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『毒杯の晩餐と百の献立(メニュー)』  作者: 水前寺鯉太郎


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第三夜 ―― 抽出される純粋、あるいは祈りの結晶 ――

第三夜 ―― 抽出される純粋、あるいは祈りの結晶 ――

 夜の帳が下り、ザルカ王の寝所には前夜よりも濃い沈黙が流れていた。

 王の前の卓には、今夜は葡萄酒ではなく、透明な水が満たされた杯が置かれている。毒を混ぜるのを忘れたのか、あるいは――。

「……白銀の塩の正体。それを語れ」

 ザルカの催促は、もはや命令というよりは、乾いた喉が水を求めるような切実さを帯びていた。

 サフィアは静かに一礼し、第二夜の続きを紡ぎ始める。

◆ サフィアの語り 第三夜 ――「白銀の塩の正体」

 「灰の街」の青年料理人が、国の重鎮を招いた晩餐会。

 その夜、街の空気は奇妙に張り詰めていました。なぜなら、街から幼い子供たちが、一人、また一人と姿を消していたからです。

 人々は囁き合いました。

「あの料理人が使う、魔法の塩。あれが現れてから、子供がいなくなった。……あの白銀の輝きは、子供たちの骨の色ではないか?」

 いいえ、違いました。骨などという野蛮なもので、あの究極の味は作れません。

 晩餐会の当日。青年は厨房の奥、鍵のかかった地下室へ入りました。

 そこには失踪した子供たちが……死んでいるのではありません。ただ、真っ白な部屋に閉じ込められ、見たこともないほど「贅を尽くした食事」を与えられていました。

 しかし、子供たちの瞳には光がありませんでした。

 彼らはただ、泣くことさえ忘れて、強制的に「幸福」を刷り込まれていたのです。

「その塩の正体は、**『純粋な幸福感から抽出された、未分化の涙』**でした」

 老人が青年に教えた製法は、世にも恐ろしいものでした。

 何も知らない子供に最高の幸福を与え、その絶頂の瞬間に、ある特殊な香煙を吸わせる。すると、彼らの体内から「喜びの結晶」が汗となって噴き出し、それが床で乾くと、あの白銀の塩になるのです。

 しかし、抽出された後の子供たちは、二度と「喜び」を感じられない空殻からになります。

 彼らが失踪したのではなく、街の人々が「美味しい」と笑うたびに、子供たちの心から「明日の輝き」が奪われていたのです。

 青年がその真実に気づいた時、晩餐会はすでに始まっていました。

 国の重鎮たちは、泥水のスープを一口啜るなり、獣のように皿に食らいつきました。

「もっとだ! この塩をよこせ! どんな金でも払う!」

 彼らは「他人の幸福の結晶」を喰らう快感に、正気を失っていたのです。

 青年は震える手で、最後の一振りの塩を手に取りました。

 その時、地下室から一人の少女が這い出してきました。かつて青年に懐いていた、花売りの少女です。

 彼女は青年の顔を見ても、微笑むことさえしませんでした。ただ、空虚な瞳でこう言ったのです。

「……おじさんのスープ、おいしい?」

 サフィアは、そこで言葉を切った。

 王宮の静寂の中で、ザルカ王の指先が、卓の上の偽物の塩壺に触れていた。

「……続きは」

 ザルカの声は、今までで最も低く、そして鋭かった。

「青年はその塩を、どうした。その少女を殺して、さらに塩を求めたのか。それとも――」

「それは、第四夜の物語です。王様」

 サフィアは、毒の入っていない水を一口含み、王の瞳を射抜くように見た。

「もし、王宮の御用達商人が、東の交易路を止めてまで守りたかった『秘密の品』が、この塩と同じ作り方だとしたら……。王様、今夜のあなたのスープ、お味はいかがでしたか?」

(第三夜、了)

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