第八話 一旦ゆっくりと
「いやー、大変なことになったっすね......」
「本当だよね......はあ......まいったね。」
今日のところはやることはないそうだが、もう既に日は落ちている。時刻は8時を回った頃。マルセリクスさんのところを後にした私達だが、そういえば宿について何も考えていなかったことに気づいた。
「あ、そういえばどっか泊まる場所とか決めてないよね......?」
「あ......そういえば。」
廊下を歩きながら五人で宿について相談していると、いつの間にかエントランスまで来てしまっていた。数分話し合ったが、全く決まらなかった。面倒くさいから車で一泊派のジョセフ、宿で一泊派の私とソフィアとジリオス。どこでもいいけどトイレとお風呂が別じゃないと絶対嫌派のセリオン。全然話し合いがまとまらなかった。
埒が明かないと悟ったソフィアが、エントランスの受付の人に助言を仰いだ。
「すいません......、ちょっと時間大丈夫ですか...?」
「大丈夫ですけど......?戦略課の方々ですよね?どうかされましたか?」
「私達、実は今晩どこに泊まるか全く考えてなかったんですよね......フィオリーノのこと全く知らないので困っちゃって......おすすめの場所ってありますかね......?」
すると受付の人は怪訝な顔を浮かべた。
「え?知事から聞いておりませんか?宿については、我々が用意しておりますが......」
「......え?」
ソフィアはポカーンとした。そんなの一言も聞いていない。びっくりして私達が固まっていると、セリオンが受付のカウンターに身を乗り出し、問った。
「そそその宿のトイレとお風呂は別っすか!?」
「ええ、別かと思われますが......」
セリオンは大きく息を吐いた。ジョセフも宿を用意されているならと折れてくれた。どこで泊まるか論争が平和裏に終わってくれて私は安堵した。
この受付の人が宿まで案内してくれるということで、私達はご厚意に甘え後を追う。
州庁舎を出て壮麗な街並みにすごいなあと思いつつちょっとの間歩くと、優麗な建物が見えてきた。
「ここです。少しばかり小さいかもしれませんが、今日は貸し切りでございますよ。部屋の電話は州庁につながっておりますから、なにかありましたらそちらからお願いしますね。後は宿の方から詳しい説明を受けると思いますので......」
私達はこの方にお礼をいい、ここでお別れ。
中に入ると、宿の主人がテーブルで夜ご飯の用意をしていた。
「おー!皆さん、やっと来られましたか!待ってましたよ〜。随分遅かったですね、お疲れでしょう。さあさあ、ご飯はもうできますから、座って座って!」
恰幅の良くとても親しみやすいおじちゃん。顔がまんまるでとてもかわいい。
席に座ると、それはそれは美味しそうなホワイトシチューが出てきた。
「さあ、皆さんいっぱい食べて食べて!おかわりはたくさんあるからね!あっはっは」
一時間ほど経ち、お腹いっぱいに食べたところで主人に部屋を案内された。セリオンとジョセフとジリオス、私とソフィアで部屋を分けてくれた。電話は州庁につながる電話と内線、普通の電話が用意されているということで、連絡手段は完璧に確保されていた。感謝してもしきれない。
男性陣は一階、私達は二階の部屋に移り、荷物を整理していると私達の部屋のドアがノックされた。開けてみるとジョセフだった。
「あれ、ジョセフ、どうしたの?」
「セリオンがさ、もう寝ちゃってさ。内線使っちゃうと音で起こしちゃうかもじゃないですか。でもアイツ何時間も運転して疲れてるだろうし寝かしといてやりたいんですよね。だから何かあったら内線じゃなくて直接部屋来てほしいなっていうお願いに来たんですけど......」
彼は絶対疲れているだろう。小競り合いもあったからね......
そういえばジリオスは何をしているのだろう。
「わかったわ。じゃあ何かあったりしたらそっちに行くね。......ところでジリオスは今何をしているの?部屋で荷物整理してる?」
「いや、ジリオスは主人にホワイトシチューの作り方を教わっているよ。相当気に入ったんだろうね。」
「料理好きだもんね......」
「じゃあ、なんかあったらまた!」
そう言ってジョセフは部屋に戻っていった。
私がジョセフと話しているうちにソフィアはテレビをつけていた。
「おお!テレビついた!!やったあ!」
喜んでいるソフィアの隣で突如電話が鳴った。州庁からだ。一体何かあったのだろうか。私達の間に一瞬にして緊張が走る。
「あーもしもし、さっき受付から聞きました。伝え忘れてたね!宿のこと。ごめんね!」
恐る恐る受話器を手に取ると、マルセリクスさんの詫びの電話だった。あー有事でなくて良かった。
各々が今日一日の疲れを取るべく、のびのびとしたいことをやっている。ちなみに私はあの後主人のもとへ赴きジリオスと一緒にシチューの作り方を教わった。あまりに絶品であったので、主人の味には劣っても近しいシチューを個人的に作れるようになりたかったからね。
時刻が0時を回ったぐらい、皆が眠りについた頃私は一人明日以降のことを考え始めていた。特に秘密警察の統率について。
うーむ、中々いい案が思い浮かばないなあ。あと少ししたら眠りにつこう......
読んでくれてありがとおおお!!
評価とかしてくれるとモチベになるよ!!