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クーデター6 ~スメラギとの再開~

                        プロローグ6




ノワールの身体の重心のバランスが崩れる。

長刀が地面に落ちるより早く、コウヨウはノワールの腹部に強烈なタックルを繰り出した。


「う゛ぅ」


 ノワールの口から鈍い声が出る。

コウヨウはそのまま、ノワールを抱えるような格好で、凄まじい馬力でT字路の方に押し込んでいく。


「今じゃ!!」


 コウヨウがアイ達に合図を出す。

コウヨウはそのまま、T字路の突き当たりにある壁にノワールごと突っ込んだ。

ぶつかった時に王宮の壁のレンガが音を出し、一部壊れる。


「ぬえぇい!!」


 コウヨウはノワールを壁にぶつけた後も攻撃の手を緩めない。

壁にぶつかり、少なからずもダメージを受けたと思われるノワールをアイ達の脱出の方向とは逆の廊下の方に放り投げる。

ノワールは音を立てて、地面に倒れ込んだ。

そして、その投げた直後アイ達が脱出経路の廊下を駆け抜けていくのをコウヨウは確認する。


「コウヨウ!!」


 アイの声が聞こえる。


「後ほど、お会いしましょう」


 コウヨウがアイに返答する。

しかし、前方に倒れているノワールからは視線は一切離さない。

アイ達の走る足音がどんどん離れていき、コウヨウの耳には全く聞こえなくなった。


「あはっ、行っちゃいましたね」


 ノワールはゆっくりと立ち上がる。そして衣服についた埃を手で軽く払いのけながら言った。


「思いの外、タフじゃのぅ。常人ならかなりのダメージをこうむるところじゃが」


 コウヨウはノワールの全身を見ながらつぶやく。


「いやぁ、久しぶりに結構効きましたよぉ。こんなに重い攻撃はぁ。ふふっ、逆に将軍も私のプレゼントはお気に召しましたかぁ?」


 ノワールはそう言うとコウヨウの右腕を見てニタリと笑った。

そのノワールの視線先にはコウヨウの大木のような腕からしたり落ちる真っ赤な血液が映っていた。

流れ落ちている箇所には何かに引っ掛かれた傷痕が生々しく残っている。


「ただでは・・・やられんということじゃな」


「えぇ、もちろん。やられっぱなしは嫌いなものでぇ」


「ふはっはっ、奇遇じゃな。ワシもじゃ。この傷の礼はきちんと払ってもらわんとのぅ!!」


 コウヨウが豪気に笑う。

そして腰にある、残りの短刀に手をかけた。

長刀より刀身は短いがそれでもコウヨウに仕立てて作られているので通常のそれより長い。


「では・・・参るぞ!!」


 コウヨウが吠える。

自分の大喝で逞しい髭が空気振動でビリビリと揺れている。


「ふふっ、楽しくなってきたなぁ」


 コウヨウの大喝に臆することなくノワールは不気味に微笑んだ。





「はあっ、はあっ、はあっ・・・」


 コウヨウと別れてからどのくらい走ったであろうか。

アイは息を切らしながら駆け足で走っている。


「少し歩きましょう」


 先頭を行く、イキマが提案する。

アイを含め、普段から身体を鍛えていない侍女達にとっては体力的な問題からしてきつい。

皆が足を緩める。


「ここの廊下をずっと真っ直ぐ行き、ぶつかった部屋に王族が使用する地下通路があります。途中に十字路がありますが気にせず、ただ真っ直ぐです」


 イキマにアイが確認のために話す。


「心得ました」

 イキマが返答する。


 アイ達が廊下を進み、十字路をちょうど通りすぎたところ、十字路のどこかの廊下から複数の声と廊下を慌ただしく走る足音が聞こえた。

声が次第に大きく聞こえることからどうやらアイ達の方向に向かってきているようだ。

イキマの表情が変わり、同僚達に警戒するように合図を送る。

声が次第に近くなってくる。


「確か、言われたのはここら辺だったよな?」


「そのはずだぜ、探すぞ」


 何かを確認しているような会話内容だ。

複数の声と足跡がもう目前まで迫っていた。

肉眼に男達の姿が映る。

相手もこちらに気がついたようだ。


「姫様、ここは我等が引き受けます。脱出地点まで逃げてください!!」


 イキマはアイに言った。


「見つけたぜ!おい、こっちだ、みんな」


 一人の男の声で探していたと思われる全員がゾロゾロと姿を現す。

見るからに味方ではないのが見てとれる。


「姫様っ!!」


 イキマが迷っているアイを急かさせる。

相手の人数はこちらの五倍以上の人数を要していた。


「わかったわ・・・皆さんもコウヨウと一緒に必ず、後から来てくださいね」


「もちろんです、我等は隊長と一緒に必ず姫様の元に」


 イキマが部下全員を代弁して答える。

部下全員がアイを見つめ、軽く微笑む。

アイは全員の表情を確認してから胸が締め付けられる思いを立ちきり、脱出地点へと侍女を連れて駆け出した。

アイの後方から聞こえる、剣と剣がぶつかり合う音が事態の緊迫感を伝えるのであった。




 イキマと別れてから、脇目も降らずにアイは早足で進む。少し遅れて侍女がそのアイに追い付くように急ぎ足で追いかけている。

「(一体、王宮で何が起こっているの?ノワールは別にしても、さっきの男達は明らかにイダンセの兵士だった・・・)」


 頭の中で色々と考えを錯綜さくそうさせるがまだ情報が少ないことから結論付けることがアイは出来ない。


「(情報が読めない以上、今はまずはここから避難するしかないようね)」


 自分に言い聞かせるようにアイは心中で唱える。

その時だった。

鈍いような、妙な音がどんどん近づいてくる。


「一体何なの?みんな、急いで!!」


 アイがそう言葉を侍女達にかけた時だった。

王宮の廊下の外壁を外から突き破り、巨大な何かがアイ達のいる場所に凄まじい勢いで吹き飛んできた。アイも見たことがあるそれは機械人形ドールと呼ばれる人型の機動兵器だ。


 その機械人形が外壁から突っ込んできたため、その衝撃で外壁のガレキの一部がアイに凄まじい勢いで降りかかってくる。その大きさはアイよりも二回りも大きいものだった。


「えっ!?」


 突然の出来事でアイはそのガレキに反応することが出来なかった。


「(もう駄目・・・)」

 アイが瞳を閉じたとき、ふっとアイの身体が動いた。それはアイ自身が決して動いたのではなく、外部から加えられたものだった。


「大丈夫ですか?」


 懐かしい声が聞こえた。

咄嗟の出来事だった。アイを抱えながら、スメラギは心配そうな表情で見つめながら言った。


「スメラギ・・・」


 自分の目の前に探していたスメラギがいて、アイは初めはきょとんとしていたが次第に込み上げるものがあった。


「心配していましたよ」


「すみません、私も見に行ったのはいいんですが状況を把握するのに手間取って・・・後、他の方々を助けることは出来ませんでした・・・」


 スメラギの視線の先には外壁の一部に潰され、真っ赤な血液を地面に滲ませ、腕と足しか見えていない侍女、機械人形ドールに潰されたと思われる侍女の肉片や臓器の塊が映っている。アイ一人だけを助けるのが精一杯だったため、無理もない。


「あぁ・・・」


 アイは侍女達の変わり果てた姿を見て、声にもならない声を洩らした。


「!?」


 そんなアイの心情も関係なく、聞いたことのある音が近づいてくる。

無機質な機械音。機械人形ドールのバーニアの音だ。


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