レベル52のシーザーさん
風呂から上がり、頭にタオルを巻いてスマホチェック。
「あ」
ダンジョンの動画や写真収益化は禁止だけれど、唯一公式探索者サイトでは収益化できるのか……。
動画や写真は厳しいチェックが入るのね。無謀な行動すればアカウント停止。
「ふぅーん、SNSみたいな形なんだ。探索者カードを読み込み、顔認証でアカウントができる?簡単なんだ」
あっという間にできた。顔は非表示。表示される名前は、どうしよう……。有希だから、ゆき、雪、スノー?
ラテン語で雪はニクスか。これでいいか。ニクスと。個人情報につながることは言わない方がいいっていうのはSNSと一緒だね。
SNSとブログの中間みたいな感じだなぁ。文字制限なしなんだ。
書き込めるのは探索者のみ。見るのは誰でもオッケー。
人気探索者ランキングや、記事ランキングなんかもある。他にもいろいろありすぎてよくわからない。
「ん?この人……」
人気探索者ランキング1位の人、スマホを拾ってくれた人だ。
めちゃくちゃイケメンのシーザーさん。無精ひげとサングラスをプラスしたらあの顔になる。
「レベル52。すごい人だったんだ……」
……っと、私は人気とか収益化とかどうでもいいや。メモ。
1日目 Yさんに1階層を案内してもらう 収穫なし
2日目 Mちゃんに魔法を教えてもらう 魔力切れで倒れる
1週目合計11時間。今週分ノルマ達成。
週に8時間ってあるけど、月に32時間だ。月ごとに達成できていればいい。あと何時間だったかな?のためのメモ代わり。
土日はダンジョンにはいかず引っ越してまだごたごたの荷物の整頓。
まだ、感情は動かないままだ。現実味がない。
月曜に出社。中堅の商社。
「結婚おめでとう!」
同僚の桜が花束を抱えて待っていた。
「ごめん、入籍してないんだ。それどころか寝取られた上に家を追い出されて探索者デビューした」
ひくりと桜のこめかみがひきつった。あれ?寝取られるって男側の言い方?まぁいいか。伝わったみたいだし。
「誕生日のお祝いと、探索者デビューのお祝いとして受け取ってもいいかな?」
と、笑って差し出された花束に手を伸ばす。
別の同僚がふんっと鼻で笑った。
「やっだぁ~結婚の予定を逃して、探索者になるなんてめでたいわけないじゃない~強がり言っちゃって」
28歳で来月結婚予定の子だ。
これ見よがしに婚約指輪をはめた左手をこちらにちらちら見せてくる。よくキーボードが打てるなってくらい長いネイルの子だ。
「28歳で結婚して、34歳で離婚してもうすぐ35歳になる子に寝取られたの。確かに、寝取られたんだから全然めでたくないよね」
私の言葉に、左手をひっこめた。
ぷっと、桜が笑った。
「確かに、結婚できても、離婚したら一緒だ。全然自慢でもなんでもないよね」
桜の言葉に、ぐっと唇をかんでネイルちゃんは立ち去った。
すぐに、桜に腕をつかんで給湯室に連れ込まれる。
「入籍前に突然寝取られて探索者って、本当に大丈夫?無理してない?」
両肩をつかまれて揺さぶられる。桜とは同期入社。桜は30歳の時に結婚して娘が一人いる。
「うん」
「……本当?」
桜が心配するのも当たり前だ。
ダンジョンに行く前の私を含め、世間一般のイメージは「危険」「死亡率が高い」「魔物が出る」といったマイナスのものが多い。
「それがね、ダンジョンの1階層はそれほど危険もなくて、ちょっとしたリゾート地になってるのよ」
「は?」
驚くよね。
「有休中、木金にダンジョンに早速行ったんだけど、美人なお姉さんと焚火を囲んでマシュマロを食べたよ」
正確にはお姉さんじゃなくてオネェさんで、焚火を囲む前に魔力切れでぶっ倒れたけど。
「何それ、ちょっと有希、詳しく」
朝礼を始めるとの声に慌てて給湯室を出る。
「昼休みにね!」
と桜にささやくと、桜が私の肩をポンっとたたいた。
「愚痴も聞くよ」
と返ってきた。
愚痴よりも、今はダンジョンという新しいことを聞いてほしい。
土魔法が使えるようになったこととか。スライムを倒したこととか。




