第二十四夜 ―― 王命の鉄槌と、毒を孕む進軍 ――
東の都の静寂を切り裂くように、夜明けの鐘が鳴り響いた。
境内に潜んでいた「人斬り」の斥候たちを、ザルカ王は一閃のもとに退けた。だが、敵の本拠地は雲に隠れた険しい霊山にある。そこには数えきれないほどの野党や、正体不明の「怪物」たちが、迷い込んだ者を食らおうと待ち構えていた。
「……サフィア。力で押し通れば、山ごと焼き払うことになる。だが、それでは奪われた姫君たちを救うことはできん」
ザルカは兵を整え、険しい山道を睨みつけた。サフィアは、道中で摘んだ「苦い薬草」を煎じながら、第二十四夜を語り始めた。
◆ サフィアの語り 第二十四夜 ――「選ばれし六人と、神の授け物」
鬼の非道に耐えかねた都の王は、国中で最も武勇に秀び、かつ知略に富んだ六人の猛者を呼び集めました。
彼らは、重い鎧を捨て、旅の「修行僧」へと姿を変えました。鬼の城へ正面から攻め入れば、地の利を持つ鬼たちに一網打尽にされるからです。
『……正攻法では勝てぬ。ならば、我らは神の如き慈悲と、蛇の如き狡猾さを併せ持たねばならぬ』
一行は、道中で不思議な老人に出会いました。老人は、彼らの覚悟を試すと、小さな革袋を差し出しました。
『これを持っていけ。これは「神便鬼毒酒」という。人間が飲めば力を増すが、鬼が飲めばその身を動けなくする、天からの劇薬じゃ』
六人の兵たちは、その毒酒を宝物のように抱え、霧深い山へと足を踏み入れました。
一歩、また一歩。
背後で都の明かりが遠ざかるにつれ、空気は冷たく、鉄の匂いを帯びていきます。
彼らが向かうのは、黄金の宮殿ではありません。骨と皮が散らばる、生臭い絶望の城だったのです。
サフィアは語り終え、熱い薬草茶を王に差し出した。
その色はどす黒く、味は舌が痺れるほどに苦い。
「王様。正義を成すためには、時にその身に『毒』を宿さねばなりません。六人の兵たちは、修行僧という嘘を纏い、毒という影を抱いて、鬼の懐へと向かいました」
ザルカは、その苦い茶を一気に飲み干した。
「……嘘と毒か。サフィア、お前は余に、清らかな王であれとは言わぬのだな」
「綺麗な水には、魚は住みつきませんわ。……ですが王様。毒を盛る者の指先が震えては、勝利は掴めません」
ザルカは不敵に笑い、自らも粗末な旅装束に着替えた。
王の威厳を隠し、一介の巡礼者として、山に潜む「人斬り」の首領を騙し抜く。
それは、誇り高いザルカにとって、最も「苦い」戦いの始まりだった。




