13.外部遮断と体育館の状況
鳴り止まない雷鳴と豪雨に、体育館に入っていた教師も生徒もみな不安に震えていた。
「一体、どうしてこんな事に……」
教師陣はせめて生徒だけでも校外へ出したいと何度か外を窺った。が、その度に異様に低く走る稲妻に襲い掛かられ、止む無く脱出を諦めた。
ではせめて外の様子を聞こうと携帯電話を掛けたが、やはり雷のせいか全く繋がらない。
万策尽きて、最早動く気力も無い。
気温も大分下がっている。夏服で肌寒さを感じる生徒達はロッカールームから自分の体操着を持って来て羽織っていた。
「消防の方々が来られないという事は、やはり通用門も開かないという事でしょうね……」
校長と共に運動用マットに座っている三年の学年主任が弱々しく呟いた。
「もう一度、外へ出てみましょうか?」
側に立っていた若い体育教官が申し出る。
「雷は気を付けなければならないですが、雨は何とかなりますし」
校長と学年主任が一瞬顔を見合わせる。
「行って、頂けますか先生?」
近くで聞いていた二年生が、口を挟んで来た。
「だーっと走っちゃえば大丈夫っすよきっと」
彼等は最後に体育館へ辿り着いた組である。
「さっき俺達も、雷掻い潜ってここまで来たし」
「でも何処へ?」
もう一人が尋ねる。
「そりゃ通用門だろ?」隣の一人が突っ込んだ。
体育教官が頷くと、先の生徒が手を挙げた。
「俺らも行きましょうっ」
「い、いや、それは危険だ。君達はここに居なさい」
学年主任が彼等を止める。
「通用門は、さっきも言ったが開かないだろう。行っても無駄だ。それに、この雨だ、前が見えない上あの低い雷を避けながら何人もが走るのは無謀だ」
「そりゃそうだけど……。でももしかしたら、みんなで協力すれば開くかも知れませんし」
「そうそうっ。それに、生徒会長も……。あ、そうだ生徒会長、俺達がホームルーム棟で立ち往生してたら外からやって来て」
「一条がっ!?」
二年の言葉に、教師達が驚く。
「ええ。高柳と篠原と。あ、あと生徒会長の従弟の、一年の泉も。先輩達、気合いで校庭と壊れた渡り廊下を駆けて来たって。それで俺達も根性出して体育館まで走る気になったんです」
「あいつら……」
体育教官が唸る。
「それで? 奴ら何処へ行くって言ってたんだ?」
二年生達が顔を見合わせる。
「『危ない事しに行く』って、ホームルーム棟の廊下を奥へ歩いて行ったけど……」
「あンのバカ共っ!!」体育教官が歯噛みする。
「勝手な行動ばっかりしやがってっ」
「全く……。飛んだ生徒会長ですな」
やれやれ、と学年主任が頭を抱えた。
「けど、危ない事って何だろうな……?」
それまで黙って体育教官の隣に立っていた紫のクラス担任が呟いた。その場に居合わせた者達の視線が、一斉に彼に集まる。
「あ、や、そのっ、ホームルーム棟の奥へ行ったっていうから……」
赤くなり、担任はへどもどと答える。体育教官が渋い顔で溜め息をついた。
「一体何を考えているのか……」
「そうですなぁ」校長が、穏やかに言った。
「ですが、一条君には一条君なりの考えがあるのでしょう。今の我々の状況では彼等を連れ戻しになどは到底行かれませんし。我々は彼等の安全を祈るのみですね」
教師達も、生徒達も深く頷く。
彼等のその横顔を、低く唸るような雷鳴と共に煌めいた稲光りが、鋭く照らした。
無謀バカ四人組、みんなに心配掛けっぱなしの様子(汗)