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魔女様、勇者を拾う  作者: ものもらい
子犬編:
7/23

6.彼女の復讐



その日、男装の麗人で彼女の友人である陽乃も、この家に泊まる事になりました。


結局話は纏まり、(諸事情で腕の立つ護衛何人かを病院送りにした陽乃のおかげで)守りの手薄なうちに叩く事にしようと―――そう決めた後、お風呂から上がった彼をベッドに座らせて、彼女はいつもと違う薬を塗ってくれました。



(……塗ったら、怪我の痕まで無くなった……)


元々、傷は塞がっていたけれど。


ああやっぱり、陽乃が言っていた通りだったんだな、と、彼は自分を見てくれない彼女を見つめながら思うのです。



「……怒って、る?」

「?」

「……帰れないように、したこと。怒ってる…?」

「ううん」

「……」

「嬉しい」

「…うれしい?」

「"ディアが"必要としてくれて、嬉しい」



少しでも元気になって欲しくて、彼はゆっくりと答えました。


彼女はやっと彼を見つめると、「本当に、復讐に巻き込むつもりはなかったの」と震えた声で言うのです。



「本当よ。純粋に、誰かと話す事が出来て嬉しかったの。生きてる人との生活が、楽しかった……」

「俺も」

「…―――あなたが、来年も居たいと言ってくれて、とてもね、とても……」



唇を噛む彼女は、また俯いて、そこから続きを話しません。

彼は、小刻みに揺れる銀髪に触れると、うっとりとした目で言いました。



「俺、ディアの為なら、何だってするよ。ディアが喜ぶなら…ディアを困らせるのは、俺だけで十分」



そう、彼女がかまってくれるのは、自分だけでいい。


彼がそのまま彼女の髪に顔を埋めると、彼女は身体を固くしたまま、やや間を置いてから、口を開きました―――











――――私のお母様は、とても綺麗な方。


魔界一の美女は魔王様で、二番目がお母様と皆は言うのだけれど、お父様はお母様が一番だとよく抱きしめていた。……私も、お母様が一番だって、思ってたの。


そんなお母様と私はそっくり似てて、お父様は私に新しいドレスを与えるのが楽しいと言っていて、お母様とお揃いにしては、家族三人でお出かけをしていた。魔界では珍しく夫婦円満で、お父様もお母様もお互いだけだった。


ある日お母様はご懐妊されて、私には新しい弟が出来たの。まだまだお腹は目立っていなくて、私には本当にいるのか分からなかったけど。でもね、お姉さんになるのが嬉しかった。


そんな頃に―――私は、体調を崩して寝込んでいて、お母様は私の面倒を見た後に、仕事で留守のお父様の代わりに来訪者の接待をした。


そして、お母様も弟も、死んでしまった。



『…どうして、死んでしまったの…?』

『……すまないクローディア、お前には…とても……』



お父様はそう言って、教えてくれなかったけど。

侍女の内緒話で聞いたわ。お母様は来訪者――ヴァンダインに、人妻で妊婦だというのに、……ああ、言うのもおぞましい!


けれどお母様は汚される前に自殺したわ。気高い人ね、と侍女は言っていたけれど……私は、私の我儘では、どうあってもお母様には生きていて欲しかった……。


―――そして魔界で二番目に美しい女を抱けなかった屑はね、死んだお母様の腹を裂いて、私の弟を踏み潰したのよ。とても悲惨だったと侍女は泣いてた。お父様はお母様と弟の墓標の前で、昼夜問わずに泣き続けたわ。


でも、私の為にお父様は立ち上がった。私の頭を撫で、たくさん愛情を注いでくれた―――…一年だけね。きっと、もうお父様には耐えられなかった。


お父様は私に全てを任せると言って、どこかに消えたの。…ううん、分かってたわ。復讐しに行ったのよ。


―――だけど、お父様とお母様、弟が報われる事は、無かった。



お父様はね、数の暴力で負けたのよ。卑怯な罠で負けたの。

お父様が手にかける事が出来たのは、幾らかの護衛と、同じくお腹に赤ちゃんを身籠っていたヴァンダインの妻。……お父様は、負けて嬲られヴァンダインの領地内を引き摺り回され、そして晒されたわ。

私は泣きながらお父様の御遺体を引き摺りおろした!お母様と弟の隣に眠らせて、いつかのお父様のように昼夜問わず泣いたわ。無力な自分を引き裂いてやりたかった!!


そして私はお父様とお母様、弟に誓ったの。我が一族のこの屈辱は必ず晴らすと。今度墓前に持って来るのは花じゃ無い。ヴァンダインの首を持って来ると。


……そしたら、私の黒い感情に引き寄せられて、"彼女"が現れた。



『ああ、なんたる悲劇!僕は悲しみの海に沈むあなたを救いたい!』



―――月しか無い夜、出会ったものは、魔女。


私は魔女にしてくれと願ったわ。足に縋りついて、何度も何度も頼みこんだ。

……魔女になれば、私は、悲願を達成できるのだから…!



芝居がかった魔女は「王子様を待たなくていいのかい?」と尋ねてくれたけど、私は必要ないと、言って………


…………。



…そう言ったくせに、結局、私は王子様あなたに、縋るの………?











