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胸板パブ

作者: さば缶

 青いネオンが灯る小さな看板。

そこには「胸板パブ」と金色の文字がきらりと浮かぶ。

扉を開けると、まばゆいほどに鍛えられた胸板を誇る男性スタッフたちが出迎えてくれる。


 ゆったりとしたソファに腰を下ろした女性客の隣で、一際大きな胸板を持つ男性が微笑む。

「いらっしゃいませ。どうぞ、胸板を枕にして、ゆっくり休んでいってください。」

その言葉に甘えるように、女性客は彼の胸板にそっと頭を乗せる。

硬すぎず、しかし確かに弾力のあるその感触に、日ごろの疲れがじんわりと解きほぐされていく。


 周囲を見回すと、ほかの女性客たちも同じように、お気に入りの胸板を枕にしている。

ただ、男性スタッフたちは決して自分から手を伸ばさない。

触れてくるのは、あくまで客のほうからだけという徹底ぶりだ。

「私の胸板はどうでしょうか。もう少し寄り添いやすい姿勢に変えましょうか。」

そう提案するスタッフもいれば、「もし疲れがたまっているなら、深呼吸しながら音楽を楽しむといいですよ。」と落ち着いたトーンで話すスタッフもいる。

彼らは皆、女性の安らぎを第一に考え、礼儀正しく笑顔を絶やさない。


 一方、女性客は顔をうずめて微睡みながら、筋肉の張りを心ゆくまで堪能する。

遠慮がちに指先をあててみると、胸板は思った以上に熱を帯びていて、頼もしさがさらに増す。

別のテーブルでも「あなたの胸板、やっぱり最高ね。」と小さくつぶやく声が聞こえる。

それぞれが、お気に入りの胸板という安心感に身を任せるのだ。


 そうして和やかな空気の中、夜も更けていく。

さあ、そろそろ帰ろうかと席を立ち上がった女性客は、ふとカウンターの奥に不思議なものを見つける。

それまで店内で使われていた男性スタッフの胸板が、実は取り外し可能な特殊スーツだったのだ。

「……えっ、着脱式だったの?」

驚く彼女に、カウンターの裏から店長が顔を出す。

「ええ、鍛え抜かれた肉体を再現するための最新技術なんです。もちろん本物の筋肉の人もいますけどね。」

どこか照れくさそうに笑う店長と、微妙に脱力してしまう女性客。

その夜、胸板パブは最後まで安らぎと衝撃を同時に提供し続けていた。

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