再びダンジョン
木曜日。
仕事が終わって、探索者専用サイトを見る。
「ん?」
今までトップページには書かれていなかった注意喚起の赤い文字。
無理な探索はやめましょう……か。
私は無理をするつもりはないけれど、ダンジョンの品を売買できるようになってまだ4日しかたっていないのに、いろいろとすでにトラブルがあったのかな。
「あー、こんなことなら、月曜日にあと3時間ダンジョンに行けばよかった……」
今週のノルマはあと3時間。
でも先週は3時間余分に入っているから、2週で考えれば足りるんだけど……。来週再来週がどうなっているか分からないし……。
明日、仕事が終わったら行ってみよう。
金曜日、家に帰りジャージに着替えて荷物のチェック。
「今日はスライムは……やめておこう」
武器であるフローリングワイパーはもっていかない。
本を1冊リュックに入れる。3時間時間がつぶせればいい。何もしない。
いつものダンジョンへと向かうと、荷物を預けるロッカーが全部使用中だった。
「……リュックの中に入れて、何も出し入れしなければうっかり落とすこともないかな?」
と、ロッカーをあきらめてダンジョンの中に。
「……うわぁ」
すごい人がいる。思わず立ち尽くしてどうしたらいいのか唖然とする。
「すごい人でしょう?」
「あ、山本さん」
おなかの大きな山本さんが隣に立っていた。
「月曜の午後からこんな状態……どんどん増えてるの」
真夏の海水浴場みたいな状態になっている。
そして、草原だったはずなのに、草が一面むしられている。
「おい、そのスライムは俺が狙ってたんだ」
「はっ、知るかよ早いもん勝ちだろ!」
「あ、草が生えてきた。ちょっと、あれは私のよ!」
「名前が書いてあるわけじゃないでしょ!」
そこかしこで人と人が争う声が聞こえてくる。
「もう、リゾートもお見合い場もなにもないわ。ただ、独身動員法の対象者用区画は用意されてるから。あっちよ」
と、言われて右側を指さした。
「あー……」
杭とロープでくぐられている。そのロープの先を、山本さんが握っていた。人が触れていないと食われるからか。
ロープの中は、争いこそ少ないものののんびり過ごせるような雰囲気ではなかった。義務でダンジョンにいなければいけないのに、今までのように自然に囲まれた雰囲気もなければ、静かにそよぐ風を感じることもできない。
「あら~、これはひどいわね……」
声に振り返ると、マキちゃんがいた。
今日は上はピンクのジャージ。下は黒いズボン姿だ。
金髪は高い位置でしっかりと結ばれ、長いつけまつげに真っ赤な口紅。派手な化粧がとっても似合っている美人さん。
「あら、有希ちゃんじゃない」
マキちゃんが私の名前を憶えていてくれた。
「こんばんはマキちゃん。この間はありがとうございました。魔法を教えてくれた上に、魔力切れで倒れて迷惑をかけてしまったみたいで……」
マキちゃんが首を横に振った。
「ううん、魔力切れのことを教え忘れた私が悪いのよ。気にしないで」
マキちゃんの言葉に、今度は私が首を横に振った。
「いいえ、ちゃんと事前にいろいろ調べておかなかった私も悪いんです。マキちゃんは悪くないですっ」
「ふふふ、じゃ、二人とも悪くなかったということで。あれからどう?ダンジョン生活は順調?」
苦笑いを浮かべる。
「今週はまだ5時間しかダンジョンに来てなくて、あと3時間……」
この喧騒の中で過ごすのかと思うと順調と言えるかどうか……。
「読書でもしようかと本を持ってきたんですけど……」
マキちゃんが小さく頷いた。
「この中で読書って、結構ハードル高いわね……。せっかくのんびり過ごせると思ったのに……近くて素敵なリゾート地がみんなに見つかって踏み荒らされた感じだわ……」
確かに。急に観光客が増えて良さがなくなてしまった観光地みたいといえばそうかも。
「2階層はここよりましですよ。入場制限が設けられて、レベル2以上じゃないといけなくなりましたから。探索者になったばかりの人たちは行くことができません」
山本さんの言葉に、マキちゃんがちょっと眉をしかめる。
「そう、ちゃんと入場制限ができたのね。よかったわ。これ以上犠牲者が増えたらたまったもんじゃないものね……」
犠牲者?
「じゃあ、2階層へ行こうかしら?」
マキちゃんは2階層へ行っちゃうのか。ちょっと寂しいな。
「有希ちゃんも一緒に行く?」
誘ってもらえてうれしい!でも……。
「レベル1なので……」
「そうなの?あとどれくらいで2になれる?スライムなら100、どつき兎なら10ほど倒すと2になるんだったかしら?」
マキちゃんが山本さんに尋ねた。
「そうですね、魔物にもレベルがあるので、多少は前後しますが、平均するとそれくらいです。最速記録にはスライム60というのもあったようですが。あとはスライム70とどつき兎3とか合算で考えることもできますよ」
「えーっと、なら半分くらいです。まだスライムを50くらいしか倒してないので……」
正確には魔石を48個買い取ってもらってるから、48匹。
「うーん、じゃあ、当分無理そうね……」
マキちゃんがダンジョンの中を見回してため息をつく。
「そうですね、今はレベルを上げたい探索者が魔物を取り合ってますから……。頑張っても、2、3倒すのがやっとというとろこでしょうか」
いや、あんなに殺伐としたところに入る勇気はないよ……。
「そういえば、レベルはどうやって確認してるんですか?ずるする人とかいないんですか?」
「ずるはできないわよ。ステータスを思い浮かべて、レベル開示って言えば、レベルが他の人にも見えるようになるわ。ちなみにHP開示といえばHPが。ステータス 全開示で、全部他の人に見えるようになるわよ」
そうなんだ。
ステータスを思い浮かべ……。称号にサレ女とあるのが目に入り、全開示だけは絶対にするまいと心に誓う。
「レベル開示」
と、口にすると、頭に浮かんでいた画面が、空中に現れた。
名前:-----
年齢:-----
レベル:2
HP:-----
MP:-----
スキル:-----
称号:-----




