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魔女様、勇者を拾う  作者: ものもらい
子犬編:
9/23

8.どれが夢で現実で幻想だ?



※暴力表現+少しのホラー注意。(一応マイルドなホラーに変えました)


大丈夫な方だけどうぞ。







男が異変に気付いたのは、高級なワインの瓶にそっと、茨が巻きつくのを見てしまったからです。


慌ててこの異常な部屋から"飛び出そう"としたら、きゅ、と白い手が男―――憎き怨敵ヴァンダインの当主の太い首を閉めようと、していて。



「なっ―――!?」



いっそ手の持ち主ごと飛び出してくれようかと思えば、その力はキャンセルされます。

それが可能なのは、魔王とその臣下である十怪の内数名と……。


不意に頭の上から仄かに香るその花は、昔恋して、そして奪ってやろうとして―――夫に殉じて死んだ女の、最期まで血に混じっていた………。



「なんて、長い時だったのかしら」



ぞっとするほどに静かなその声も、油の切れた人形のように仰いで見た、その顔も髪も何もかもが、"彼女"でした。



「れ、レティーシア、か……!?」

「―――やっと、全てが終わるというのに。……案外、何も感じられないものね」



ヴァンダインの言葉を無視して、レティーシア―――否。その娘、クローディアは淡々と言葉を紡ぎます。

その間にも、部屋は"あの日の"レティーシアが死んだ、悲劇に染まる部屋に変わり……。



「ねえ、覚えてる?……あの日の、私をおおおおおおおおおおおお!!!」



ぐちぐちと首を締めあげていた、その腕は茨に変わり、ざくりと深く肉を刺すそれに、ヴァンダインは叫びます。

ぼやける視界の全てに裂かれた腹から腸を、手に胎児を抱いた彼女が移りました。

近寄る彼女達を蹴飛ばそうと、必死に宙に浮く足をバタつかせて―――ふと首に食い込む力が緩んで、足が絨毯に着きます。

え、と両端に張っていた筈の茨の先を見れば、炭と変わりつつあって……。


「た、たすか―――」


た、と正面を向いたら、あの日の、美しい彼女が花が開くように微笑んで。

女神のような微笑に、こちらも釣られて口の端を歪ませた、ら。



「わ しィ   お腹  中      ら  が だ  す 奇なん      

  た   の   腹の 腹胎はら ら らら   ぁゐ      で     ?

                 ら     、           しょっ  」

                                        


ドレスが裂けて。

真っ赤な肉が覗いて。

やけに白い歯が、ヴァンダインの頭を。






――――

―――――――

―――――――――



「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」



ソファで寝転んでいたヴァンダインは、絶叫と共に目を覚ましました。

ぱくぱくと口を動かし、やがて―――ぐったりと、ソファに顔を埋めると、不意に部屋のどこか陰から、歌が聞こえてきます。



「♪おいでやおいで ヒキガエル、おまえのちっぽけな生よりも むごいものさ」


「♪よっといで ウジムシ夫人 はじらわずに さあ おくちをよごして」


「♪ついでにトカゲの神父さまも」


「♪ついでにそこのワインをささげて」


「♪サバトをするか」


「♪ファドをそえて」


「♪そこに なにゆえに いとしいきみは いないのか」


「♪いいえ いるわ」


「♪どこに?」



「「 こ こ に 」」




―――麗しの淑女と、にこやかな紳士。


腹を裂いてやった女は組んだ手の上に顎をちょんと乗せて。紳士は頬杖をついて。



「あ………」



その幸せそうな二人を見て、ヴァンダインは気付きました。



「わたし、の。くび、から、したが…」



無い。


――――紳士と淑女はその言葉にニタァと口を裂け、娘の手で投げられた首を、仲良く、まるで顔が二つある人間のように、くっついて。



「「いっただきまぁぁぁぁす!」」






――――

――――――

―――――――――




目が、覚めると。ヴァンダインは言葉も無く、絨毯の上で転がっていました。


そっと揺れるドレスの裾の方に目を向けると、顔色が悪く腕で顔を隠している娘が居て、その背後で、彼女の両親が髪を撫でつけたり、冗談でも一つ言ったりしています。



……娘はやがて顔を上げると、両親の頬にキスをしました。


擽ったそうに両親が笑うと、真っ白な薔薇の花のように。キラキラと光を反射しながら、そっと温もりだけを残して消えてしまいます。



「………眠いわ」



ヴァンダインは、もう百年はまともな人語を聞いて無かったような気分になって、そのまま黙って転がっていました。


すると不意に振動が伝わって、扉が乱暴に開くのが見えます。

慌ててやって来たのは、彼の息子、放浪癖を持っている、どうしようもない次男坊です。



(あ、待ってくれ)



次男はソファに座る娘と、部屋の至る所に巻きつく茨に足を止めます。



(な、待て。来るな。ヤバいんだ)


(死ぬ。死んじゃう死、死ん、しんぁうんだああよおいfはb;vんmヴぁ、)



次男は、逃げようとして、扉が開かなくて。振り返って見た、あの顔色の悪い娘相手ならば勝てるだろうと、見誤って。

使い込まれていない剣を抜いて、駆け出しました。



―――すると、魔女は呆れたように言うのです。






「あーあ、踏んじゃった」



次男の足の裏、男の魂が宿っていた目玉が、ねっとりと絨毯から糸を引いていました。







魔女の呪いが下る時。



追記:


「ほぅぅら豚らしく鳴いてみろよぉぉぉぉ!!」とか言っちゃう王子様なお姫様と、

静かに淡々とホラーな復讐をする魔女様。皆さんならどっちを彼女にしたいですか?




私は断然ッ恭ちゃんです!!(`・ω・´)-3


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