願い編み
それから平和な日が続いてたある日のことだった。
「...公爵様、西の森に魔物が出現し、応援要請とのことです。」
公爵様はここ中心街に位置する街にいて、東西南北でいつ魔物が出ても応援できるようになっているらしい。
王家も中心街にあり、これも公爵様がいつでもすぐ王を守れるようにするためなんだとか。
「わかった。すぐ向かおう。」
そういって公爵は立ち上がりすぐ出征の準備に取り掛かる。
そしてすぐに馬車に乗り込み西の街に向かった。
「え?公爵様が出征でもう行っちゃったんですか?」
公爵が出た後に私には知らされた。
それを聞いたステラは不安になる。
伯爵はステラに言っていた。
魔物は大きくて恐ろしいと。何人も死者が出る。
私なんて遭遇すればひとたまりもないだろう。
公爵様はそんな化け物相手にしなければならないと。
「公爵様...」
ぎゅっと手を胸の前で握りしめる。
「大丈夫ですよ、公爵様はいつも無傷でお帰りになられてますから!」
「そうよね。...公爵様だもんね」
そうは言うもののここに来てから平和だったため、不安は拭えない。
「...そうですわ!公爵様が無事にお戻りになられるよう願い編みを編みませんか?」
願い編みとは願いを込めながら編み物をし、最後に出来上がったそれを窓に飾るとその願いは叶うとされている。
「する!それする!」
そう言って急いで糸を取りに行く。
「ここをこうして、こうです!テラ様お上手です!」
まず先に編み方をヤヨリに教わった。
初めて編み物をしているが、ステラは手先が器用なのか綺麗に編めた。
「ありがとう!この編み方でお願い事をして窓に飾るわ!」
そう言って覚えた編み方で願いを込めて編み始める。
「...公爵様が怪我なく無事に帰ってきますように」
そうして無事願い編みを作り終え、窓の外に飾る。
「なんだか本当に願いが叶いそう」
出来上がった長い編みを見つめ呟く。
集中したからか疲れて眠くなってきてしまい気づけば窓辺に寄りかかり眠ってしまった。
西の街では
「ラズモン!!すまない!」
兵士が魔物相手に食べられそうになり咄嗟に公爵は兵士の代わりに腕を突き出し魔物に噛まれる。
「いや、いい」
ダラダラと左腕に血が流れる。
(これは左腕はもう動くまい。利き腕じゃないだけマシか。)
ダランとぶら下がる腕を見て感じる。
「くそっ」
たくさんの兵士が血を流している。
それでも魔物は減らない。
「なんでこんなに魔物が多いんだっ!このままでは街まで行っちまう!くそ!」
たくさんの兵士が食い止めているがそれ以上に魔物も多い。
(確かになんでこんなに魔物が多いんだ...数が多い上に凶暴性も)
いつも討伐に参加しているラズモンですらここまでの魔物の数を見たことはなかった。
(どうなっているんだ)
動かない左手はダラダラ血を流し、片手でなんとか魔物を仕留めていく。
すると急に周りが沢山の小さな光で包まれ、たくさんの声がした。
『痛そう』
『痛そうだね』
『これを治せばいいの?』
『そう』
『あの子の願いだから』
『あの子の願いは叶えてあげないと』
『そうだね』
『そうだね』
そう声が聞こえると公爵の腕が光だす。
そしてその光に包まれた腕の傷が消えて無くなっていく。
公爵は目の前の現象に目を見開き何が起こっているのか困惑した。
(妖精?なぜ俺を助けるんだ?)
今まで公爵は出征したところで傷を負っても妖精に助けられたことなんて一度も経験したことはなかった。
それどころか姿も声も見聞きしたことすらなかった。
傷が治り光も消えていく。
「まっ!」
待ってくれと叫ぼうとしたがその前に光は消えて居なくなった。
そしてガオオオオオオ。と叫び声でハッとし魔物と向き合い切り倒していく。
「ラズモン腕が!」
公爵の腕の傷がなくなったことに仲間が気づき驚きの声をあげる。
「よく分からんが治った。」
そう言い魔物を切り倒していくが、戦況は良くはない。
「おい!まずいぞ街にまで魔物が!!」
街の人が沢山避難に逃げている。
家の屋根や壁を魔物が壊していく。
その叫び声と同時に
「増援だ!!北からの増援だ!」
白い鎧を着た奴らが魔物を倒していく。
「テラ伯爵達だ!」
そう誰かが叫ぶ。
そして増援に来た兵士たちと一緒に魔物をどんどん倒していく。
だが、
(なんだ?伯爵は誰かを探しているのか?)
