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クーデター2 ~脱出~

プロローグ2



 轟々と音を立てて、炎が王宮を飲み込んでいく。

場所は6つの国々からなるクホウト大陸の南東に位置する国、イダンセ。

工業国として他国に知られている。


 硝煙の匂いがここまで届き、鼻を差し、こみ上げてくる咳を手で押さえながらアイ・ナナミは周囲を見回す。

そこには先ほど王宮内で出会ったハルカ・カナタという青年の他に見知った顔がズラリと並んでいる。

美しい、桃色の腰まである長髪に、大きな澄んだ瞳が印象的だが、今はその長髪にもススがかかり、大無しだ。

視線を先ほどまで自分がいた王宮に戻す。

アイの視線の先には自分が住んでいた王宮の変わり果てた姿がある。地面にはもう動くことのない亡骸もあった。


 「(王宮が・・・)」


 自分の父親でもあるイダンセ国の現王である、バズル・ナナミの安否も気になる。

アイはこの炎に包まれていくのをただクーデター側のアイシンカグラ本陣でただ眺めていることしか出来なかった。




 突然の事だった。今日の朝のことだ。

いつものように王宮で何も変わらず、一日が始まろうとしていた時にそれは起こった。

激しい爆発音とよく聞きなれた機械音がアイの耳の鼓膜を振動させた。

その音を聞いて初めはアイ自身、何が起きたか分からず、周囲で自分の世話をしている侍女達もアイ同様に何が起きたか、分からず、皆が呆気にとられていた。


 「私が見てきます」


 「スメラギ?」


 侍女の一人であり、アイと年端も変わらない短髪で黒髪、長身のスメラギ・ホシナがそう言い、アイの声を聞く前にスメラギは部屋から出て行った。

アオイの親も代々、アイの世話をする侍女の家系で現在はスメラギが親の仕事を受け継いでいた。

二人は幼い頃からよく顔は見知っている仲であり、身分は違えど、仲が良かった。


 スメラギが出て行ってから、少し時が経ったであろうか。周囲が急に物騒がしくなった。人の声が聞こえる。

その声ははっきりとは聞こえないが、急いでいるようだった。

アイの部屋のドアをノックする音が聞こえる。

そのノックする音は慌ただしい。

アイは少し緊迫した表情で侍女にドアを開けるように促した。

侍女は「かしこまりました」とアイに言い、アイと同様、緊迫した表情でドアを開ける。

長身の男を皮切りに、男達が部屋に入ってくる。

そして、開口一番。


 「姫様ァ!!」


 雷が地面に落ちたかのような声で男が言う。

精悍な髭、恵まれた体躯、威厳ある風貌。

年齢は還暦を過ぎたが、そんなことは全く感じさせない。

アイはこの男を知っていた。


 「コウヨウ」


 アイはその男の名前をつぶやいた。


 「ご無事で何よりで」


 コウヨウと呼ばれた男はアイの姿を確認して、安堵したような顔つきを見せた。

アイを直属に護衛する親衛隊の長でアイを幼少期から支えてくれた将軍だ。

周囲からはイダンセの巨木と呼ばれ、一目置かれている。


 「先ほどから周囲が騒がしいが。コウヨウ、たくさんの部下も携え、一体どうしたというのです?」


 アイがコウヨウの後ろに並んだ部下である男達を見て言った。


 「姫様、驚かないでください」


 コウヨウはそう言うとひと呼吸置く。


 「ワシも詳しくはまだ状況は理解しておりませんが・・・どうやらクーデターのようです。首謀者は詳しくは分かりませんがどうやらアイシンカグラの手の模様」


 コウヨウは立派に携えた髭を触りながら、言った。

コウヨウ自身は落ち着いているように見せているが、それは変にアイに不安感を抱かせないようにするための配慮である。


 「アイシンカグラ?あのアイシンカグラ将軍が・・・」


 アイはコウヨウが言ったことがにわかに信じられなかった。

アイシンカグラとは代々、イダンセ国を武で支えてきた家のひとつである。


 「色々と思うところは有りましょうが、ここにいても埒があかないので・・・早々と参りましょう」


 コウヨウはすぐに部下に部屋の外の状況を探らせるように指示する。

部下が部屋から出ていき、外の様子を確認する。

どうやら安全が確認出来たようだ。


 「では参りましょう」


 アイを含め侍女達の準備も整ったのを確認し、コウヨウは言った。

部屋を出て、コウヨウを先頭にアイ、侍女を挟み、後方を部下の数人で固め、脱出するため王宮の東へと向かう。

王宮の東には何かあったための緊急時の抜け道があり、これは一部の王宮の人間にしか知らされていない。

部屋から出て右に曲がり、真っ直ぐに道を進む。

先頭のコウヨウは細心の注意をしながら、早足で歩く。

アイや侍女達もそんなコウヨウの早足に置いていかれないように少し駆け足気味にコウヨウの後ろ姿を追った。


 「(スメラギ・・・)」


 アイは心の中で友の名前を呼んだ。

様子を見に行くと言ってから時間は無残にも経過していた。

アイの耳には爆発音や遠くから誰の声とも分からない声が聞こえてくる。

恐怖心が心に募るが、それ以上にこの友の安否を思う感情が湧き上がってくる。


 「コウヨウ」


 アイは前方を歩く、信頼している老将の名を呼んだ。

コウヨウは歩くのを止めた。


 「・・・」


 しかし、コウヨウは何故か押し黙ってアイに対して返答しない。


 「コウヨウ・・・?」


 アイはまたコウヨウに呼びかける。


 「・・・」


 しかし、コウヨウは答えない。


 「コウ・・・」


 そうアイは声をかけようとしたが途中で言うのを止めた。

それはコウヨウの表情が普段のそれではなく、戦場で敵と相対する猛禽類を彷彿させる顔つきに変わっていたからだ。


 コウヨウの視線の先には左と右に道が別れるT字路がある。

薄暗く、両方の道はよくは見えない。脱出するにはここを左に行かなければならないのだがコウヨウの足はその場で要塞のように立ち止まっている。

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