恋愛感情
ちょっと嫌味っぽくなっただろうか。
でも、かまわない。背中にある志崎さんの手がよくやったとほめてくれているみたいだ。
「じゃ、これから俺たちゴミ捨て場でゴミあさりしてくるわ!」
志崎さんが私の手を引いて歩き出した。
「くっそっ俺をバカにしやがって。有希のくせに。何が稼げるようになるだ……有希ごときが稼げるなら、俺だってすぐに……」
ぶつぶつと言っている淳史の横を通り抜ける。
「シーザー様かっこいい、人助けだ」
「あの男ムカつくな、ダンジョンがゴミ捨て場だと?」
「シーザー様に助けられたあの女一体なんなの?」
人々の声から逃げるように、駅の外に出ると、志崎さんはタクシーをすぐに拾って乗り込んだ。
私の手を引いたまま。
「えっと、あの……助けてくれてありがとうございます」
助けてもらった手前、手を振り払うわけにも行かないと、そのまま一緒にタクシーに乗り込んだ。
「もう、大丈夫ですから、えっと……」
手に視線を向ける。
「あ、すまない、ちょっとあの男にムカついて、つい……」
「本当、すいません。ダンジョンをゴミ捨て場なんて……」
志崎さんが笑った。
「ははっ、有希が謝ることじゃないよ」
ちょっと気になっていたんだけれど……。
有希?マキちゃんは有希ちゃんって呼ぶし、雷電さんもメッセージアプリで有希ちゃんって書いてた。
もしかして、探索者って、そんな感じで名前を呼びあうものなのかな?常識が分からない。
「俺のさ、個人的な気持ちなんだけど」
急に志崎さんがまじめな顔になった。
「すんごい、あの男の鼻を折ってやりたい」
あはは。ですよね。ダンジョンをゴミ捨て場呼ばわりした上に、ダンジョンに行く探索者は負け犬だなんて。
「だからさ」
志崎さんが私の顔を下から覗き込むようにして見た。
「有希を稼げるようにしたい」
「へ?」
間抜けな声が出た。
タクシーの窓から入り込むネオンの明かりが志崎さんの瞳に映っている。
その光の中に、私の顔も映っている。なんか不思議な感じだなぁと、あまりにも志崎さんの口にした言葉が理解できなくて別のことを考えてしまった。
えーっと、落ち着こう。
「私を、稼げるように?」
確かに、淳史は私をバカにした態度をとっていた。
その私が探索者としてものすごく稼いでいると知ったら、悔しがるだろう。
「有希、レベル上げしないか?レベルを上げて、稼いで、あの男にぎゃふんと言わせてやろう!」
「それは難しいかも」
志崎さんが首を傾げた。
「なぜだ?探索者を続ける気はないとか?あー、その見合いでも予定しているとか?」
雷電さんがいたら、また突っ込まれるようなことを志崎さんが言う。
「いえ。ぎゃふんと口に出して言っている人を見たことがないので。さすがに、言わないんじゃないですか?覚えてろよ!って捨て台詞ならすぐに聞けそうですけど」
私の言葉に志崎さんがぷっと噴出した。
「あはは、確かに、覚えてろよ!って言いそうな男だ。……いや、あんな男のどこがよかったんだ?」
どこ、だろう。
口説かれたから?ほかに好きな人がいたわけでもなく。好きだと言ってくれるならいいかなと付き合い始めて。
そのあとは、情がわいて。このままこの人と結婚するのかなとか漠然と考えて。
……そう、嫌いじゃなかった。
会社と同じかも。絶対この会社じゃないとだめだったわけではなく。縁があって入社して。嫌いじゃない。辞めたいとも思わない。このまま働いていくんだなと……。転職しようという気持ちがなくて、それから……。
流されたってやつ……まぁ、現実としてはそういう人も結構いるんじゃない?




