クーデター5 ~ノワール3~
プロローグ5
「イキマ」
コウヨウは部下の一人の名を呼んだ。イキマと呼ばれた短髪の恵まれた体躯の持ち主はすぐに自分の名を呼んだ主の元に来る。年齢は30に満たないくらいだろうか。
「はっ、コウヨウ隊長」
コウヨウの隣に来てイキマは言った。
イキマも腰にある長刀に手をかけ、ノワールに対して警戒心をあらわにし、いつでも抜刀出来るようにしている。
「よく聞けぃ。ワシがこやつを引き付けておる間にお主は姫様を連れて先に行けぃ!!」
「ですが、皆で一斉に掛かればこのような輩・・・」
「確かにお前が言うことはもっともじゃ。じゃがこやつは普通ではない。今まで数多の人間とやりおうてきたが、感情すら感じん相手はワシも初めてのことじゃ。それにこれはあくまでワシの勘じゃが、あやつはまだまだ何か力を隠しておるようじゃしのぅ。故にここで全員が雁首揃えて相対するのは危ういのじゃ」
コウヨウはイキマの言葉を遮り、言った。
「・・・了解です」
イキマはコウヨウの言葉を聞き、納得した。
歴戦の雄の言葉だ。間違いはない。
だが相手の情報がいまいち不透明であり、イキマは一抹の不安を覚える。
そんなイキマの心情を察し、コウヨウは不敵に笑う。
「大丈夫じゃ。すぐにあやつを何とかして、後から追い付くわぃ。最優先事項は分かっておるな?」
「了解しています」
コウヨウがイキマに確認する。
それに対してイキマは雑念を振り払うように力強く返答する。
「有無・・・ではワシが隙を作る故、頼むぞ!!」
そう言うとコウヨウはゆっくりと一歩前に出た。
イキマはアイの真横に下がり、コウヨウと話した会話の内容を伝える。
それを聞いたアイは初めはイキマと同様にみんなで戦えばという意見を出したがイキマ自身がその意見に対してコウヨウが返答した言葉をアイに伝えられる。
コウヨウの言うことはもっともだがアイはコウヨウの身を案じて納得はしたくなかった。
だがそれとは別にコウヨウの言わんとしていることも理解出来た。
アイ自身の身を案じているのだ。
「・・・分かりました」
コウヨウの思いを汲み、アイは返答する。
「隊長!!」
イキマがコウヨウに声をかけた。準備は万端である。
「有無」
コウヨウは歩みを止めた。
ギリギリの間合いである。
コウヨウ自身の間合いとノワールの先程の移動速度を計算して、攻撃を繰り出してきた時に対して、ノワールの攻撃をさばくことの出来るギリギリの距離だ。
「作戦会議は終わりですかぁ?丸聞こえでしたがぁ」
「別に聞こえていたとしても別段、問題ないわぃ。必ず成功するからのぅ」
「凄い自信ですねぇ。そううまくいくかなぁ。ふっふっふ」
焦点の合っていない視線でノワールはコウヨウの少し後方でいるアイを見つめた。
「余所見とは随分、余裕があるのぅ」
焦点が合っていない視線の先を読まれたノワールは少し驚く。
「あは、むさ苦しい将軍を見るよりかは美しい姫君を見たほうが目の保養になるじゃあないですかぁ」
コウヨウの指摘に驚いたことをおくびにも出さずにノワールは茶化す。
「ふむ、ならばその気にさせるまでよ!!では・・・行くかのぅ!!」
コウヨウがそう言うや否や、ノワールに長刀で斬りかかった。
双眼をカッと見開く。
その雰囲気は獲物を捕らえるために全力を尽くす肉食獣を連想させる。
「ぬぅえええぃい!!」
長刀を勢いよく、降り下ろす。
渾身の右袈裟斬りだ。
刃がノワールの右肩から左足にかけて動くはずだった。
カキン!!
激しい金属がぶつかる音が鳴り、長刀がノワールの両腕でしっかりと受け止められている。
アイを含め、イキマはノワールがコウヨウの一撃を受け止めたのを見て、驚く。
あのイダンセの巨木と言われているコウヨウの気迫の籠った一撃を受け止めたのだ、無理もない。
「(腕の中に何か仕込んでおるな・・・)ほぅ、しがない曲芸師にしてはやるではないか!!」
コウヨウは自分の繰り出した一撃を受け止められたことを気にも止めず、長刀を受け止めた両腕ごと、叩っきろうと力をさらに込めた。右足の親指にかなりの力が入るのが感じられる。
「当然ですよぉ。ここでこのまま貴方に斬られたら私がここで長いこと待っていた意味が無くなりますからねぇ!」
コウヨウの力に負けじとノワールも力を入れる。
両者の反発する押し合う力が相殺し、均衡の状態が生まれる。
二人ともその場から微動だにしない。
長刀を持つコウヨウの両手とそれを受け止めるノワールの両腕は小刻みに僅かに振動している。
「信じられない・・・」
アイが今の目の前で起きている状況を見て、思わず言葉が出た。
「私もです、にわかに信じられない・・・」
イキマもアイの言葉に同意する。
だが、その均衡はすぐに崩れた。
動きがあったのはコウヨウだった。