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K-4  作者: 林来栖
第一話 ミズ
17/28

17.後始末と予感

 青葉学園男子高等部で起きたこの奇妙な事件は、二重三重の人為的ミスとして世間には公表された。

 すなわち、正門が開かなかったのは、門扉の下に取り付けられている滑車が老朽化し、一部が損壊していたため。実際消防と警察が調べ直した結果、二箇所の滑車が錆びて砕け、一箇所が外れて無くなっていた。

「早く開けようと大勢で押し大きな力が加わったため、砕けてしまった」というのが警察の見解である。

 通用門も、異常な出来事に慌てた消防士と警備会社の社員が通常の鍵の他に二つ新たな錠が足されている事に気が付かなかったという。

 この二、三週間前に不審な人間がここから入ろうとしていたとの連絡があり、事務の方で錠を買って付け足したのだ。

 スプリンクラーの件も、急に気温が上がったために室内の温度が人いきれと相乗効果を起こし、その熱を火事と間違ってセンサーが作動したものだという、些か苦しい理由が付けられた。

 確かに六月にしては異例の暑さであったし、前からしばしば誤作動していたセンサーは『勘違い』をしても不思議ではない。

 器具類はそれで説明がついた。

 しかし、自然現象である雷や雨の集中はどうにも説明がつかない。

「盆地や高山などでは、ああいった局地的気象異変はままあるんですが、丘陵程度ではすこぶる珍しいって事でカタがついたようです」

 二日後。四人は寮の紫と悟の部屋に居た。

 消防と警察は一応見解発表はしたものの、まだ不明な点があるとして引き続き現場検証をやっている。

 現場、といっても、それこそ水浸しになったのは青葉の校舎全部である。従って、授業はこの二日間、完全に休校になっていた。

「あの朝、貴史が望んだ通り、学校休みになっちゃいましたねえ」

 紫の椅子を借りて座っている伊織が、笑いの形に口を開く。

 隣の悟の机の前にしゃがんだ貴史は、だがふて腐れたように「でも楽しくねー」と呟いた。

「どうしてです?」

「ガッコ休みでも現場検証と事情聴取で外出らんねーじゃんよ。これじゃー水浸しで閉じ込められと一緒じゃねえ?」

「それにしてもさあ、どーして寮も体育館も水浸んなかったのかなあ?」

 ねえ紫? と悟は二段ベッドの上から身を乗り出して、下の段に座っている従兄に訊いた。

 巫女姫に身体を乗っ取られ死霊と霊力戦をやれ勝った途端に気絶した紫は、その後まる一日眠っていた。

 意識が無い紫を貴史が抱いて寮まで連れて返ったのだが、目覚めた昨日一日、それをネタに男が彼を揶揄い続けたため夕食後に思い切り反撃した。

「おまえも見ただろうが。水槽の模型には寮と体育館と武道館は無かった。だからだ」

 破壊した後、土台の発泡スチロールの中に仕込まれていた呪符を退け、水槽と模型の破片は一旦化学準備室の掃除用具入れに隠した。

 夜、警察と消防が引き上げてから伊織と貴史が校舎に忍び込み、改めて回収し廃棄した。

「あと、食堂と弓道場も無かったですね」

 何故でしょう、と伊織は首を傾げる。

「めんどくさかったんじゃねえの?」

 貴史が落ちて来た前髪を片手で煩そうに掻き揚げる。左目の下と右の顎下に、紫に反撃された拳の痕が、赤と青の痣としてまだくっきり残っていた。

「あんだけ器用なのに?」

 悟は、ベッドの安全バーに捕まり前転で下へと下りて来る。

「……恨みがあるのは学校、しかも勉強する場所の『校舎』だったんだろう。だから管理棟とホームルーム棟、特別棟のみを作った」

「それと校庭? でも体育館も学びの場ですよ?」

 あれだけの騒ぎを見せられて、オカルトや神秘主義には懐疑的だった伊織も、少しは信用する気になっていた。

「学校を恨むなら、青葉の全てを水没させようと考えるんじゃ?」

「あれはわざとだ。術に脅かされた者達が逃げ込める先があるように」紫は、淡々と説明した。

「ってコトは、奴は人殺しをしようとは思って無かったんだ?」

 貴史がふうむ、と顎に手を当てる。伊織は「ああなるほど」と頷いた。

「それを前提に考えれば、色々判ります。寮も見立てに含まれなかったのは、ここは生活の場だから。正門と通用門が開かなかったのは、怖がる人達を出さないように。また逆に、関係無い外の人達が入らないように」

 伊織の推理に紫も頷く。

「だが……。まだこれで終わりと決まった訳じゃない」

「えっ、まだなんかあるのっ? もーいいよお」

 悟が、頭を抱えて伊織の左隣に蹲る。

「あー……、俺ももういいわ。幽霊なんざ金輪際見たかねーし」

「貴史もほんとは怖いんじゃんかっ」

 前にからかわれた事を根に持っていたらしい悟が、口を尖らせる。

「ああっ!? 俺あ怖えなんていってねーぞこらっ。ただ、気持ちわりーのがヤなだけだっ」

「うっそだねーっ」

「うるせーよっ! マメガキ子イヌっ!!」

「言ったなあっ! マヌケエロオオカミっ!!」

 椅子を真ん中に大小二匹が睨み合う。間の伊織がぱんぱんっ、と手を叩いた。

「あーはいはい。どっちもイヌ科で元気で何よりですねっ。……それより紫」

 伊織に一刀両断に切り捨てられて戦意を喪失した貴史を、悟が哀れむ顔で覗く。

 完全に無視して、伊織は真面目な表情で紫に訊いた。

「今井君、未だに連絡取れないそうです。……巫女姫様もあなたも、彼が死霊だって仰ってましたけど、もしそうなら、そろそろ自殺か他殺の報が入っても良さそうだと思いませんか?」

「……何が言いたい?」紫は怪訝な顔で片眉を上げ、伊織を見る。

「あなたさっき仰いましたよね、まだ終わってないかも知れないって。僕もそう思うんです。彼の怨念は、まだ消えていない。青葉の何処かに、まだ彼の仕掛けが残っているよう

な気がするんです」

 あれだけ周到に準備をしていた今井である。その執念が、これで終わる筈は無い。

「ぶっきみー……」貴史が気の抜けた声を上げる。

「けど、何であんなにガッコを恨んでるんだ? 前にいじめられてって聞いたケド、それならいじめっ子共だけに復讐すりゃいいんじゃねーの? ガッコ全体巻き込むイミがわからねー」

「僕は気付きませんでしたが、本当に今井君がいじめられていたとして、いじめた当事者への復讐もあるでしょうけど、知っていて知らん振りをした他の級友への恨みというのもあったんじゃないでしょうか」

「げっ……、そこまで恨む?」

 貴史は驚いて伊織の美貌を見上げた。初夏の午後の陽射しに照らされた白い横顔は、少し寂し気に微笑む。

「……酷いいじめに遭った者しか、その心理は解らないかもしれませんね……」

 密やかな声の裏側を読んで、貴史は苦い顔をした。

こちらも久々の更新です。

紫達四人、まだまだなにか起こりそうな予感に、もやっとしてます。

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