魔物を倒しながら伯爵はキョロキョロと視線をいろんなところへ向けている。
戦況や仲間の様子を見ているのかと思ったが違う。
まるで誰かが出てくるのを待っているかのようだ。
なんとか魔物を倒し終え、仲間達の傷の手当てをする。なんとか死者は出ることなく魔物を倒すことができた。
「ラズモンお前も傷...」
「いや、俺は大丈夫だ。」
「いやいや大丈夫なわけないだろ」
そう仲間が言うので傷のない腕を出す。
「お前...傷が」
仲間たちが驚いた顔をする。
「俺は一足先に屋敷に帰る」
公爵は戦いながらテラに会わずに出征に来てしまったことを気にしていた。
だから出来る限り早く帰りたく仲間達に声をかけそのまま馬に乗り屋敷は向かった。
「公爵様!!」
帰ってきた公爵にぎゅっと抱きつく。
「テラ、すまない、心配かけたな」
頭を撫でられてから、体を持ち上げられ抱っこされる。
「ううん、怪我は?!怪我はないですか?!」
バッと公爵の両頬を掴み見るが見える範囲で傷は見られない。
「あぁ、怪我してないよ」
チラッと咄嗟に左腕を見る。
その一瞬をステラは見逃さなかった。
昔からステラは人の言動をずっと見てきた。
伯爵が怒る瞬間も、嫌な瞬間も瞬時に反応できるように人の動きには敏感になっていた。
「左腕ですか...?」
左腕にそっと触れる。
「いや、本当に怪我していないよ」
そう言い公爵は左腕を出してくれたので袖をまくる。
「...良かった」
ほっとしていると公爵は「もう夜も遅い。寝よう。」と頭をぽんぽんするので、「はい、おやすみなさい」と返事をして部屋に戻ろうとするが、公爵は下ろしてくれず、そのままステラの寝室へ向かう。
「今日はテラが眠るまでここにいよう。」
そういって頭を撫でる公爵。
かぁぁあああ。と頬が熱っていくのを感じる。
「こ、子供扱いしないでください。」
布団に顔を埋めながら公爵を見る。
それをみて公爵は微笑んで
「ごめんごめん、子供扱いしてないよ、俺がまだ離れ難いだけで」
と澄ました顔で言うのでステラはどんどん真っ赤になって
(もうやだ、子供の姿なのが悔しい...)
「おやすみなさい!」と半ば拗ねながら言うと、公爵はくすくす笑いながら「おやすみ」と返した。
不貞腐れながら目を閉じる。
目を閉じている間もずっと公爵は頭を撫でてくれて、心地よくてその日はよく眠れた。
***
「そう言えば公爵はもう屋敷に?」
ケガを手当されている兵士が聞く。
「あぁ、もう戻った。」
ラズモンが庇った兵士が手当てをしながら答える。
「公爵は怪我は大丈夫なのか?」
公爵が傷を負った事を見ていたのか誰かから聞いたのか分からないがその質問に対し、会話を聞いていた1人の兵士が答える。
「あぁ!それがよ、不思議なことに治ったんだよ。」
「俺も見てたよ!なんか公爵の周りが光りだしたとおもったら傷が消えたんだよ!」
そんなただの会話が周りにどんどん広がっていく。
その会話が伯爵の耳に届く。
「...その話僕も聞いてもいいかな?」
その口元には笑みがあった。
***
朝目が覚めると公爵はいなくて、朝食を食べにいく際
帰ってきたら渡そうと思っていた願い編みを持っていく。
「これを俺に?」
願い編みを両手で渡せば受け取りながら聞いてくる。
「公爵様が怪我しないようにお願いしてたので、公爵様のお部屋の窓に飾ってください」
そういってステラは手を離す。
「...ありがとう」
公爵は嬉しそうにそれをメイドに渡し、自分の部屋の窓に飾るように言う。
「嬉しいプレゼントをもらったお礼に俺からも何か、欲しいプレゼントはあるかい?」
そう聞かれたのでふるふると首を振る。
「ここにいさせてくださるだけで嬉しいです。」
と答えると、公爵は首を振る。
「そうだな、3の日にこの前約束したイチョウの葉を見に行こうか」
そう言われて、ステラは嬉しくて即答する。
「行きます!約束です!3の日ですね!」
ステラは何よりも嬉しい日を公爵がたまたまその日をステラと過ごしてくれるのが嬉しくて約束まで取り付けた。
「ああ、約束だ」
そう言うと公爵は朝食を終えて、先に仕事に戻った。
ステラは約束の3の日を思いワクワクする。
その日はステラにとって一年に一度の誕生日で、今までは祝われても嬉しくなかったその日を公爵と過ごせることはステラにとってとても嬉しいことだった。
(私はもうすぐ8歳になる。もうあと2年で10歳...)
自分の残りの時間を考える。
残りの時間ずっと公爵様といたい。
でも心配させない消え方をしたい。
でも最後まで公爵様と一緒にいたいと思う。
死にたく、ううん、公爵様と離れたくないなぁ。
もっと、もっと、ずっと一緒にいたい。
ステラは死ぬことよりも公爵様と一緒にいられないことを嘆いた。
(大丈夫。まだ、大丈夫。あと2年もあるもん。たくさんの事を公爵様と楽しめばそれは一生の思い出になる。)
胸の前でぎゅっと手を握りしめる。
***
「公爵様、テラ様についての調査に関してなのですが、西の街でのテラという子供は認知されておらず、街の人間誰も知らない感じでした。また、貴族の名簿にもテラという子供はいないそうです。
また、北の街ですが、特に目立ったことはなく、これといった子供関連で事件もないそうです。...しいていうなら最近起こった事件ですと、何でもテル伯爵の大事な私物がなくなったらしくて、捜索隊が組まれ捜索中とのことです。」
「...そうか。そういえばラウルも同じようなこと言ってたな」
執務室のデスクで腕をくみ目を閉じ考える。
(テラが初めに着ていた服はどう見ても安物じゃない。服はボロボロだったが虐待の跡はなかった...。だが貴族の7歳にしては所作やマナーの知識はなかった。だがあの服は平民ではなく貴族の使う生地だ。テラは...なんなんだ、わからない。どういうことなんだ。)
「くそっ」
考えても出てこない答えにクシャッと前髪を握る。




