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Café:Katze Wald へようこそ  作者: 跳びイワシ
陽だまりのキッシュロレーヌ
2/10


春の暖かな光が窓から差し込み、書類の山を照らしだす。


あぁ、もう、逃げてもいいかな。今すぐ鳥になってどこかに飛んでいきたい。


アーリッヒ・シュナイゼルは、ただただ疲れていた。『宰相筆頭補佐官』なんて言う立派な肩書も、今は書き損じた書類以上に意味がない、無用の長物と化している。


どうしてこうなってしまったのか…。


回想しなくともわかる。アレが原因だ。本来、アレはここにいるべきではないのだ。本来、アレは辺境の魑魅魍魎が跋扈する居城にいる筈なのだ。な・の・に!アレは今王都にいる。

私が何をしたというのだ。この間、周りをブンブンと飛んでいた羽虫を叩き潰したのがダメだったのか。そうか、そうだったのか。…くそったれ。


事の発端は三ヵ月前、幼馴染であり、特異魔法師団の隊長である、レイモンド・アルゼルトが二年ぶりに王都に帰ってきたことだった。別に、帰ってくる分にはいいのだ。問題は、アレが公爵家の三男坊と言うことだ。

三男坊とはいえ、公爵家の人間だ。王都にいるのならば、社交をしなければならない。いや、別にアレが社交する分にもあまり問題はないのだ。一番の問題は、私を社交の場に引きずり出すことだ。


同性から見ても、アレは顔が良い。美形揃いと言われる我が国の王侯貴族の中にあっても群を抜くほど、顔が良い。

どれぐらい顔が良いかって?老若男女、視線をやるだけで恋に落とすぐらいだよ。


そして、特異魔導士団の隊長と言う肩書。我が国には魔法師団が二つある。一つは、一般的に普及している元素魔法を駆使する、元素魔法師団。通称ゲンマ。そしてもう一つが、一般的に普及していない、特異魔法を駆使する特異魔法師団。通称トクマ。どちらも、魔法学校でトップクラスの成績を修めないと入団資格が与えられない、エリート軍団。そのなかで、隊長格にもなれば、エリート中のエリート。


家柄良し。

容姿良し。

出世良し。

そして、独身。


アレが社交場に出るとモテる。男女問わず、ひっじょーにモテる。

しかし、アレは阿保である。魔法師団に入れるだけの頭の良さはあるだろうって?アレは、脳筋なのだ。魔法も、理論ではなく、感覚で習得するアホなのだ。そもそもアレに頭の良さがあればトクマではなくゲンマに入っているはずだ。アレは、天性の才能と、トクマの人員不足(特異魔法を扱える人数が少ない)の2つが重なったために、入隊できただけなのだ。なので、アレに頭の良さはない。なんなら、貴族が飼育している犬のほうが利口ではないのか。

なので、アレは、モテるが、モテないのだ。今まで何人の人を泣かせてきたのか…。


重ねて言うが、アレは顔が良い。なんか、頭よさそうな顔をしている。しかし、口を開けばおバカ。

公爵家の皆様はもう、諦めてる。

そして、そのフォローに駆り出されるのが私。

あまりの落差に泣き出す御令嬢にハンカチを差し出し、バカの一言に怒りだす貴婦人をなだめる。


なんども言ってるだろう?女性に、「厚化粧ですね」なんていうんじゃねぇよ!そのドレス、似合いませんね、とかドストレートに言うんじゃねえよ。せめて、若々しいですね(若作りですね)とか、かわいらしいドレスですね(いい年して少女趣味?)とかオブラートに包むんだよ。それでもアウトだけどさ…。


今夜も社交会か…。本当に嫌だ。行きたくねぇ。行くにしても、何か気力をもらわなければ。


「……はぁ、嫌だ。何か癒しがないか…。………よし、あそこに行こう。」


与えられた執務室を出て、中庭に向かう。バラのアーチを潜り抜け、裏の森へ。立派な洞のある木を右に曲がり、小さな池に出る。池をぐるりと周り、一際大きな木に向かって進む。木が示す方向に向かって数分歩けば、見えてくる。


レンガ造りの洋館だ。


少し塗装が褪せたドアに手をかけ開ける。ドアを開けると同時に鳴り響く、軽やかなスズの音色と、鼻腔を擽るコーヒーの匂い。そして一拍置いて聞こえてくるあの声。


「いらっしゃいませ。Café:Katze Wald(カッツェ バルト)へ……」


ぶ、文才が欲しいー!私のところにも、リャナンシーが憑いてくれないかな…。

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