公爵様の弟①
「本日ラウル様が帰って来られるみたいです。先ほどお手紙が届きました。」
公爵と朝食を食べてたら途中秘書のサトツさんが部屋に入ってきて、公爵にそう言った。
「またか。」
聞いた公爵はご飯の途中にも関わらず席を立ち、「先に失礼する。テラはゆっくり食べてくれ」と言い部屋から出て行ってしまった。
「ラウル様?」
そう首を傾げヤヨリを見れば、
「ラウル様は公爵様の弟君でいらっしゃいます。今は商人として旅に出ており、こうしてたまにふらっと遊びにいらっしゃるのです。」
そう教えてくれた。
朝食を終え、ヤヨリが淹れてくれた紅茶を飲んでいたら、バーンと扉が開けられ、びっくりしながら音がした方を見ると高身長の日焼けした男が立っていた。
「おうおーう、ん?あれ?兄者は?」
こちらをチラ見し、一瞬首を傾げた後、周りをキョロキョロする。
「公爵様なら執務室です」
ヤヨリが私を庇いながら答える。
「ふーん?ま、聞きたいこともできたし、執務室ね、案内?してもらえる?」
こちらをチラリと見てから、ヤヨリに向かって言う。
「わかりました。テラ様少々こちらでお待ちいただけますか?」
そう私に申し訳なさそうに言うので、
「大丈夫!ヤヨリの淹れてくれた紅茶ゆっくり飲んで待ってる」
そう笑顔で言えば、ヤヨリも少し微笑み返してくれた。
それから2人は部屋を出て行き、私はヤヨリが戻ってくるのを待つことになった。
「ラウル様お久しぶりでございます。相も変わらず方向音痴でいらっしゃいますね。」
「いやぁ?商人だから思いのままに向かうことが多くてね〜てか、なんなのあの子は?」
「テラ様でございます。現在この公爵邸でお預かりしているお子様です。」
「ふぅん?」
そう言ってこちらになりますと案内すると、何も言わずに扉を豪快に開けた。
「兄者〜ただいまー」
それに呆れた顔をする公爵様。
「お前は普通に入っては来れないんか」
「いやぁー帰ってきて早々なんかちっこい娘を見たんだけど、あれは、何?」
「あー...テラか。あの子は少し訳ありで少しの間預かってるんだ。」
「身辺調査はしたの?」
「いや、今調べてる最中だ。少し前に庭で倒れてたのを見つけてな。虐待されていたかもしれなくて、ここにいさせて欲しいと言うから取り敢えず居させてる」
「へぇえ」
目を細めながらポツリと呟く。
「優しいね、兄者は。
あんな化物を見てあげるだなんて。」
そうラウルはつぶやいた。
「え?」
公爵は聞き返そうとする前にラウルは笑顔で
「いや?そう言えば、今回は北の方に行ってきたんだ〜。沢山お土産あるよ〜。向こうはなんか空気がピリピリしてたよ〜。何でもテル伯爵の大事なモノがなくなったらしくて、色んな人が総出で行方を探してるんだって〜。空気悪くて今回は早めに切り上げて帰ってきちゃった〜。」
「そうか。次はいつここを立つんだ?」
「そうだなー、ナニもなければ来週には出ようかと思ってるかな〜?」
ちらりと執務室から見えた少女を見る。
「そうか。シェフにお前のご飯も今日から用意させよう。」
「うん。よろしく〜。俺夕飯時まで暇だから散歩でもしてくる〜。」
「迷子になるなよ」
「ならないよ〜」
部屋を出たラウルはそのまま庭園へ向かった。
ラウルを案内したヤヨリが戻ってきて、私たちは一緒に庭園に行くことにした。
「今度のお花見が楽しみで最近はお花を見るとワクワクしちゃう」
「それは喜ばしいことですね。公爵様がお聞きになられてたら今すぐかでも向かっていたことでしょう」
「え〜?まだ桜咲いてないのに?」
くすくすと笑い合う。
暫く庭園で過ごして、日が落ちてきて体が冷えるからとそろそろ戻ろうと言われ戻ろうとして、反対の噴水の方から声がする。
そこにガサっと音がして、音がする方を見ると、
「やぁ!奇遇だね?」
先ほどあった時よりボサボサな髪と格好をしていた。
「いやぁ本当は庭園に行こうと思っていたのだが迷...いや、噴水が綺麗でね、はは」
「あぁ!ここの噴水キラキラと光ってて綺麗ですよね!」
「あ、あぁ。ところで少しお話いいかい?2人で」
チラリとヤヨリを見て言う。
「はい!」
そう言ってヤヨリを見れば軽くお辞儀をして少し離れた。
「君はここの庭で倒れてたんだって?」
「あ、はい。たまたまここで倒れて目が覚めたら公爵様が私を助けてくれてて、そこからお世話になってます」
「ここにはどうやって入ったの?」
「えと、転移魔法がわたし使えるんです。それで」
「なるほど。君は魔法が使えるわけだ」
「あ、はい」
「じゃあ、
君のその姿も魔法なのか?」
そうまっすぐこちらを見つめる瞳は私の正体がわかっているかのようだった。
「え、と。どういう....」
「俺は商人で、普通の人より目や鼻がきく。」
まっすぐ私を見つめたまま言う
「君は、7歳の子供なんかじゃないだろう?」
「え」
呆然としていたらラウルはそのまま続ける。
「少ししか見れてないけれど君の仕草、行動は7歳のものじゃない。...そうだな、じゅう...5.6歳、くらい?じゃないかな」
「...なんで、分かるんですか?....今16で、もう直ぐ17歳になります。」
