決別
「土足で入るなんて、まさに泥棒ね。……泥棒猫じゃなくて、玲亜は泥棒だったのね」
あおるような言葉を口にすると、玲亜は恐ろしい顔をして私をにらみつけた。
「はぁ?泥棒はそっちでしょ!淳史の買ったもの持ってったんだから!盗難届を出されなかっただけありがたいと思いなさいよ!なんだったら、今から警察に行ってもいいんだからね!」
「警察?呼びましょう」
淳史と玲亜のことは、なんだかどうでもいいやと思っていた。
正直、関わりたくないと。
どうして、それなのにそっちからまた私にかかわってくるの?
全部なかったことにして、蓋をして、思い出さないように日々過ごしていければいいと思っていたのに……。
「不法侵入。もうこの部屋は私の名義よ。合鍵つかって勝手に入って、しかも土足で……。不法侵入は簡単に証明できるわよね。それから、部屋を物色して……淳史のカードで買ったもの以外を一つでも持ち出していたら立派な泥棒。ヘアアイロンは、ドライヤーは、シャネルの香水は、コーチのバックは、全部あるかしら?あ、そうそう……割れちゃってるね、コップ……」
桜からもらった花を挿してあったコップが落ちていた。
割れたガラス、水浸しの床、花びらの散った花。
「器物損壊。それから共同貯金から買ったものが全部自分のものだと主張するなら、共同貯金じゃなくて自分の貯金ってことね?私のお金ではないと言うなら……」
1輪の花を拾い上げ、玲亜の顔をにらみ返す。
「私のお金を奪ったってことで、結婚詐欺よね?あなたは共犯者ってこと。よくある彼氏を寝取られたって話じゃなくて、私は結婚詐欺の被害者だったのね。結婚詐欺って重罪だったはずよね?」
うっと玲亜が言葉に詰まり、部屋を逃げ出すように出ていく。
それから、すぐに荷物をたくさん抱えて戻ってきた。
往復すること4回目。
「これで全部よっ!これでいいんでしょ!そっちに物は渡したんだからっ!」
バタンと思い切りドアを閉めて玲亜が去っていく。玄関に積みあがった家電製品……。
「こんなものまで持ち去ろうとしたのか……」
イミテーションでできたさほど価値のないパール風ネックレスに金メッキの指輪。
思えば淳史はこんなものばかりをプレゼントしてくれたんだった……。
安物でごめん。二人の未来のためにお金はためておきたいんだなんて言っていたけれど。
「う、う、うわぁーっ」
全部全部全部、ぜぇーんぶ嘘だったんだっ!
男女のことなんだから、途中で気持ちが覚めて別れたりすることもあるのは仕方がないって思うのに。
途中からなの?初めからだったんじゃないの?
あの時も嘘だったの?その時にはもう気持ちはなかったの?
一緒に行った水族館、あの時も騙すためだったの?
二人で見た夕日、何を考えていたの?
5年間の思い出が真っ黒に塗り替えられてしまった。それでもあの頃は幸せだったよね、別れることになったけどって、そう思っていたかったのに。
全部、全部……奪われてしまった。ごっそりと……!
楽しかった記憶を。幸せだった日々の思い出を。
「ああああああ、あーっ」




