵器を、またも佐藤へ照準を向けさせた。それは、今度こそお遊びでなく、佐藤の眉間に向けて放たれる準備をしていた。すぐにでも撃ちそうなその筒は、もうすぐ佐藤が死ぬのをあざ笑うかのように、カチャカチャと嘲笑の声を鳴らしていた。
「もう…遊びはしない…死ねぇ…!」
ドンっ!!
丈太郎はどうにか躱そうと頭を全力で右へ捻った。放たれた矢は耳を少し掠め、鎖骨あたりに刺さりその勢いが殺されぬまま貫通した。あまりに速いスピードだったので、放たれた音と同時に佐藤が倒れたように見られた。
「さ、佐藤さん…!佐藤さん!」
リンチを受け、全身ボロボロになるまで嬲られた先生は、消え入りそうな声で呼びかけた。が、返事はない。
「佐藤さん…!さ、げほっ!げほ!…さ、佐藤さん…」
「へ、へへへ…へへへへへへ…死んだ…死んだ死んだ死んだ…!死んだ死んだ死んだ死んだぁ!うぇへへへぇぇえぁあはあははあはあ!死んだぁ!死んだぁ!」
「嘘でしょ…?佐藤さん…!佐藤さん!!さとぉさぁぁああん!!!」
『いひひひひひゃああ!!ははぁああ!!』
ドンっ!ドンっ!ドンっ!
倒れた佐藤の体めがけて、金田はさらに3発、右足の膝の上辺りと右手の二の腕、そして右手の肘と手首のちょうど真ん中辺りに放った。放たれた巨大な針のようなものは、地面に突き刺さり、まさに展翅した昆虫の標本のようだった。
「イヒヒヒヒヒヒャアアアハハハハ…ハァハハハ……おぉい!お前らぁ!そいつへの攻撃止めんなよぉ!」
「はい」
先生はもう限界が近かった。ゆえに力を振り絞って最後に、金田に言いたいコトを一つ伝えた。
「…がはっ!げほ…き…金田…さん…」
「…ああ?まだ喋れんのかよ…てめぇら、一旦殴るのやめてやれぇ」
「一つだけ…いいですか?」
「なんだよ…?」
「…………」
「死に方なら選ばせてやるぜぇ…溺死、病死、中毒死、失血死、ショック死…なんでもお前の好きな死に方をえ」
「あんたはッ!!」
金田の会話を遮り叫んだ。
「あんたはッ…必ず地獄を見るッ…!」
「………」
「い、因果…応報ッ…因果応報ッ!!悪は…報いて滅びるんだよッ…!!」
「………」
「あんたが…い、いくら…いくら優勢でも…そんなもん無視して…この世の理は、動くんだ…ッ!」
金田はなにも喋らない。
「勝つのが正義なのだから…滅びる…ッ!悪はッ!確実に…ッ!!」
ただ黙って聞いている。
「た、楽しみですよ…!金田さんが…滅ぶその時…ッ!その瞬間が…ッ!」
一区切りついたところで金田は急に話し始めた。
「……なぁてめぇら…こっちこい」
部下に言った。
「はい」
金田は先生の胸ぐらを掴み話し始めた。
「てめぇら…人中って知ってるか?」
「じ、人…中…?すいません、知らないです…」
部下の1人が答えると、だろうな、といった表情で話しを続けた。
「経穴の一つで…人の急所にもなりうる部位なんだが…まぁいいや」バキィッ!!
金田は突然、手に持っていたチャンバラみたいな筒で、先生の鼻のしたを殴った。
「がっ!ぐぶっ!?」
「鼻の下を人中って言ってなぁ…しっかりと打つと延髄にダメージがいく…」
「は、はぁ…」
部下は唖然としている。
「延髄がダメになるんだし、まず…なんだろうな、顕著に表れんのは歩行困難とかか、あとは…痛温感覚の麻痺、味覚不全…」
部下は黙って驚いたかのように金田の話しを聞いていた。金田がこれほどの財力や権力を得たのは、親の七光りもさることながら、金田自身の圧倒的知識量、博学才穎でありながら尚も学ぶ事をやめない貪欲さ、大きな図体に見劣りしない腕力があったからであった。もし彼が、その才能と頭脳を人を傷つける為でなく人を助ける為に使ったのなら、きっと有数の優秀な社会人になれたに違いない。
「まぁ、運が悪けりゃホルネル症候群とかにもなりうるのかぁ…」
先生は喋れなかった。ただ黙って、金田の話しを聞くしかなかった。
それから15分。先生は殴られ蹴られ暴行の末に命を落とした。
3.