「まったくいい朝だ。全てが終わって始まるよ」

「……そうね」

「眠い?…まあ、昨日の夜そこの子の部屋から出て来なかったものね?」

「ゲスめ。そういう事は一切してないわ。…ただ寝てしまったのよ」

「可愛かった」

「あんたは誤解させるような事喋らないの!…パン屑付いてるっ」

「いやはや良い夫婦な事で。……あー、血が飲みたい」

「……断るわよ?」

「残念。可愛い女の子の血は美味しいのに」

「ミネストローネを黙って掻っ込んでなさいよ」



まるで二日酔いの男のような陽乃に、彼女は呆れ顔です。


それでも優雅さは消えない所が「姫」というか。黙って二人を見ていると、不意に陽乃が彼にこんな問いを投げかけました。


「ねえ、僕とクローディア、どっちが美女?」

「ぶっ!」

「……?」

「君なら、どっちに黄金の林檎を与えたい?」

「ディアに」

「ごふっ!?」


いえ、目の前の王子様のようなお姫様も大変麗しいです。人間でこの人に適う美女は居ないでしょう。

顔立ちはまるで人形のように完璧なのに、その深紅の目だけが挑発的で、獣の艶やかさがあるからこそ、危険な女性特有の魅力が増すというか。


けれど彼は、二度もミネストローネを吹きそうになっては手で押さえて咳込む彼女の方が良いのです。

銀の髪はなんとも神秘的で、赤みの強いインペリアルトパーズの瞳は見ててホッとしますし。それに、彼に何でも教えてくれて、与えてくれる―――彼女だけが、彼を……。



「ふーん…まあいいけど。恭ちゃんが私に黄金の林檎をくれれば、それだけで満足よ」

「ああそうっ…あんたも変な事言わないの!」

「どうして?本当の、」

「ちょっ、…もういい!ほら、おかわりは?」

「食べる」

「…そういや、クローディアもちゃんとお腹にまともな物詰めれるようになったのね」

「え……ま、まあ…」

「あっ、あれか、今まで寂しくてまともに食べれなかったんでしょう?」

「うっさい!」

「可愛い」

「あんたは黙ってミネストローネ食べてなさい!…まだあるからね」

「うん」

「やだ、ディアったらお母さんみたい」

「……しょうがないでしょ、この子自分にまで無頓着なんだもの……」



―――最初は、弟が出来たらこんなものかと思ったのだけど。


彼女は、ええ、誰かを誰かの"代わり"なんてしないと、決めていたのに、何十年も一人で過ごしたあまりに、彼を姉と慕ってくれたかもしれない、見たことも無い弟の妄想に重ねていました。


…と、言ってもそれは最初だけ。こんなストーカーな弟は嫌ですからね。……でも、頼るものすら無いと子供のように縋る姿が、嬉しかったのは内緒です。


彼女はごほん、とわざとらしく咳込むと、すっと話題を変えました。



「……そういえば、あんた何で急にやる気になったの?」

「え、ああ…別に、ディアが頼むなら殺し手伝ったけど」

「だって前は私が何か言うまで何も言わなかったじゃない」

「……いやさ、こっちもね、ヴァンダインのド腐れカマ野郎に喧嘩売られたのよ」

「…あんたに?…女であっても公衆の面前で二つの意味で捨てられる寸前の雑巾みたいにして高笑いするあんたに?」

「二回も言わないでくれる?」

「事実でしょ」

「そうだけど―――まあ、アレよ。ヴァンダインの長男坊いるじゃん?」

「え?…ああ、父親似の不細工」

「……ぶさいく…」



女性同士の会話特有の、開けっ広げな毒評価を彼が復唱すると、その口元を彼女がハンカチで拭ってくれました。


それに照れ照れとしていると、見目麗しい男装のお姫様は、ガンッとフォークを肉に思いっきり刺して、



「……あの野郎…、恭ちゃんが手間をかけて育てた花を踏みつけて唾吐いて"女のなり損ない"って言いやがった……絶対殺す。お持ち帰りして廃人にしてくれる…!!」



どんどん曲がっていくフォークに、彼女はさっと目を逸らしてパンを小さく千切って口に放り込みました。


「何なの?僕の恭ちゃんを虐めて許されると思ってるの?アザラシの顔面ニキビでしかもそれを潰したような小汚い顔を綺麗で清らかな恭ちゃんに見せやがってあの野郎、たわしで擦って擦って綺麗な赤にしてやろうか?真っ赤に染めてくれようか?恭ちゃんあの花が咲くまでとても苦労したのに。『花が咲かないの…』って涙目で僕の服を掴んでもああもう本当に可愛らしいよ恭ちゃん!!大丈夫よ恭ちゃんに害成す輩は僕が駆除するからね!派手に壊して二度と恭ちゃんにふざけた真似するのが出ないようにするから!ああ大好きよ恭ちゃん恭ちゃん恭ちゃん!!きっと恭ちゃんは可憐で美しいから豚どもが集るだろうけど大丈夫!僕が全部捌いてあげる!恭ちゃんの隣に居るのは王子様の僕だよ。大丈夫、お姫様を守るのが王子様だもの!恭ちゃんの為なら世界でも何でも革命しちゃう!!だから笑っていてね恭ちゃん!僕にだけ笑っていてね、そしたら恭ちゃんが見えない所で僕が全部全部終わらせちゃうから!まずはヴァンダインのトドを躾けてくるね!僕の手で調教して恥ずかしい事散々させてそこらに放置するけど大丈夫!恭ちゃんが見ない所に投げ捨てて来るから、だから恭ちゃ」


「……ディア、あれ、止めなくていいの…?」

「……無視なさい、関わると殿下の話が三時間は続くわよ」

「……」

「…あ、飲み物いる?」

「…うん、」


「恭ちゃんが望む綺麗な世界にしてあげるからね、恭ちゃんが望む"楽園"で、全てを恭ちゃんの物にしてあげるからね……!」



恋する女は怖いな、と思う反面、彼女には悪いけれど、陽乃の長文な気持ちも分かる彼でした……。






シリアス過ぎたので中途半端なギャグ入れてみました→まとまりがない…。


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