2.懐かれた件
※ラストに作者絵あり(時間なくて落書き)
「いい?ゆっくり食べるのよ。しっかり噛んで」
「………、……」
「美味しい?」
「……」
「そう。…あ、コンポートがあるんだけど食べれる?」
「………」
「…何よ?」
「……い…ですか」
「ねえ、あなた今までどうやって意思疎通して来たのよ?短文でかまわないからしっかり発音なさい」
「……食べても?」
「もちろん。たくさん食べなさい、さっきまで血が足りてなかったんだから」
「………」
「…こっちはおかわりする?」
「……きみ、あなたは?」
「まともに会話できない癖にそういうことしなくていいわよ」
「……」
「だからその顔やめなさい」
迷子みたいな顔しないで、とそっぽ向く彼女―――ああ、そうだと、彼はやっと気付きました。
「名前…」
「え?ああ…そうね、名乗ってなかったわ…」
皿を片づけて新たに持ってこようと腰を浮かせた彼女は、「いけないいけない」と言って座り直します。
そして「あなたもそういう所は気にするのね」とまじまじと顔を見てから、教えてくれました。
「私はクローディア。この森の…魔女よ」
「魔女……魔法使い、じゃ」
「ふん、私を素人と一緒にしないで頂戴。見習いとはいえ私はこの世界で唯一の魔女なんだから」
「………?」
「この世界に気まぐれでやって来た魔女に教えを乞うたのよ。今は自分なりに訓練を重ねてて……」
「………」
「―――あなた、茨の向こうから来た子でしょう?あの太刀は女神の気配がたっぷりしてたし…勇者様なんだから一人でうろついちゃ駄目よ。魔物のおやつにされたいの?」
「……急に、襲われて…進んだらここに来た」
「あら、それはお気の毒。…まあしばらく休んだら向こうに帰してあげる。今はたくさん食べてたくさん寝てなさい」
「……?怪我…?」
「今は薬が効いてるだけ。何もその下の包帯は飾りじゃないのよ」
「……魔法で…」
「重傷患者に治癒魔法で一発?…馬鹿言わないで、治した箇所が脆くなるのに――よっぽど急を要す時じゃなければしないわよ」
ツンケンした物言いですが、ちゃんとしっかり返してくれます。
ツンとした後に、彼を気にかけた言葉をくれます……。
「俺、夕凪」
「えっ」
「……夕凪…」
「あ、ああ、名前ね…だからそのしょぼくれた顔を止めなさい」
「……よろしく」
「え?よろ……あなた勇者でしょ!?」
人生で初めて、彼は自分から友好の手を差し出しました。
*
とてもあっさり簡単に述べますと、彼は彼女に懐きました。とても懐きました。
「ぼんやりしない、さっさと薬飲みなさい。身体が痛くてのた打ち回っても知らないわよ」
「…もうパンを食べても大丈夫かし―――きゃあああああ!!だから静かに部屋の隅に居るのをやめろと言ってるでしょ!?ていうか部屋で寝てなさい!」
「悪いけど寝間着は急ごしらえのこれで我慢して頂戴。…あ、あとあなたの血まみれの服は繕い終わったから」
「―――だからぁぁぁ!ついに台所超えて仕事部屋にまで来たわねこの馬鹿!糸紡ぐのに忙しいんだからあなたにかまってられないのよ!……その顔やめなさいっ」
生まれたばかりの雛のように、彼は彼女の後に付いていたかったのです。
そこに生々しい感情は無くて、純粋に彼女を慕っていました。
「…手伝う」
「糸紡ぎを?…いいわよ男手必要ないから」
「………」
「その顔やめなさいってば」
「……」
「…じゃ、じゃあ、そこの布の山を整理してくれる?紙に日付書いてあるでしょ、それと同じ物を綺麗に積んでって」
「……了解」
こうしてやんわりと我儘を通しますが、彼は彼女の部屋には行ったことがありません(その程度の常識はありました)。
いつもは受け身で無感情なくせして頼られてはホッとしていたのに、今では自分から頼ってもらいに行きます。……大抵叱られますが、彼女は折半案というか、いつも折れてくれて。
―――確かに、薄っぺらな彼の意思を尊重してくれているのです。
「あ、そうだ。今日はシチューにするのだけど、兎と鶏どちらがいい?」
「………」
「………」
「……とり」
「そう。野菜は堅い方が好き?」
「特に」
「あなたって薄味好きよね」
「…―ディアは、嫌い?」
「いえ?私も薄味が好き」
糸紡ぎ中の彼女の周りには、機織り機やらボビンレース用の道具やら色々あります。
