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毒杯の晩餐と百の献立  作者: 水前寺鯉太郎


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第二十夜 ―― 囁く油亀(あぶらがめ)と、煮えたぎる正義 ――

第二十夜 ―― 囁く油亀あぶらがめと、煮えたぎる正義 ――


オアシス都市の夜。王の宿舎の門前に、二十頭のロバを連れた「旅の油商人」が立ち寄った。

「異国から最高級の香油を運んできた。関所を越えた祝いに、王に献上したい」

 男の言葉は丁寧だが、その目は笑っていなかった。ザルカ王は、庭に並べられた四十個の巨大な油亀を冷ややかに見つめていた。

「……サフィア。この油の匂い、どこか生臭いとは思わんか?」

「ええ、王様。良質な油は、沈黙の中でこそ真価を発揮するものです。……第二十夜、沈黙の中に潜んだ『牙』を、一人の少女がどう折ったかの物語をいたしましょう」

◆ サフィアの語り 第二十夜 ――「三十九の亡霊と、熱砂の制裁」

 洞窟から金貨と死体が消えたことを知った盗賊たちは、激怒しました。彼らは死体を縫い合わせた老仕立屋を執念で探し出し、脅してサイードの家を突き止めたのです。

 頭領は油商人に変装し、二十頭のロバの背に二つずつ、計四十個の大きな油亀を積んでサイードの家を訪れました。

『旅の者です。一夜の宿を貸してはいただけませんか』

 善良なサイードは彼を招き入れましたが、その油亀の中には、一樽を除いて、三十九人の武装した盗賊たちが息を潜めて隠れていたのです。

 夜更け。家の中が静まり返った頃、女奴隷アッザは、主人の部屋のランプの油が切れていることに気づきました。

 彼女は暗い庭へ降り、並べられた油亀の一つから油を拝借しようと近づきました。その時です。

『……おい、もう時間か?』

 亀の中から、地を這うような低い囁き声が聞こえたのです。

 普通なら腰を抜かして逃げ出すところでしょう。しかし、アッザは眉一つ動かさず、野太い声でこう答えました。

『……いや、まだだ。合図を待て』

 アッザは確信しました。これは贈り物ではなく、死の罠であると。

 彼女は唯一、本物の油が入っている亀を探し当てると、その重い亀を台所へと運び込みました。そして、大鍋にすべての油を注ぎ、薪をくべて、地獄の業火のように煮え立たせたのです。

 アッザは、煮えたぎる黄金色の油を、大きな柄杓ひしゃくに汲みました。

 そして、静かに、優雅に、庭に並んだ三十九の亀の「通気穴」から、一滴も漏らさずにその熱湯のごとき油を注ぎ込んでいったのです。

 亀の中から、くぐもった、短い断末魔が響きました。しかし、アッザは手を止めません。

 一樽、また一樽。

 彼女はまるで、愛する人にスープを分けるような穏やかな顔で、三十九人の盗賊たちを、その鎧ごと「調理」してしまったのです。

 深夜。仲間に合図を送ろうと部屋から出てきた頭領は、庭を埋め尽くす不気味な静寂に凍りつきました。

 亀を覗き込んだ彼が見たのは、油で煮えたぎり、物言わぬ肉塊となった部下たちの姿でした。

 知略の鬼であった頭領も、この少女の「音もなき処刑」の前には、ただの怯えた獣となって夜の闇へ逃げ去るしかありませんでした。

 サフィアは語り終え、王の前のランプに、ゆっくりと新しい油を注いだ。

「王様。アッザが使ったのは剣ではありません。日常の道具と、揺るがぬ度胸ですわ。……沈黙を武器にする者こそが、真に戦場を支配するのです」

 ザルカは、窓の外に並んだ「献上品の油亀」を鋭く睨みつけた。

 サフィアの物語が終わると同時に、王の私兵たちが、庭の油亀を一斉に包囲していた。

「……サフィア。余の庭にも、まだ『熱い油』を求めている客が潜んでいるようだな」

 王が手にした杯を地面に叩きつける。それが合図だった。

 庭の油亀の中から、悲鳴が上がる。物語をなぞるように、潜んでいた刺客たちが次々と制圧されていく。

 ザルカは、返り血を浴びることもなく、ただ静かに油を注ぎ続けるサフィアの横顔を見つめた。

「……アッザ。いや、サフィア。貴様という女は、毒にもなれば、薬にもなる。だが、この熱い油ほど恐ろしいものは、他にあるまい」

「王様。次は宝石商人に化けた『最後の亡霊』がやって参りますわ。……本当の舞踏ダンスは、これからです」

 サフィアの微笑みは、燃えるランプの炎に揺れて、ひどく美しく、そして残酷だった。

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