クーデター4 ~ノワール2~
プロローグ4
明らかにノワールという男の行動に不可解さが残る。
「コウヨウ。彼も連れて、早く脱出しましょう。ここで話していても埒があかないし、状況が読めない以上、ここにいても危険だわ」
「姫様、このコウヨウ、姫様を護衛する親衛隊の長という立場からして不確定な要素を含む、この男を一緒に連れてゆくわけにはいきませんのじゃ」
アイの言葉に対して、コウヨウは頑なに拒んだ。
「彼が言っていることが本当かもしれない」
「確かにその可能性も無きにしも非ず。じゃが不可解な点が1つ」
コウヨウはそう言うとノワールを足元から頭部を鋭い視線で品定めするように眺める。
「普通はどんな人間でも感情というものが表に出ているものです。恐いなら恐い、嬉しいなら嬉しいといった感じに。ワシは戦場という場所からそう言った空気を肌で感じてきました。年の功でもありますがのぅ。じゃから大体は面様やその人物の空気感でどう思っているのか、分かる。そのことからこの目の前にいる男は姫様に対して害をなすような感情は持ってはおりませんじゃ」
「なら問題はないということじゃろ」
「確かに害をなすような感情は持っていないのは良いことですじゃ。・・・じゃがこの男は先程、こう言ってましたな。恐怖で怖くて動けなかったと」
「確かに言っていたわ」
アイはコウヨウの問いかけにうなずく。
「じゃが、この男からは恐怖という感情が全くと言うほど伝わってこない。さらに付け加えると恐怖はおろか、何も感情が伝わってこないのですじゃ!!感情を押し殺している人間なぞ、ワシが知る限り見たことなぞ・・・」
「ふっふっふっ・・・あっはっはっはっ」
その時、ノワールの笑い声がコウヨウの台詞の途中で割って入った。
ニタニタと口を開けて微笑んでいる。
「何が可笑しい!!」
ノワールに対して額に太い皺を寄せながら怒りの感情ををあらわにしてコウヨウは言った。
アイはというと急に笑い始めたノワールに視線を移し、じっと凝視している。
「ふっふっふ・・・流石はイダンセの巨木と言われているアカギ・コウヨウ殿だ」
「主に言われても何も嬉しくもないわ!」
「つれないですねぇ。それにしてもよく気が付きましたねぇ」
「ふんっ、主の異様なまでの感情の無さは異常じゃ。今まで主のような人物にワシは出会うたもことなどないわ」
「ふっふっ、今まで王宮内でいるときは比較的感情を出していたんですけどねぇ」
ノワールはそう言うとゆっくりとアイ達の方に向かって近付いてきた。その歩みはゆっくり過ぎるほどゆっくりで逆に不気味さをアイは感じずにはいられなかった。
アイの前にいるコウヨウは腰に携えている長刀に手を即座に添えた。
いつでもノワールに対して斬りかかれるようにだ。コウヨウの部下達も同じように構えている。重苦しい空気感がこの場を支配する。
ノワールが動いた。先程のゆったりとした動きではなく、素早い動きだ。
直線的にコウヨウに向かって来る。
「ぬぅえいいいっ!!」
コウヨウの気迫の籠った声が周囲に響き渡る。
コウヨウが長刀を抜刀したのだ。
高速で左下から右上に刀身が動き、ノワールを襲う。右袈裟斬りの逆の動きである。
ノワールはそのコウヨウの刀の動きを読みとり、刃が当たる直前で後方にまるでステップを踏むような感じで跳躍し、回避した。
その跳躍する動きは一瞬である。あれだけの移動速度を出し、こちらに向かっていたにも関わらず、この急速な回避行動。コウヨウはこのノワールという男がただの曲芸師ではないとすぐに察した。後方でその一連の流れを見ていたアイはノワールの動きを見て、驚いていた。アイが今まで王宮内で見ていたノワールとはまるで別人だったからだ。
「ふっふっふ、流石はアカギ・コウヨウ。手加減ないですねぇ」
不気味に口元に笑みを作りながらノワールは言った。
「ふんっ、お主もな。明らかに動きが曲芸師のそれではないがのぅ」
コウヨウは特にノワールに対して驚きもせずに落ち着いた口調で言った。そして長刀を再び構え直す。
「ふっふっふ、また言いますがぁ、少し身が軽いくらいのしがない曲芸師ですよぉ。おかげでぇ貴方の一撃も避けることが出来ました」
口元の笑みを保ちながらノワールは得意気に話す。
「避けたじゃと?それはお主の勘違いじゃぞ。しかと見てみぃ」
コウヨウが顎を軽く前にくいと動かし、ノワールのある部分を指摘した
「これはぁ?あははっ」
自分の衣服の胸部の一部がぱかりと真っ二つに裂けているのをノワールは見てさらに声を上げて笑った。まるでその笑いは攻撃を避けきれなかったのを喜んでいる節さえ感じる。
「これほどとはぁ、このノワール、賛美の言葉しか浮かびませんねぇ」
「ふむぅ、ワシは主を一撃でほふるつもりでやったんじゃがのぅ。(さてもさても、こやつとやり合っていても悪戯に時が過ぎるだけ・・・何とかせんとのぅ)」
今現在、もっとも最優先すべきことはアイをこの王宮から避難させることだ。それはコウヨウ自身が一番理解していた。しかし、今、この目の前にいるノワールを放置するわけにはいかない。