はじめての魔法
「ちょっと待ってね、すぐに焼いてあげるわ」
と、お姉さんは焚火でマシュマロをあぶるのかと思ったら「【火】」と一言。魔法でマシュマロを焼いた。
にこりと上品な笑みを浮かべて丸焼きにされたマシュマロを差し出される。。
「すごい、いいですね、火魔法っ!あー、おいしい。マシュマロって、どうして焼くとこんなにおいしさが増すんでしょう」
しかも自然の中で食べるの最高!と、緩む顔で食べていて、初対面のお姉さんの前だったと思い出して表情を引き締める。
くすっと、笑われた!ああああ、やらかした!
「あなた、魔法は?」
「一応スキルで土属性の魔法が使えるって出てたんですけど、まだ使ったことがなくて……。昨日探索者になったばかりで……」
「まぁ、そうなの?私でよければ基本は教えられるわよ?」
「いいんですか?」
「お願いします。私、佐藤有希と言います!」
「ふふ、こちらこそよろしく。3年目ともなるとね、毎週8時間どうやって時間をつぶすのに退屈していたから気にしなくていいわ。私は田中牧夫よ」
「ま、牧夫?」
とても美しいお姉さんは、オネェさん?なの?
「マキちゃんって呼んでね」
「はい」
「って、有希、あなた、あれ、あれっ!」
マキちゃんが立ち上がって私の肩をつかんだ。
何かと思って指さす方へ顔を向けると、レジャーシートがダンジョンに食われるところだった。
「あー、またやっちゃったっ!」
頭を抱えると、マキちゃんが笑った。
「あははは、私も初めのころはいろいろ失ったわよ!レジャーシートに靴を脱いで上がったら、靴がなくなっちゃったこともあったわね!」
「靴を?」
「そうよ。はだしで帰る羽目になったわ。ダンジョン管理事務所がスリッパを売ってくれたけど……」
「スリッパ……」
「簡単な着替えは持ってきてロッカーに預けておくといいわよ。まぁ、1階層ではあまり必要ないかもしれないけれど。冬だと上着を中で脱いでダンジョンで消えちゃって寒空を震えながら帰ったって話もあるわね」
なるほど。ホテルのクロークに上着を預けるみたいな感じで上着をロッカーに荷物と一緒に預けると。確かにコートならまだしもカーディガンとかだとそのまま中に持ち込みそう。
「勉強になります」
「ふふ、じゃあ次に魔法のお勉強ね」
と、魔力の循環方法を教えてもらった。
「で、魔法はイメージっていうけれど、イメージと言葉を結びつけるの。結びついていれば言葉一つで簡単に発動できるようになるわ。そうね、トマトって単語をきくと、赤くて丸いあれを想像するようなものかしらね。バナナなら黄色くて三日月っぽい形を想像するでしょう?イメージと言葉が直結するの」
なるほど。
「じゃあ、やってごらんなさい」
教えられた魔力の循環。
それからイメージ。
土魔法は穴を掘るのと穴を埋めるのだと言っていた。
だから、穴を掘ってみよう。
言葉は……。穴を掘る、長いなぁ。穴、穴ぼこ……。ぽこぽこ穴があく……。
「【ぽこっ】」
スコップで穴を掘ったイメージで魔法を発動する。
「成功よ、有希、初めてで成功させるなんてすごいわ!」
目の前に、直径30センチ、深さも30センチほどの穴があいていた。
「すごい、本当に魔法が使えちゃった!」
「あとは呪文とイメージが定着するように繰り返すのよ!」
マキちゃんの言う通りに、繰り返す。
「【ぽこっ】【ぽこっ】【ぽこっ】」
穴がぽこぽこあいていく。
「ふふふふ、まるでもぐらたたきの穴みたいね。もっと大きな穴はあけられないの?」
大きな穴……か。
今度はショベルカーで掘ったような穴を想像してみる。呪文は……
「【ボコッ】」
5mくらいの大穴があいた。
そして、意識が飛んだ。
気が付いたらダンジョン管理所の医務室に寝かされていた。
「田中さんが魔力切れで倒れているところを連れてきてくれたんですよ」
そうなんだ、あれが魔力切れ。
怖い。急に意識が飛ぶんだ。頭が痛いとか気持ちが悪いとか魔法が発動しないとかでなく……。まるでブレーカーが落ちるみたいだ。
「大丈夫ですか?」
「あ、はい。お手数をおかけしました」
マキちゃんに会ったらお礼を言わなければ。マシュマロのお礼も。いろいろ教えてくれたお礼も。また会えるかな……。
スライムの魔石を買取所にもっていって換金してもらった。
全部で48個のスライムの魔石。1つ80円。3840円から税金抜いて3456円。税金……引かれるのか。
思ったより安かったけれど、8時間スライムの魔石をコツコツ集めれば、1日1万円くらいにはなるのでは?
帰りにフローリングワイパーとレジャーシートと物と物をつなぐためにビニールひもを購入。3465円から引くと残高1131円。
「徒歩だからいいけど、交通費かかってたらマイナスだった……」
買い物ついでに同じビルに入っているファミレスで夕飯。……結局マイナスだね。