「...ふぅん?家出をしたのは年齢と関係あるの?」
この国は17歳で成人とされ結婚ができる。
それはこの国では政略結婚が当たり前にあるからこそ、逃げる花嫁も少なくはない。
多分それを聞いているのだろう。
「...たまたまです....逃げれたのがたまたま今だっただけです...」
この人、流石商人なだけはある。
会話が上手で、聞き出すのが上手だ。
なんだかこの人になら話してもいいやって思えてしまう。なんなんだろう。
「へぇえ。まあ、いっか。嘘言ってるようには見えないし、このことは兄者には知られたくないことなんだよね?」
それに対して、こくん。と頷く
(まあ、もしかしたらいい出会いかもしれないし。)
「分かった。兄者には君の年齢のことは黙っておこう。これは俺の商人としてのプライドをかけて守秘義務は守ると誓おう。商人は信頼第一だから安心してくれ。」
「...ありがとう、ございます」
「にしても、体を縮める魔法は初めて見たな」
興味深そうに見てくる。
「あ...魔法、ではなく、薬で、です」
なんだか嘘を言ってるみたいで落ち着かなくて、つい教えてしまう。本当にこの人の雰囲気と目が不思議だ。彼の目を見ていると嘘をつくことをためらってしまう。
「...薬?開発したのかい?」
「いえ、その調合とかも分からなくて、たまたま、本当にたまたま飲んだ薬でこうなってしまって...」
「...それは、もしかして己の命を終わらせようとしたのかい?」
「...」
長い沈黙の中
「...そう、か。」とラウル様は重く返事をした。
重い空気の中沈黙が続いた。
そんな中急にばちーん!と音がして下に下げていた顔を音がなった方に向けると、ラウルの両頬に真っ赤な手形がくっきりとついていた。
「ここで話したことは全て俺の胸の内に秘めておこう。もし、兄者に言えないことで困ったことが起きたならいつでも俺に頼ってきてくれて構わない。」
そう言ってラウル様は夕飯の時間だなと言い、私に手を差し伸べた。
その手を握り、ヤヨリとラウル様と一緒に夕食の部屋へ向かった。
「....なんだこれは」
右手にヤヨリ、左手にラウル様と手を繋いだまま部屋に入り、そのままラウル様と私は向かい合い食べるはずが、ラウル様が私の隣にわざわざ移動してきた。
それを見て公爵様はつぶやいた。
「いやぁー俺もテラのこと気に入っちゃって〜!」
にこにこと笑いながらラウル様が言う。
「あれ?テラもしかしてにんじん苦手?」
その言葉にぎくりと反応する。
...商人の目鋭い。
「そうなのか?」
公爵様もそれに反応する。
「いえ、食べられないほどではないです!」
あせあせと公爵様に言う。
「も〜兄者はそういうんに疎いんだから〜
俺が食べてあげる〜!」
私の皿にあったにんじん自分のフォークで刺して食べる。
それを見た公爵様が
「おい。行儀が悪いぞ。テラ、今まで苦手なものもちゃんと食べてくれてたんだな。偉いな」
ラウル様を注意し、私には褒めてくれる。
なんだか胸がぽかぽかして、頬が緩む。咄嗟に下を向いて顔を隠す。
「えぇ〜?テラは苦手なのがなくなって嬉しいよね〜?」
なんて顔を覗き込まれて私がにやけていたのがバレた。
「ほら嬉しそう〜」
なんてここにきて一番賑やかな夕飯時だった。
部屋に戻っても顔のニヤけが止まらない。
(こんなに幸せでいいんだろうか。私今一番幸せ。)
顔をベッドの枕に沈め、足をバタバタさせる。
(ずっとこんな日が続けばいいのに)
そう思いながらわたしは夢の中へ旅立った。
「やっと見つけたぞ。ステラ。」
そう言いながらわたしの首を絞めるテル伯爵の姿。
「もう逃さないからな」
そう言われたわたしは鳥籠の中に閉じ込められる。
「助けて」
そう言って泣いているわたしの姿。
苦しくて苦しくて窒息してしまいそうな中、わたしはバッと目が覚めた。
はぁ。はぁ。と息が乱れていて、汗も滝のように出ていた。部屋を見渡し変わらない景色に安堵する。
「夢...か」
眠れなくなり、ベランダに出る。
綺麗な星と、キラキラと光る噴水に目が奪われる。
「きーらきーらひーかーるーおーそーらーのほーしーよ、まーばーたーき...」
人の気配がしてそちらに顔を向ける。
「綺麗な歌声だな、初めて聴く歌だ。なんて言う歌なんだ?」
隣のベランダに公爵様がいた。
「...わからない。母が昔子守唄で月の下で歌ってくれたんです。」
「そうか。」
公爵様はそう言うと、
「もっとテラの歌が聞きたいんだが続き歌ってくれるか?」
そう言ってくれて、私は嬉しくなって歌う。
「きらきらひかる おそらのほしよ
まばたきしては みんなをみてる
きらきらひかる おそらのほしよ
きらきらひかる おそらのほしよ
みんなのうたが とどくといいな
きらきらひかる おそらのほしよ
きらきらひかる おそらのほしよ
まばたきしては みんなをみてる
みんなをみてる」
「その歌はどう言う歌なんだ?」
「綺麗な星の下で歌う歌って母は言ってました」
「そうなのか。確かに、星の下で聞くと良いものだ」
「他にも何か歌えるのか?」
「そうですねぇ...あ!」




