自爆
「なぁ、ちょっと聞いてもいいか?」
返事を待つ前に、隣の若い女性が声をかけてきた。
「志崎さぁ、結婚したの?この人と」
女性が、シーザーさん改め志崎さんと私に指を向けた。
「「は?」」
私と志崎さんの声が重なった。
「だって、それ、ブーケとブートニアじゃないの?」
私が持つ花束がブーケで、志崎さんが胸元にさした花がブートニア。……おそろいの花で……。
ほぼ見た目はブーケとブートニア、新郎新婦の持つそれと言われても、仕方がない。
「ち、違います、この花束は同僚が私の結婚祝いに準備してたけど結局結婚できずに探索者デビューしたため急遽探索者デビューのお祝いとしてくれた花で、志崎さんには冒険者の心得を教えてもらったので1輪お礼に渡しただけで」
「……結婚できなかった?」
志崎さんがぼそりとつぶやいた。
し、しまった!
「あああー、違うんです、その、縁起が悪いとかでなく、いや、あの、すいません、本当、よく考えたら、縁起悪いかもしれないです。何と言っても入籍の約束をしていた前日に友人に奪われ婚約破棄に至ったもので……」
返してくださいも変だけど……え、どうしよう……。
「ふっ、縁起は悪くない。最高じゃないか、探索者になれたんだから!」
志崎さんがめちゃくちゃいい笑顔で笑った。
「ほんと、結婚してから浮気発覚よりずっといいじゃん」
隣の若い子がにかっと笑って親指を上げた。
うん、まぁ、確かに?
「それに、探索者って最高よ!私18からずっと探索者してるけど、やめたいなんて思ったこと一度もないよ!」
「ああ、俺も、」
「志崎みたいにトップランカーにならなくてもさ、女性でもレベル上げればダンジョンの中では男にだって負けないんだよ!それに頑張れば頑張るだけ稼げる!」
「そうだな。男とか女とか、背が高いとか力が強いとか、ダンジョンの外での体格差や能力差はレベルで軽くひっくり返る。あれほど努力に裏切られない場所はほかにないんじゃないか。コツコツ魔物を倒していけば経験値がたまってレベルが上がるんだ。残業しても給料がもらえないとか、仕事をこなしても評価を他のやつにかっさらっるとか、尽くしてきた男がかわいいだけの女に寝取られるとか、そういうことないぞ」
ゴツンと、志崎さんの頭に、女性の拳骨が落ちた。
「志崎っ、最後のは余計だっ」
痛くもないだろうに、志崎さんは堪えた顔を作った。
「あー、すまん。とにかく、レベルを20まで上げれば稼げる。稼いで幸せいなって見返してやりゃいいさ。……とにかくだ」
志崎さんが、片手を出した。握手を求める手だ。
「探索者デビューおめでとう!」
おずおずと手を出すと、ぎゅっと力強く握られた。
その手に、女性が手を重ねる。
「年齢は私の方が下だけど、探索者としては先輩だから頼っていいよ。浮気男にぎゃふんと言わせるために探索者として成功しよう!協力する!探索者の世界へようこそ!」
いや、別にぎゃふんと言わせるつもりはないけれど……。
二人に目いっぱい好意的に迎え入れられ、法律で定められた義務だから仕方がないと思っていた気持ちがすっと解けていく。
きっかけはどうあれ、探索者になって心からよかったと言ってくれる人がいるのが嬉しい。
「ありがとう」
お礼を言うと、わーっと拍手が起こった。
「頑張れよ!」
「大丈夫だ、僕でも続いてる!」
「一緒に一攫千金目指しましょ!」
はっ!
しまった。ここは会議室……。めちゃくちゃ話を聞かれてた。
「寝取った女も最悪だけど浮気男が一番クソだね!レベル上げて後悔させてやればいいよ!」
「そうそう、クソ男もさまた浮気して離婚されて探索者になるかもしれないしさ。そん時にレベル差を見せつけてやるとか最高じゃん!」
ひえーっ。ちょっと待って、私、みんなにサレ女だって宣言しちゃったようなものなのでは?
さーっと青ざめる。
「……まじですまん……」
志崎さんが頭を下げた。
「ウチもごめん……」
女性も頭を下げた。
「いえ、あの、もとはと言えば私が焦って大きな声を出したから悪いんで……すいません」