あー…くっそ…いつもこうだ…。
復讐手伝うとか言って…俺はなんでもできる気がして…。
嘘…嘘…また嘘…。
嘘で塗り固められてんだ…俺の人生…。
こんな自分が嫌いだ…!くそ…くそ…!嘘嘘嘘嘘…!嘘ばかり…!必死で着飾った嘘…剥がしていったら真ん中にゃなにもないッ!
弱い…弱い弱い…弱い弱い弱いッ!俺は弱いッ!こけおどしッ!内弁慶ッ!
周りの奴等がどんどん前に進んでいて…友達も俺とバカやってたはずなのに…。俺ばかり置いていかれて…。そんなのが嫌だから、俺は見ないフリをした。俺はできるんだって…小さい自分に嘘くっつけて大きい虚仮で誤魔化した…。友達にイイ事があっても素直に褒められなくて…僻んで…妬んで…挙句の果てにまだまだだよって、嘘の上に乗っかって、上から目線で貶して…。逆に、旧友が成果出して、それを褒めて…でもそいつが、いやまだまだだって…。どこまでコイツは上を目指すんだ?俺と一緒にバカやってたお前はどこだ?置いていかないでくれ…。そんな妬み嫉みが、ありのままの自分を殺して…、ふざけんなよ、お前はまだまだだ、何様のつもり?○○って知ってる?あいつはすげえ、お前なんかじゃ話にならねぇ…って、大きい嘘の塊が、また上から目線でもの言って…。
当然。
死んで当然。
こんな俺は死んで当然だ。
早く地獄へ連れていけ。
って、思うが、なんだ?この時間。
後悔させてんのか?
もう十分悔やんだ。だから早く地獄へ連れてけよ。
………………。
…いや、え?なになに…?死んだじゃん、俺。
え〜〜〜…長い長い…。はぁ?まじかこれ…。散々後悔したじゃん。
早く…!
早くッ!
「早くしろっつってんだよ恥ずかしいなあ!もう!!!」
「は!?」
「え!?」
は…え?なになになに…!?
「コイツ…まだ生きてんのかよぉ…!」
ーーーー遡る事、30分前ーーーー
先生が実質上死んでから一分後、部下の1人が死んだ事に気づいた。
「き、金田様、終わりました」
「お、ごくろぉさま〜」
凄まじい死に方をした先生の死体を、金田の部下達は黒いビニール袋で何重にも覆い、青のビニールシートをかけ、大きな荒縄でキツく結んで、部下のうち3人が死体処理の為に車で外へ出た。
「おい!お前らぁ!こいつどうにかしろぉ!大針抜いてトドメさせぇ」
「え?あ…はい?」
「トドメさせっつってんだよぉ。コイツぁ…まだ生きてる。意識はあるかわからないが確実に生きてる」
金田はたんたんと話し始めた。
「良く映画とかでよぉ…銃撃って、脇腹とか肩に当たっただけ…たった1センチくれぇだぜ?たった1センチの穴空いただけで、立ち上がれなくなる…。まぁ、映画の演出ってのもあるだろうが…。それは防御反射の一つで脊椎の屈曲反射…あ〜、やっぱ難しい話しなし。わかりやすく言うと、危険から身を護る為に四肢を一気に折り曲げる反応のことだ。この反射は全ての随意行動をキャンセルする。だから意思とは無関係に動けなくなる」
「…そ、それはつまり…い、今…たった今…!こいつは死んだフリをしていると…!?」
金田は違う違うと首を振った。
「もしくは意識不明だ。これは単純に恐怖と痛みが原因だろうなぁ…そして、確率が高いのは後者の方だ…」
「………はぁ……」
「なぜなら、コイツは…今、絶好の機会なのに動かない…!敵は三人、退路もすぐそこ。なのに動かない!これは意識不明と見て間違いないだろうなぁ…」
「ショック死…とは考えられないでしょうか…?」
「確かにテレビとかでよくあるがぁ…それはありえない。いや、正確には、あり得るが可能性は皆無って言っていいレベルだぁ。撃たれたショックによるショック死なんて、俺は事例を知らない、実在するかどうかも怪しいところだ…」
「え…でも、よく銃で撃たれてショック死って聞きますが…?」
「ありゃ、臓器の損傷とかに伴って、血の循環が一気に悪くなったことによる失血性ショック死だ。コイツはまったく臓器の破壊がない。だから生きてる」
「例のアレでトドメをさせばよいのでは…?」
「もう弾がねぇ」
