クリーンをお披露目
「……嫌がらせだったのに……。笑顔で受け取ったのは、意趣返しだと思ったのに……」
小さなつぶやきはよく聞き取れない。
「本当だったなんて……何もかも、悪いほうにしか解釈できなくなってた……。私……」
なぜか水切りゴムワイパーを上に抱え上げるようにして構える。
うーん、持ち方としては魔法の杖だけど、ものが水切りゴムワイパー。
「底なしの沼、果てなき砂塵。逃げ場なき大地の掌をその身に刻め。重力は鎖となり、足元の静寂は呪縛の檻へと変ずる。贖えぬ罪を背負いて、永劫なる眠りの中に足元の沈黙を破れ」
こ、これは、まさか……!
魔法の、呪文?
志崎さんの顔を見ると、遠い目をしている。
ミサさんは一拍入れて、掲げていた水切りゴムワイパーを振り下ろした。
「『アビス・ドロップ』」
すると、振り下ろした先に、穴があいた。
1mくらいの、円形の穴だ。
ボコりと。
「す、すごい……」
私がイメージしている穴と全然違う。
私の場合、穴を掘るイメージだから、掘った土は穴の横に積みあがる。まぁ、小さい穴はシャベル、大きな穴はシャベルカーで掘るイメージね。
壁の場合はマインクランというゲームのイメージだから、取り出すみたいな?
ゲームだと、掘ると、掘った部分の石や土がぽんっと四角いブロック状に出てくる。出てきたブロックを回収するとストレージにたまる。素材としていろいろ使えるようになるのだ。
それをイメージしているから、壁は四角い形で切り取れてる。
土……地面は掘ると穴は四角いのに、掘り出した土は山形になる。……イメージがそう固まってしまっているからだろう。
うん?なんで四角い穴になるのか?この辺りは1m四方といった単位をイメージして大きさを決めている影響かなぁ?
どちらにしても、ミサさんの穴とはずいぶん違う。
掘ったはずなのに、土がない。掘ったというより、穴を出現させたというか、それこそアニメで攻撃を加えて凹ませたみたいな感じだ。
出た土はどこへ行ってしまうのだろう?圧縮されているのか、目に見えないどこか遠くへ運ばれているのか?
「何これ、何これ、何これ!」
ミサさんの興奮気味の言葉に意識を戻す。
穴の周りのスライムは綺麗さっぱりなくなっている。
「もうどれだけ倒したんだろう!楽勝楽勝!」
「こら、ミサ!あまり調子にのってスライムの酸をかぶったら危ないぞ!お前は昔から調子に乗ると怪我をするだろう!」
志崎さんが心配そうにミサさんに声をかけてる。
なるほど。
面倒見がいいのも、少々世話を焼きすぎちゃうのも、探索者の先輩としてというよりは「みんなのお兄ちゃん」的なやつ?
「ほら、足元をよく見ろ、そこ、残ってる、危ないっ!」
ミサさんが振り返った。
「もう、お兄ちゃんうるさいっ!」
「うるさいじゃない、5倍危険なんだぞ、スライムの酸で消えない跡が残ったらどうするっ!」
「ぶつぶつ言ってないで手伝ってよ!」
「手伝うって何をだ?」
「穴の中から魔石を拾うとか!私が落とす、光になる、はい、拾って!」
志崎さんが穴に飛び降り、魔石を拾い集めて上がってきた。
「はい、次だよ!拾って!」
なるほど。志崎さんの家は妹の方が力関係が上なのか……と、ぼんやり眺めること20分ほど。
「おい、いつまで続けるんだミサ」
志崎さんが顔をしかめると、ミサさんがハッと気が付いた。
「はっ、いけない。つい楽しくなっちゃって。ステータス……あ、レベルが……上がった。12になった……」
志崎さんが穴から上がってミサさんの隣に並ぶ。
「12?やったじゃないか」
ミサさんがちょっと涙ぐんでいる。
「お兄ちゃん、魔石、数えて!」
「え?あ、うん?消えるから外に出てからにするぞ」
2人が外に出るようなので、一瞬引き留める。
「【クリーン】」
特に志崎さんは土まみれになっていたので。
「え?何今の?」
ミサさんが驚いている。




