狩猟祭
「とうとうこの日が.....」
私にとって最高の日になるか、最悪の日になるか....。
無事一位を獲得すれば私は解放される。
無事にこの狩猟祭を終わらなければ、と自身の格好を今一度見る。
(腕に鉄の入った鎧よし。足に短剣、よし。そして、背中に弓、よし。そして体調も良好。よし。)
そう心の中で言って頷く。
「テラ、準備はいいか?」
公爵は、伯爵にはもうステラだとバレているかもしれないが決定的なことはしたくないので、確実に刻印を消すことができたら、ステラと呼んでくれるらしい。
それまでは今まで通り私をテラと呼ぶことに決まった。
私も公爵様と呼んでいる。...私もいつかは名前で呼べたらいいな、なんて。えへ、とステラは1人でにやけ照れていた。
その様子に公爵は首を傾げる。
(大丈夫だろうか?不安で仕方ないと思うが...絶対に俺がテラを守って見せる。)
お互い全然違うことを考えていた。
そうしているうちに、パァンとピストルの音が鳴り、狩猟祭の始まった。
「テラ、俺から離れてはいけないからね。」
「はい」と返事をすると、公爵は「行こう」と言いながら私の手を引いた。
彼らの少し離れたところに伯爵はいた。
「...僕のステラ。今度こそ君を連れて帰ったら、もう一生外へは出さない...。」
そう言って伯爵も森の中へ消えて行った。
「...全然動物出ないですね?」
「...このまま捕まえられないのも点が取れない。もう少し奥に行ってみよう。」
「はい!」ステラは頷き、公爵と馬を引く。
何故、ステラと公爵が同じ馬になっているかと言うと、剣と弓の練習を終えて、いざ、狩猟祭!と思った時に、あれ、馬の乗り方私知らないぞ...?と思った時にはもう遅かった。
馬の乗り方が私は上手ではなかったらしく、どんなに頑張っても1人でなることは叶わなかったので、公爵の馬に乗せてもらうことになった。
「....すみません。馬乗れないことすっかり抜けてて...」
「いや俺がうっかりしていた。すまない」
そうお互いが自分のせいにして埒があかないので、どっちも抜けてたねと、強引に話を終わらせた。
「...動物いないですね...」
こんなに姿を現さないことなんて、あるのでしょうか...と呟けば
「...おかしいな、動物の気配はするのに一向に姿を現さない...」
もしかして、自分たちを一位にさせないがための伯爵の罠なのではと考え、一度馬から降りる。
「気をつけるんだ...何があるかわからない...」
するとさらに森の奥から人の叫び声が聞こえた。
尋常ではない叫び声だった。
急いで聞こえた方へ向かう。
「なに....これ」
ステラ達が見たのは一面血の海だった。
咄嗟に公爵はステラの目を塞ぐ。
目を塞がれても鼻にくるこの異様な鉄の匂いと、一度見たらこびりついて離れない異様な光景にステラは口に手を押さえる。
「....一度離れよう...」
公爵は片方の手で私の目を塞ぎ、もう片方の手を取り私を引っ張る。
「...ごめんなさい。」
そう呟いて、一度場所を離れる。
少し歩き、落ち着いたところに出たのだろう。公爵の手が離れ、逆さ眩しく目をシパシパさせる。
「あれは...くまか何かでしょうか...」
そう呟けば、
「....あれは多分、....魔物だ」
そう言った公爵に驚きの目を向ける。
「魔物?...魔物ですって?狩猟祭に魔物が出たんじゃこれは中止案件ではないでしょうか?」
驚く私とは反対に公爵は眉間に皺を寄せる。
「....いや、あの魔物は...本来ここにいるような魔物じゃない...」
「...それって...」
ステラは両手で口元を覆う。
「...もしかしたら伯爵が俺たちに仕向けた魔物かもしれない...」
「それは...私たちがアレを倒さなくてはならないってことですか...?」
「...そうだ。...俺が倒す。テラはここで待っていてくれ。」
「...無理です!だめです!行かないで!
