2
「マスター。今日は何人来ると思う?」
美しい毛並みの貴婦人が、紅茶を飲みながら、店の主人シュヴァ―ルへと尋ねる。
「どうでしょうかね。最近は常連さんたちも忙しいのか、あまり顔を出してくださいませんからね…。そろそろ、ローラさんは来る頃じゃないですかね。」
「あら、もうそんな時期かしら。いやだわ、最近、ゆっくり過ごしすぎたかもしれないわ。」
「もっと、ゆっくりしてってもいいんですよ。」
「もう!それじゃぁ、お言葉に甘えて、スコーンをいただいても?」
「もちろん。いつものを、お出ししますね。」
店内には、紅茶のいい匂いが漂い、まったりとした空気にあふれていた。
カラン、コロン――
ドアに付けているスズの音が店内に響く。ドアを開けたのは、背の高い青年のようだった。
「いらっしゃいませ。Café:Katze Waldへ……って、リッヒさん。お久しぶりです。お好きな席へどうぞ。」
「お久しぶりです、マスター。」
青年…もとい、アーリッヒ・シュナイゼルは、いつもと同じく、窓辺の席に着く。
「リッヒさん。お久しぶりね。すこし見ない間に、痩せたかしら?だめよ、あなた細いんだから。」
「いやぁ、最近いろいろありましてね…。マダムこそ、少し見ない間に、美しさに磨きがかかりましたね?」
「リッヒさんたら、お上手です事。」
マダムと彼の談笑を聞きながら、おしぼりとメニューの準備をして、席へと持っていく。
「お話し中、失礼します。おしぼりと、メニューです。」
「あ、ありがとうございます。あーどうしようかな…。今日のおすすめとかあります?」
「どれもおすすめですが…。そうですね、軽食ならキッシュ…。とかいかがでしょう。」
「キッシュ!いいですね。じゃぁ、それでお願いします。」
「お飲み物はいかがいたしますか?あと、キッシュもいくつかフィリングがありますが、どれにします?」
「マダムと同じ紅茶と、フィリングは…サーモンのものと、キノコのものをお願いします。」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
注文を受け、シュヴァ―ルはカウンターの中へと引っ込む。卵を溶き、キッシュのフィリングを造り始める。溶いた卵に生クリームと塩コショウを入れ、混ぜる。冷蔵庫から、片手サイズのパート・ブリゼ(パイ生地の一種)を二つ取りだす。片方には、2㎝各に切ったサーモンとクリームチーズを入れ、もう一方には、しめじとほうれん草、そして薄切りのベーコンを入れる。両方に卵液を流し込むとそのまま、暖かなオーブンの中へ。
オーブンで焼いている間に、スープを温め始める。今日のスープはオニオンスープである。透けるほどの薄さの玉ねぎが、鍋の中で揺蕩う。同時に、お湯を沸かし紅茶を入れる準備をする。マダムと同じ紅茶…カウンターの缶か。沸いたお湯をティーポットとティーカップにそそぐ。ティーポットが温まったところで、お湯を捨てティースプーン一杯の茶葉と、沸騰したお湯を注ぐ。茶葉よ、開け。茶葉を蒸らす数分の間で、今度はサラダの準備をする。
レタスをちぎり、トマトを切る。蒸した鶏肉を数切れいれ、彩りにコーンとブロッコリーを添える。十分に温まったスープをカップに注ぐ。
そうしているうちに、キッシュは焼き上がる。オーブンから取り出し、皿に取る。
出来上がった料理たちをトレーにのせ、アーリッヒのもとへと運ぶ。
「お待たせいたしました。サーモン、キノコのキッシュと紅茶です。キッシュはとても熱いのでお気を付けください。それではごゆっくり。」
どうぞ、召し上がれ。
我が家のキッシュはもっぱら手のひらサイズ。何故って?そりゃぁ、いろいろな種類を食べたいからです!
皆さんは、キッシュのフィリング、何が好きですか?