部下は納得したように頷き、佐藤の身体から大針を抜いてから縄を持ってきた。
「絞殺でよろしいでしょうか…?」
「おう…いいぜぇ」
「では…!」
部下は佐藤の首に縄を回して思い切り締めた。
「かッ…はッ!こッ…!」
「確かに、まだ僅かに息はあったようですね…しかし…終わります」
それから一分ほど首を締めて、部下の絞顎行動は終わった。
「死んだ…かぁ」
金田は疲れ果てた様子でソファに座った。
「今日は濃厚な一日だったなぁ」
「そうですね」
「まさか知らない1人の復習者の為にこんなことになるたぁな」
笑いながら金田は言った。
「おい、てめぇ」
金田は1人の部下に命令した。
「薬局行って水酸化ナトリウム買ってこい」
「え、水酸…えっと、もう一度…」
「メモしてやるから待ってろ」
金田は死体処理のために今度は捨てるのではなく死体をぐじゅぐじゅに溶かすことにした。水酸化ナトリウムは、濃度によるが、人を溶かすなど造作も無い危険な溶液である。
「おらよ、買ってこい」
「はい」
2人の部下のうちの1人は薬局へ薬品を買いに、残った1人の部下は佐藤の死体を見て言った。
「こいつ…本当に誰だったんですかね…」
「…さぁな」
「私は…金田様の犯罪がバレぬように、偽造工作と完全犯罪を主として仕事をしてきましたが、その際大切なのは身辺調査です」
「……」
「私は、自分で昔調べた全ての者を記憶していますが、こんな奴はデータには入っていませんでした」
「…じゃぁなんだってーんだぁ?」
「コイツがなんなのか、まったく検討もつかないから怖いんです」
「…」
「今までの"解消"は予め殺す相手を決めておいて、幾多にも及ぶ障壁や失敗の僅かな可能性さえ取り除き、成功の可能性が100%であると確信したうえで、些細なミスすら見逃さず確実の名の下に殺人を行ってきました」
「…あぁ…確かになぁ…じゃあ…」
「わ、私の考えでは…正当防衛とすれば良いのでは?」
「……は?」
「つまり、まったく知らない男であるコイツが、なぜか金田様に急に襲いかかり殺そうとした、それを見かけた私たちが反撃して誤って殺したことにするんです。正当防衛で殺したのならかなり罪は軽くなりますし…」
「そーゆーことじゃねぇ!」
金田は急に怒鳴った。
「俺が恐れるのは調査ついでに家宅捜索される可能性があるってことだぁ」
「…………は、はぁ」
「この家にある80億!大量の麻薬!詐欺に使った電話、予備を含めて85機!死体処理の為だけに使う専用の車!法を無視した兵器!その他もろもろぉ!」
金田は一気に話した。
「これらを全部どこに片付ける?仮に片付けたとして全部全部しまえるか?いや、間違いなくなにかしら跡が残る…たった一つ見つかれば後はぁ…芋づる式で全部見つかる…!過去の罪も現在進行形の罪もなぁ」
納得したように部下は確かに、と頷く。
「では、金田様。どうするんですか?」
「そのための水酸化ナトリウムだぁ…全身とかして海に捨てりゃぁまず証拠は残らねぇ」
金田は言いながら思った。 だが、こいつは…生かしておきたかった。部下にしたかった。ここまで反撃をしてくる鬼才…。一時は本気で危なかった。6人全員の部下を集めての集会が今日で助かった。もし、もしいつも通り2人だったら…間違いなく逃げられていた…否、殺されていかたもしれん…!
「だが…仕方ない…かぁ」
「…では…水酸化ナトリウムが届くまでは待機しますか」
「あぁ、そう」
「早くしろっつってんだよ恥ずかしいなぁ!もう!!!」
金田はソファに、部下はソファのすぐそばに…そして5mほど離れて…佐藤がいる。その佐藤の急な咆哮に金田も部下も驚いた。
「は!?」
金田は頭の中で考える余裕すらなかった。
「え!?」
は…え?なになになに…!?
「コイツ…まだ生きてんのかよぉ…!」
金田が言っている間に、残った1人の部下が走って佐藤に駆け寄り縄でもう一度首を締めた。
「が…ッ!はッ…!?」
なんだ…!?なんだなんだなんだ!これは!まだ生きてんのか!?なんで…ッく!首をッ!締められてる…ッ!クソ!