あんな...あんなに血が流れていたんです。1人や2人なんかじゃないでしょう?そんな人数相手にならないような化け物敵うかわけない。やっぱり諦めて棄権しましょう?」
「...そのまま放っておいたらさらに犠牲者が出るかもしれない...。放ってはおけない...。」
そう言われてステラは自分のしたことを思い出す。
(伯爵家のメイドや執事は私が逃げ出したせいで何人も死んだと聞いた...。私は本当に自分のことしか考えていない...。あの時本当に、逃げる時一瞬でも彼らがどうなるかを考えなかったのだろうか。...ううん。きっと私は心のどこかで気づいていた。...私が逃げ出したら彼らがどうなるかなんて分かりきってる。私を逃した人間なんてさらに酷いことされることなんて目に見えてた。...私はそこに目を逸らした...。自分が助かりたいがためにあそこから逃げ出し、自分を終わらせようとした。...こんなひどい私を彼は守ろうとしている。...私のせいで今回魔物に襲われた人たちはきっと関係ない人たちなのに、私はまた逃げようとした...。私は....そんな優しい彼を巻き込んでいる...。)
(私さえ消えれば、終わることなのに....)
胸のモヤモヤがどんどん大きくなる。
「大丈夫だから。少しここで待ってて。」
そう言って公爵は走ってさっきのところへ向かう。
ステラは自分に問いかけていた。...本当にこのままでいいの?私は、ここでも逃げたら、公爵様に今まで通り話せる?これ以上私のせいで傷つく人を作って私は公爵様の前で笑える?
(...だめ。....これ以上、私のせいで傷つく人を見るのは...いや!!!)
そう心の中で叫ぶと同時にステラは走り出す。
***
「すごい血だな...こっちに続いている。」
魔物の血は紫色だ。少し紫色も混ざっているがそれ以上に赤い血が一面散っている。
「こんなの...彼女に見せるわけには...」
あまりに酷い景色と匂いに、流石の公爵も腕で鼻を抑える。
「....いた」
咄嗟に木の影に隠れて魔物を見る。
「....見た限り片目を怪我しているな。」
他は特に怪我をしていなかったため、町に流れていた紫の血は目を負傷した時に傷ついた血なのだろう。
「...目の傷であんなに血を流すと言うことは結構深いのだろうか...?」
とりあえず魔物の現状を把握したため、負傷した左目の方で、死角から回り込む。
そして、魔物の中心であるお腹を切る。
ちゃんと深く切れて、公爵は上から紫の血を浴びた。
「...大きいだけでそこまで強くはなかったな...」
そして、ステラの方に向かおうとしたその時、切ったはずの魔物の傷が消え、公爵に大きな爪を振り下ろす。
影になったことで公爵は異変に気づき背後を振り返るが防御に間に合わない。
(なるほど、目の負傷であんなに血が流れているなんておかしいと思ったんだ...。くそっ。判断ミスか...。ごめん。ステラ。ほんとうに...ごめん...)
魔物は通常不老不死ではないし、傷が塞がるなんてあり得ない。
これは誰かが魔物を改造し、不老不死に近い存在を作ったことになる。
そしてそれが出来るのはこの狩猟祭では1人だけだ。
(テル伯爵だけだ....)
目を閉じる。
「公爵様っ!!!」
バッと自分の横を横切った人と風を感じた。
前を見ればステラが魔物の攻撃を受け流していた。
「テラ!!」
短剣に風を纏わせ、うまくかわしていた。
そして魔物がよろめいた瞬間ステラは振り向き公爵の腕を引っ張り木の影に隠れる。
「はは。公爵様見て。腕が震えてる。」
魔物の衝撃で腕が震えているのか、恐怖で腕が震えているのかステラ自身分かっていない。
「ありがとう。本当にありがとう...!」
公爵はステラを抱きしめる。
「今度こそ、大丈夫だから、見ててくれ。」
そう言って飛び出そうとする俺に、ステラは引き留める。
「だめ!今の公爵様の発言に安心感なんかこれっぽっちもないですよ!」
頬を膨らませながらステラが言う。
公爵はぐさーっと胸に刺さり、怪我をしていないのに心のダメージを公爵は負った。
「た、たしかに、君に守られたことは事実だけど...これ以上君に守られるわけにはいかない...頼む。もう一度だけ信じて俺に行かせてくれ。」
そうまっすぐ見つめる公爵様にステラはため息を吐き、掴んでいた腕を離す。
「....怪我をしたら許しませんから...。」
「わかった。任せてくれ。」
そう言って公爵は魔物に向かって走り出した。




