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『毒杯の晩餐と百の献立(メニュー)』  作者: 水前寺鯉太郎


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第六夜 ―― 黄金の重みと、魂の利足

第六夜 ―― 黄金の重みと、魂の利息 ――

 夜風が、いつもより冷たく謁見の間を吹き抜けていた。

 ザルカ王の傍らには、数冊の厚い帳簿が積み上げられている。それはサフィアの言葉を受け、彼が秘密裏に調べさせた王宮の財務記録だった。

「語れ、サフィア。高利で民を縛り、黄金で喉を潤す強欲な輩の末路を。……余の周りにも、そのような『羽虫』が羽音を立てているようだ」

 王の目は、獲物を狙う鷹のように鋭くなっていた。

 サフィアは、卓の上に置かれた「一枚の硬貨」を見つめながら、静かに口を開いた。

◆ サフィアの語り 第六夜 ――「高利貸しハミドの晩餐会」

 むかし、ある裕福な街に、ハミドという名の商人がおりました。

 彼は物を売るのではなく、「時間」と「絶望」を売る商人でした。

 困窮した者に黄金を貸し付け、その代わりに翌月には倍の額を要求する。返せぬ者からは、家を奪い、土地を奪い、最後にはその者の「名前」さえも奪い去りました。

 ハミドの金貨には、不思議な魔力が宿っていました。

 彼の金貨を手にした者は、一時的に腹が膨れ、最高級の酒を飲んでいるような錯覚に陥ります。しかし、その金貨がハミドの元へ利息と共に戻る時、借りた者の体からは「味覚」が少しずつ削り取られていくのです。

 なぜなら、ハミドが貸し付けていたのは金ではなく、**「その者が一生のうちに味わうはずだった幸福の貯金」**だったからです。

 ある夜、ハミドは自分自身の富を誇示するために、街で最も豪華な晩餐会を開きました。

 食卓には、世界中の珍味が並びました。金箔を塗した孔雀の肉、真珠を溶かした葡萄酒、そして――東の国から密輸された、出所不明の「白い塩」。

 ハミドは高笑いしながら、最高級の肉を口に運びました。

 しかし、その瞬間。

 彼の顔から血の気が引きました。

「……砂だ」

 ハミドが吐き出したのは、肉ではなく、ただの乾いた砂でした。

 慌てて葡萄酒を煽れば、それは喉を焼く泥水に変わり、金箔の料理はことごとく炭の塊へと姿を変えました。

 驚くハミドの前に、一人の老いた貸し手が現れました。かつてハミドが全てを奪い、飢え死にさせたはずの男です。男は静かに言いました。

『ハミド、お前は他人の幸福を利息として取り立てすぎた。今、お前の倉にある黄金は、全て「誰かが味わえなかった絶望」に変わったのだ。絶望に、味などない。お前はこれから永遠に、黄金という名の砂を噛んで生きていくがいい』

 ハミドは狂ったように叫び、自分の金貨を飲み込もうとしましたが、それは彼の喉を突き破る、ただの石ころでしかありませんでした。

 サフィアは語り終え、卓の上の硬貨を王の方へと指で弾きました。

 チリン、と冷たい音が響きます。

「王様。高利貸しは、金で人を殺すのではありません。『明日への期待』を奪うことで、人を生きる屍に変えるのです。……今、この王宮で、あなたの耳元で甘い言葉を囁きながら、あなたの『味覚』を利息として取り立てている商人がいるとしたら。その男が溜め込んだ黄金は、一体何でできていると思われますか?」

 ザルカは、転がってきた硬貨を親指で押さえつけた。

 彼の脳裏には、ある一人の男の顔が浮かんでいた。いつも揉み手をしながら、東の交易路の遮断を「仕方のない天災」だと報告し、代わりに高価な代用塩を献上してくる、あの御用達商人の顔が。

「……サフィア。余は、砂を噛むのはもう飽きた」

 王は立ち上がり、積まれた帳簿の一冊をサフィアに投げ渡した。

「この帳簿に、ハミドの末路を書き加えろ。……明日の朝、この宮殿から一人の商人の死体が運び出される。それが、今夜の物語の『結末』だ」

 王は初めて、サフィアに背を向けずに、その瞳をじっと見つめてから部屋を出た。

 サフィアは、受け取った帳簿を抱きしめた。

 そこには、父が命懸けで守ろうとした「商道」の続きが、血の色で記されようとしていた。

 ――第六夜、了

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