「今度こそ死んでもらう…ッ!」
「がはッ!……ッ!」
もう……ダメだ…。
『佐藤さん、死んだフリしてください』
「!?」
せ、先生の声…!なんで…!?
『疑問あるでしょうけどイイから早く!』
佐藤は言われた通りに死んだフリをした、と思ったら気絶をした。
「こ、今度こそ…今度こそ死にました」
「ほ、ほんとかぁ…?み、脈…!脈調べろぉ!死んでんならぁ…死んでんなら止まってるはずだろぉ!」
「は、はい!」
部下は確認して言った。
「……と、止まってる…!し、死んでます。死んでます…!」
「そ、そうか…」
しばし沈黙が流れた後に金田は言った。
「死んだかぁ…」
実際…実際生かしておきたかった…。脅せば仲間にできたかもしれない…。くそぉ…。こいつへの…恐怖があった…。生きているのが怖かった…くそお…。
「………」
「くそぉ…」
と、そんな風に落ち込んでる金田と部下の上で男が三人、宙に浮いて話していた。
『……だってさ…』
『シ、シユウ!なんでここいんの!?』
『殺された…』
『え、佐藤さん?シユウってなんですか?』
佐藤は小声で耳打ちした。
『………あだ名』
『へ、へぇ…ところで佐藤さん、その人誰ですか?』
先生は丈太郎を指差して聞いた。
『俺の…友達…だな』
『あ、そうなんですか』
『丈太郎は知ってるよな?』
『おう、先生だろ?』
『あ、はい、そうです』
他愛のない自己紹介、だが、明らかに佐藤の元気はなかった。
『死んだのかぁ…俺…』
『シユウ…』
丈太郎は申し訳なさそうに呟いた。
『いえ、死んでません』
先生の言葉に…2人ともとても驚いた。
この先生…何言ってやがる…!?申し訳ないがあんたは死んだ。間違いなく。丈太郎も死んでる。その2人にこうして逢えてる…これは俺も死んでるって証拠…。てか、自分の動かない姿を上から見下げてる時点で死んでんだろうが…。
『さっき佐藤さんの体に乗り移りました。その時はすでに首を締められてて、危ない状況だったので首の頸動脈を動かして内側に避難させて脳への血液不足は回避、ついでに心臓を止めて仮死状態にさせてもらいました』
『……え?』
『つまり、佐藤さん、あなたはまだ生きてるんですが、仮死状態にしたので非常に危険な状態です。心臓は止まってから25分生きてたってゆー報告もありますが、基本的に7分止まったら死にます。いや、正確には7分経てば脳細胞が死滅して脳死となり死にます。さらに心臓が1分止まれば助かる見込みは相当低くなっていきます。まぁ目安としては3分30が限界じゃないでしょうか…』
『お、おお…さすが医者…』
『てかよー、先生よー、シユウの体に乗り移ったことまではわかるけど、どーやって臓器やら血管やらを動かしたんだー?』
『…どうやら…私は佐藤さんの皮膚のしたに触れることができるようです…。痛みなど全く感じないので、憑依したというより憑いたの方が正しいですかね…』
また俺だけ痛むのか…はぁ…。あ!
『せ、先生さぁ、俺ってそろそろ体に戻んなきゃヤバくね?』
『あ、確かに…もう1分以上は余裕で経っています…早く体に戻んなきゃもう…もうこのまま死ぬことになってしまいます!』
佐藤は急いで戻ろうとした、が、出来なかった。やり方がわからないのだ。
『やーばい…!やばいやばいやばいやばい!戻れない!…し、死ぬ!死ぬッ…!』
どーやんだ!?どーやって戻る!?勝手に戻るんじゃないのか!?やばいやばい!
『さ、佐藤さん!佐藤さん!もう3分経っている…!細胞がやばい!死んでしまいます!は、早くッ!』
『わかってるから黙れぇ!いま集中してんだ!くそ!』
やばい!あと20秒くらいか!?死んじまう!せっかく生きてたのに!まだ生きてぇっつーのによーッ!
『あ、あと5秒で3分30秒です…!佐藤さん!!!』
『うわぁぁぁあああああああ!!』
死ぬ…。
『ごめんな、シユウ、もっかい体借りるぜ』
ゾンッ…!!




