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毒杯の晩餐と百の献立  作者: 水前寺鯉太郎


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第十四夜 ―― 剥がされた仮面と、真実の重み ――

第十四夜 ―― 剥がされた仮面と、真実の重み ――


宿の扉が蹴破られ、荒々しい足音が冷たい廊下に響き渡った。

 松明の赤黒い光が、地下牢の湿った壁を照らし出す。ザルカ王とサフィアは、オアシス都市の支配者――処刑された悪徳商人の弟である男によって、鎖で繋がれていた。

「絨毯商の娘、サフィア……。貴様の父が我らの兄を死に追いやった。その報い、ここで受けてもらうぞ。そしてザルカ、貴様の『退屈』も今日で終わりだ」

 男の嘲笑を、ザルカは冷ややかな沈黙で受け流した。隣に座るサフィアは、男装の服が破れ、煤にまみれながらも、その瞳だけは王宮にいた時よりも強く輝いていた。

「王様……」

 サフィアが掠れた声で囁く。

「暗闇の中では、物語だけが唯一の灯火ともしびになります。第十四夜を……聞いていただけますか」

◆ サフィアの語り 第十四夜 ――「奪われたランプと、真実の重み」

 正直者の仕立屋がついた「自分は王子だ」という嘘。

 それは、恐ろしい魔法使いを引き寄せる標的となりました。魔法使いは仕立屋が留守の間、王女を騙して、古いランプと引き換えに新しいランプを渡したのです。

 魔法使いがランプを擦り、魔神に命じました。

『この偽りの宮殿を、王女ごと、我が領土へ運び去れ!』

 その瞬間、黄金の壁は砂塵となって消え、贅を尽くした庭園は枯れ果て、仕立屋を飾っていた絹の衣装も、ぼろぼろの作業着へと戻りました。

 人々は叫びました。

『王子は偽物だった! 彼はただの、嘘つきの仕立屋だ!』

 仕立屋は地下牢へ投げ込まれ、重い鎖に繋がれました。

 魔神の掟通り、一度嘘をついた彼の魔法はすべて消え去り、愛する王女も、手に入れた名誉も、指の隙間からこぼれる砂のように失われたのです。

 牢獄の床に伏し、仕立屋は絶望しました。

 しかし、その時です。

 彼は自分のポケットの中に、ある「小さな塊」が入っていることに気づきました。

 それは、彼が王子になりすましていた間、どんな豪華な料理を口にしても味がしなかったために、密かに隠し持っていた「故郷の、古びた黒パンの欠片」でした。

 彼はそのカビの生えた、硬いパンの欠片を、おそるおそる口に運びました。

 すると、どうでしょう。

 あれほど何を食べても「砂」の味しかしなかった彼の舌が、その粗末なパンから、大麦の力強い香りと、かつて母が焼いてくれた温かな薪の匂いを感じ取ったのです。

『……ああ、本物だ』

 仕立屋は、涙を流しながらパンを噛み締めました。

 魔法の光は消え、彼はすべてを失いました。しかし、「嘘」を失ったことで、彼は初めて「真実の味」を取り戻したのです。

 暗闇の中で、彼は自覚しました。

 自分は王子ではない。けれど、このパンの味を知る、誇り高き仕立屋なのだと。

 サフィアは語り終え、鎖に繋がれた手で、ザルカ王の掌にそっと触れた。

「王様。偽りの宮殿が消えた時、人は初めて自分の足で立つことができます。……わたくしも、商人の娘として、今夜のこの絶望を『本物の味』として噛み締めておりますわ」

 ザルカは、サフィアの細い指を強く握り返した。

「……サフィア。余も今、不思議と感じている。この地下牢のカビ臭い空気も、肌を刺す鎖の冷たさも、かつての王宮の寝所よりずっと『生々しい』とな」

 王は顔を上げ、牢の見張りに向かって、獅子のような鋭い笑みを向けた。

「魔法が消えたなら、ここからは余の出番だ。サフィア、物語の結末は……地上の、奴らの死体の上で聞かせてもらうぞ」

 ザルカの瞳に、かつての虚無きょむはなかった。

 物語という糧を得て、冷酷な王は、真に「生ける伝説」として覚醒しようとしていた。

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