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クーデター3 ~ノワール~

                       プロローグ3



 コウヨウが前方にあるT時路を睨んでいる。

アイもコウヨウの後ろから伺うが特に異変らしい異変は感じられない。


「コウヨウ・・・」


 アイはじっーと前方を睨んでいるコウヨウに心配そうな口調で声をかける。


「姫様、ご心配なさらず。このワシの後ろにいれば大丈夫ですじゃ」


 コウヨウは豪気にアイに対して言った。

王宮内が振動で揺れる。

焦げ臭い匂いが僅かに鼻をさす。

おそらく王宮内のどこかで火の手が上がっているのかもしれない。

振動は機械人形ドール同士の戦いであろうか。


「・・・誰かいるのであろう?黙っていないで姿を現せぃ!!」


 コウヨウが無人の前方に向かって吠えた。

通った馬鹿でかい声が廊下に響き渡る。

そして、また静まり返る。

前方は未だに何も変わらず、誰もいるような気配はない。


「コウヨウ、誰もいないのでは?貴方の気のせいということも」


 アイはコウヨウにそう言うがコウヨウは首を横に振った。


「姫様。ワシは戦場に長い間、身を投じてきました。それで様々な経験を重ね、今まで生き抜いてきた。じゃから、分かるのですじゃ。ワシの本能が訴えておりますわい。この先はどうーにもきなくさいと」


 コウヨウが再び、同じ言葉を繰り返した。

本能が訴える。アイには到底理解出来るようなものではないがそれでもこのコウヨウが嘘をつくとは思えなかった。


「ふむぅ、やれやれじゃ。まっどろっこしいのぅ。こちらは急いでいる身ゆえ、来なければこちらから向かうまでのことよ!!」


 コウヨウはそう言うと後方にいる部下の半分を呼び、前方を護るように指示する。

そしてゆっくりと前方のT字路に向かって歩き始めた。


「コウヨウ!!」


 アイはコウヨウの名前を呼ぶ。

コウヨウはそんなアイに応えるかのように一度足を止め、右手を挙げる。

そして右手を下ろしてから大きく、息をすぅーと吸い込んでから


「アカギ・コウヨウ!!まかり通る!!」


 雷鳴が轟くが如く声を発し、前進を始める。

アイ達はそんなコウヨウの頼もしい背中をただ見ている。


「いやぁ、これはこれはバレてしまいましたかぁ。ふふっ」

 T字路のアイ達が向かうべき方向から声が聞こえる。

コウヨウはその声を聞き、歩みを止めた。

鋭い視線はその声がした方向を凝視したままだ。

アイもその声がした方をじっと見ている。

どこかで聞いたことのある声だった。


「何者ぞ?姫様の御前である姿を現すが道理であろう!!」


 コウヨウが気迫の籠った声で問いただす。

するとそんなコウヨウの声に応えるかのように人影が姿を現した。

焦点の定まっていないかのような瞳に不気味な口元の笑み、長い手足に長身。猫背であるためコウヨウより身長は低く見えるが、そうでなければ高いだろう。

そして何より、特徴的なのはその口調である。

人を小馬鹿にしたような口調。

アイはこの妙な男を知っていた。


「すみませんねぇ。お姫さまぁ。私です、ノワールでございます」


 ノワールと名乗った奇怪な男はぺこりと軽く頭を下げ、会釈をする。


「ノ、ノワール?」


 アイはその男の名前を口ずさんだ。

このノワールという男はアイの父バズルが登用した他国から流れてきた曲芸師だ。

他国の様々な情報や、その体躯から繰り出される曲芸をバズルが気に入り、登用した。

アイはこの男の何を考えているか分からない表情や馴れ馴れしい口調、言葉では説明することが出来ない気味の悪さをいつも心の片隅で感じていたものだ。


「覚えていてくれて光栄ですぅ、お姫さまぁ」


 アイの方に近づいてきながらノワールが少年のように微笑んだ。この一連の流れもノワールという男の曲芸の一部とさえ、感じる。

しかし、そのノワールの歩みをコウヨウが遮った。ちょうどアイとノワールの間に入り込んだ形だ。


「ノワールとやら、すまんが今は緊急時じゃ。それ以上、姫に近づくのはまかりならん。主が味方かどうかもいささか疑いがあるしのぅ」


「貴方はぁ、確かアカギ・コウヨウ殿。その名将ぶりは聞いていますよぉ。でも酷いですなぁ、疑うなんてぇ」


ノワールはコウヨウを目の前にしてもいつもと変わらない口調で話す。


「何分、緊急時じゃから許せ。にしても主に聞きたいことがある。何故そこにいたのかということじゃ」


「あぁ、それはバズル様から聞いたんですよぉ。もしもの時のためにぃ」


「なるほど。ならば呼び掛けに対して何故すぐに返事をし、姿を現さなかったのじゃ?」


「私は小心者でしてぇ。こんな非常事態に震えていたんですよぉ」


「ほほぅ、態々脱出が出来る抜け道の途中でのぅ」


「えぇ、私は貴方とは違い、しがない曲芸師ですからぁ」


 コウヨウの有無を言わさない迫力のある指摘にノワールは特に気にもせず、淡々と答える。

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