棚には目を引く程に鮮やかな糸、落ち着いた生地が置かれていて、彼はパタパタと動きながらもキョロキョロしていました。
「ディアは…服飾の仕事を?」
「そうね。でもこれは趣味半分…これと魔法薬を売ったりして生計立てているの」
「……一人で?」
「いえ、援助してくれる友人が居るのよ。昔はとても頼りにしてしまったわ」
「……友人……今でも、遊ぶことも?」
「…いえ、今は動乱期ですもの。こんなご時世でのんびり出来るのは私の所ぐらい……」
「……寂しい?」
「…―――そうね、時々、寂しいわね……」
彼にしては、珍しく長く会話が持ちました。
けれどそれに驚くよりも、彼の頭は糸を紡ぐ手を止めて呟いた彼女でいっぱいです。
「……あ、そうだ。薪運ぶの手伝って頂戴」
「……りょ…分かった」
「なぁに?急にフランクになって」
「……」
彼は彼女の寂しさに寄り添いたいと思いましたが、それは決して同情ではありませんでした。
これは――きっと、彼には無かった感情が、新たに孵ったからでしょう。
*
「ほら、手を伸ばして」
「……沁みるわよ。いい?沁みるからね?」
「……」
「…う、ぅぅ…」
「……ディアは、怪我の手当てが嫌い?」
「あなたのは手当てしてきた中でも一番痛そうなんだもの!…ああもうグロいったらありゃしない……」
「……」
「その顔やめなさい」
「……自分で…」
「駄目よ。あなた、絶対ぞんざいに塗ったくるだけなんだから」
「………」
「…ふぅ、そこの包帯取って」
「ん、」
「……しっかし、いくら痛み止め飲ませてるからって…よくまああんな簡単に薪の山を運べたわね。運べと言ったの私だけど」
「……ちょっと痛かった」
「何でその場で言わないの!」
「………」
「…私が軽率だったわね、ごめんなさい……人間の手当て…いえ、実はここまで重傷の子の面倒見たこと無いのよ。どうにもあっちに合わせてしまって……怒ってる?」
「ううん」
「これに関しては即答?…胡散臭いわね…」
「本当」
「……ああはいはい…―――ごめんね」
彼女は割と、表情を変える子だなぁと、彼は思うのでした。
冷静で知的な雰囲気があるのに、今しょんぼりしている彼女はまるで子供のよう。……。
「もふもふ」
「」
頭を撫でようとして、失礼かな、と思って―――目に付いて中々離れない銀髪を、彼はそっと持ち上げて両手で弄ります。
くるくるしていて髪質の良いそれは、指と指の合間を通ると気持ち良くて……
「馬鹿っ!」
頭を叩かれるまで、彼は弄っていました。
*
魔女様は割と寂しがり屋。そして天然になりつつある勇者様。
補足(キャラ紹介) ※作者絵あり。
*大殿 夕凪
・家族の愛情をまともに得る事が出来なかったイケメン。高校になってアルバイト始めたので身体はやや細いけどまともに。それまでは顔色悪過ぎて笑えない子でした。
愛情が得られないのもあって、それをどう得るものかよく分かってない。無感情に近いけど、だからこそ不安定。「頼ってくれる人」に依存します。
前までは妹に頼られて安定を得ていたけれど、一話の通り思考が重くなると酷い手段に出ます。……いや、妹に関しては若干の恨みもあったかも?
・尽くす事には慣れてても尽くされる事に慣れてないので現在結構戸惑ってる。新鮮過ぎて魔女さんにすっごい興味持ってる。
身体は成長してても心は幼いのか、親身な魔女さんに懐いてしまった。かまって欲しいから怪我して痛くてもじっと傍に居る。かまってくれるのを無言で待ってる。そんなホラーに耐えなければならない魔女さん……。
↑中華っぽい感じの服で異世界を旅中だった。武器は日本刀。
*クロ―ディア
・諸事情で森の中で生きてる魔女さん。実は3…40歳くらい(適当)。
当然の事に魔族で「君好きRPG」の魔王カップルの陽乃様のご友人。時間厳守で規律を重んじる、魔族の中ではまともな人。公的な場では表情が動かない。ひさびさのお客様(夕凪)に実は浮かれてたりする。
・魔女見習いであるせいで、強大な力(それもまだ中途半端)と引き換えに身体がめっさ弱い。
実はお洒落好きでカフェラテ好き。可愛いラテアートが出されると内心でははしゃいじゃう。
なんでも、ある目的の為にも、今はひっそりと魔王城から退いたらしい……?
↑後に巨乳に育つけども現在は(自分では認めてないけど)寂しさやらストレスから食が細くてちゃんと育ってない。だから「女性」ではなく「少女と女性の中間」の表記。