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毒杯の晩餐と百の献立  作者: 水前寺鯉太郎


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第十七夜 ―― 黄金の残響と、沈黙の誓約 ――

第十七夜 ―― 黄金の残響と、沈黙の誓約 ――


 オアシス都市の地下。かつての総督が「書庫」として使っていた場所の奥に、不自然なほど重厚な石の壁があった。

 ザルカ王とサフィアは、松明の火を低く保ち、その壁の前に立っていた。

「王様、耳を澄ませてください。この壁の向こうには、風が通る隙間もありません。ですが……人の『声』だけが、石を動かす振動を知っているのですわ」

 サフィアは壁に耳を押し当て、遠い記憶を手繰るように、第十七夜を語り始めた。

◆ サフィアの語り 第十七夜 ――「開かれた扉と、禁断の果実」

 盗賊たちが立ち去り、山の静寂が戻った後。

 茂みに隠れていたサイードは、雷に打たれたような衝撃の中で立ち上がりました。逃げるべきか、それとも確かめるべきか。

 彼の足は、吸い寄せられるように岩壁の前へと向いていました。

 サイードは、震える声で、先ほど頭領が唱えた言葉を口にしました。

『――あくしろよ!』

 ゴゴゴ、と地響きが鳴り、再び岩の扉が割れました。

 中に足を踏み入れたサイードは、眩しさに目を細めました。そこは洞窟ではなく、光り輝く「財宝の庭」でした。

 床を埋め尽くす金貨、壁に積み上げられた銀の延べ棒、絹の袋から溢れ出す真珠……。

 それは、正直に薪を割って生きてきた男には、到底理解できない、あまりにも不条理な富の山でした。

 サイードは、一瞬だけ思いました。

『これは呪われた金だ。触れてはならない』

 しかし、家に残した腹を空かせた妻の顔、そして老い先短いロバの背中の傷が、彼の理性を塗り替えました。

 彼は手近な場所にあった金貨の袋を、一つ、また一つと運び出しました。

 ロバの背中に積めるだけ、欲をかきすぎず、しかし明日を変えるには十分なだけの重みを。

 洞窟から出たサイードが再び叫ぶと、扉は音もなく閉まりました。

 帰り道、ロバの足取りは、いつもの薪よりもずっと重く、砂に深く刻まれました。

 サイードはその足跡を消しながら、自分自身の心にも「沈黙」という重い鍵をかけたのです。

 彼は家に着くと、妻にだけその金貨を見せました。

『これは天からの贈り物だ。だが、誰にも言ってはならない。もし漏らせば、我らは黄金に押し潰されて死ぬだろう』

 サフィアは語り終え、懐から一枚の古い「銅貨」を取り出し、ザルカ王の掌に置いた。

「王様。サイードが持ち帰ったのは、金貨ではなく『秘密』でした。……秘密を抱えた男の歩みは、どれほど重いものか、ご存知ですか?」

 ザルカは銅貨を握りしめ、目の前の石壁を見つめた。

「……秘密は、人を強くもするが、孤独にもするな。サフィア、貴様もまた、余に言えない秘密をロバの背に積んでいるのではないか?」

 サフィアは微笑み、王の視線を避けるように壁の継ぎ目へと指を這わせた。

「わたくしの秘密は、王様を守るための重石おもしでございますわ」

 その時、サフィアの指がある窪み(くぼみ)を捉えた。

 彼女が父から教わった「商人の合言葉」を小声で呟くと、目の前の重い石壁が、物語の岩扉と同じように、微かな地響きを立てて動き始めた。

 開かれた闇の奥から、冷たい、金属の匂いが吹き抜ける。

 それは、かつてこの街から奪われた「沈黙の富」が、再び陽の目を見る瞬間の合図だった。

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