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K-4  作者: 林来栖
第一話 ミズ
10/28

10.現実主義者と憶測

 雷雨は一向に止む気配が無い。

 運動場の水溜まりは、最早沼か池かという様相である。

 死霊の怨念が降らす雨は、しかし隣接する青葉女子や坂下の住宅には一滴も降っていない。

 青葉学園男子部のみの集中豪雨である。

 この異常な現象に、何事かと女子部の生徒や教師、坂下の住人までが青葉の周囲を取り囲んだ。

 正門も通用門も開かず、更に電話もインターネットも繋がらない。中の様子がさっぱり分からない消防と警備会社、それに警察は、再度機械を使って正門を開けようと試みた。

 が、やはり先刻と同じような放電現象に阻まれ開けられなかった。

 騒ぎを見ていた住民の一人が、面白半分にマスコミに通報した。二十分程でたちまちテレビ局の中継車が数台、坂を上って来た。

 だが、警備会社からそれを聞いた理事会は即座に警察にマスコミ排除を要請。報道規制が敷かれた。


 ******


 外でのそんな騒ぎを知る由も無く、紫達は嵩の増えた水の中を特別棟に向かって進んでいた。

 ホームルーム棟の北側から徐々に増していた水は、渡り廊下の中間で一挙に増えていた。

「うわー、真ん中で線でも引いてあるみたい」

「完璧にヘンだわなこりゃ」

「紫」伊織が、前に見える自分よりやや低い金茶の後ろ頭を、険しい視線で見た。

「見立てにしても、これはかなり大掛かりだと思いませんか?」

「ふん……」紫は足を止める。

「確かにかなり勉強しやがったな。ここまでとなると、恐らく品物だけでなく、他に幾つか呪符やそれらに準ずるものも使っているかもな」

「なるほど……」

 伊織は片手で眼鏡を押し上げた。

「僕がその手のものは、全く効果に信憑性が無いと思っているのは、紫はご存じですよね? その上で、申し上げるんですが、聞いたところですと今井君はお父上が著名な建築デザイナーで、以前は彼もお父上の跡を継ぎたいとその方面の勉強に励んでいたそうです。有名な建築物の模型を精緻に造り上げ、部屋に飾っていたと」

「……なるほどな」紫は腕を組んだ。

「青葉の模型か」

「ガッコの、模型……?」

 悟が目を丸くする。

「そんなもんが、なんだってんだよ?」

 貴史が胡散臭そうな顔で、汗と水に濡れた長髪を掻き上げた。

「呪具です」伊織が短く答えた。

 悟は、紫と一緒に育ったため、日常的に呪法や呪具についての話を聞いていた。しかし、立体的な模型が呪具として使えるというのは、聞いていない。

 貴史に至っては、呪が何であるかさえ、まだ理解の範疇外である。

 解っていない顔の二人に、紫は淡々と説明した。

「呪具ってやつは、流し雛と一緒だ。自分の形代(人形の紙)に病気の箇所を書き、川に流して快癒を願う。願いが呪だ。呪の効果を上げるために、例えば他人の不幸を願うなら、その相手の身に付けているものを、形代に着ける。

 今回の場合、今井とかいう奴は青葉という学校に呪を掛けている。普通は、校舎の図面などを用いるんだろうが……。確かに、模型の方が効果が強いかもしれんな。立体な分、呪の効力も高くなる」

「呪具って、霊力の強い場所で使うと、効果絶大、だったよな?」

 悟は、以前紫の父から聞いた話を思い出しながら尋ねる。

「いえ、呪う相手の身近に置く方法もあります」

 信じていないと言いながら、方法は知っている伊織が答えた。

「じゃ、呪のためのガッコの模型が、ここのどっかにあるって事かっ?」貴史が顔を顰めた。

「さて……」紫は、榛色の目を行く先に向けた。

「本当にあるかどうかは分からん」

「ああっ!? だったら何のために行くんだよこんな水ん中っ!?」

 貴史が吠える。伊織が紫の言葉を補足した。

「ある可能性があるから、行くんです。もし本当にあれば逆に幸い。それを取り除けば取り敢えずこの怪異は鎮まります」

 という事でしょう? と、振った伊織に、紫は「まあな」と頷く。

「ちっ……。ならしょーがねえよなっ」

「貴史も納得してくれましたし。さあ、とにかく行きましょう」

「信じてねえおまえが言うか?」という貴史の突っ込みを無視して、伊織は、紫の後に続いて歩き出した。

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