第三話 内務省戦略課
「そうか......随分と踏み込んだんっすねぇ......うーむ......」
同僚のうちの一人であるセリオンがそう呟いた。
他の同僚も今回の緊急会議に伴う勅令に対しとても困惑している様子だ。当然我々のみでこの問題に取り組むわけではないにしろ、負担が大きいのは確実。皆、ため息が漏れ、険しい顔をした。
するとセリオンが私にこう尋ねてきた。
「アリシアさん、これからどうしますか?まだ勅令も公布されてませんし、内務省からの指示もすぐには来ないっすよねぇ......」
そうだよなあ。今頃内務省のお偉いさんは頭を抱えていることだろう。勇者を排除する、じゃあ具体的になにをするのか。あらかたの方針は決まっているといっても、細かいところは丸投げ。警察に対応を要請、場合によっては軍が出動させるかもしれない。非常に難しい議論が現在侃々諤々となされているだろう。
「うーん、何しようかー。」
しばらく考え込んだ。今私たちはそこまで大きいことはできない。ならばまずは初歩的なことをするべきだろう。
「じゃあ、ひとまずこの国の勇者について徹底的にしらべよっか!」
国内のいろいろなことを担当する内務省には様々な情報が揃っている。それは勇者に関することも例外ではない。むしろ、勇者に関してはその職の特殊性からより細かい情報があるのだ。
「そうだなー、セリオンとジョセフは勇者が具体的に何をしているかとか調べて。私とソフィアはこの国の勇者、できるだけ全員の情報を持ってくる。ジリオスはテレビやラジオで政府の動向について確認して!」
私の指令に合わせて皆が一斉に動き始める。どこか抜けている者たちではあるが、当然国の官僚であるので、仕事は本当に早く頼りになる。
そして私達は勇者の情報を得るわけだが......
「あれっ、あれぇ......アリシアさん......?なんもないですよ......」
国民の個人情報が管理される管理室に赴き、勇者に関するファイルを探すも......
「あっ、これ、ないね。」
隈なく探したが結局ファイルはどこにもなかった。しかしよく考えたら当然のことかもしれない。今議論を行っているお偉いさんたちだって勇者の情報が欲しいだろう。
私は部屋の外に設置されている内線を用いて上層部に電話をかけた。現在ファイルを使っているか問い合わせたところ、やはりガッツリ使っていたようなので即刻コピーしてもらった。
コピーが終わるまで時間がかかるのでその間に私は課に戻り、ソフィアに受け取ってもらうことにした。皆がどれほど進んでいるか確かめるためだ。
課に戻ってみると、セリオンたちは既に勇者のあらゆる動きについてまとめ終わっていた。
「おお、セリオン、やっぱり仕事が早いね。あれはソフィアが後で持ってくるからね。」
「おおそうすか。こっちはだいぶ進みましたよ!」
そう言うと、セリオンは私に勇者の行動について解説してくれた。
「勇者たちは、まずパーティーっていうものを組んでいるっす。まあチームってことっすよね。んでそのパーティーで魔王から世界を救う、だとかダンジョン攻略などと称して、ゴブリン族などの少数民族に対する迫害を行ってるっす。」
セリオンとジョセフの端的でわかりやすいまとめは、とても短時間で作成されたものとは思えないほど完成されているものだった。
「えーと、セリオン?その、異世界からの転生者が横柄な傾向にあるっていうのは前から知っていたのだけれど、その転生前の地球?という世界では自堕落な生活をしていた者が多いっていう認識でいいのかな?」
「おそらくそうですね。この資料によると......」
「......そうか、勇者たちは皆自分が英雄、主人公であるというマインドであるのかな......?」
「その方がほとんどかと思われます!」
「......こっちの資料にある、”ステータスオープン”という呪文のようなものは一体何なんだろう?」
「そこに関しては、僕はわかんなかったっす。もしかすると......」
こうしてに勇者について理解を深めていると、大量の紙を抱えたソフィアが戻ってきた。この国にいる勇者の数は数千人にも登るため、これほどの紙の量になってしまうのだな。しかし想像していたよりも多く大変そうだったので、先に帰ってしまったことに少し申し訳無さを感じた。
ソフィアに謝罪をしつつ、我々は四人で手分けして勇者の情報を片っ端から調べた。
しばらく調べていると、特に勢いのある勇者が挙げられる。
「皆さん、この勇者の方、他の勇者より明らかに強そうじゃないですか?」
そうジョセフが言うと、その勇者の資料を見せてくれた。
「ロシュターン?......聞いたことはあるような......」
どうやら彼は西部のある街のほとんどを掌握するほどの影響力を持つようだ。多くの市民が彼の支配下に置かれていて、地元警察ですら彼の言いなり。きっと我々はこのような者すらも相手しなければならないのだろう。これは非常に厄介だなあ。
その後も勇者について探っていたところ、ジリオスが我々のもとに少し駆け足でやってきた。
「みなさん、一旦しゃべるのをやめてください!」
そう少し焦った口調で言うとジリオスはラジオの音量を最大にした。
ラジオからは紙をめくる音、スタッフが裏でなにか話している声が聞こえ、緊張感がひしひしと伝わってきた。
「えー先ほどですね、国王陛下による緊急勅令が公布されました。緊急勅令が公布されました。近年問題視される経験値不足に対する緊急対策として、異世界転移勇者を全員処罰するとのことです。また西部のノヴェスコなどの一部都市において、戒厳令が出されました。首相は先程、この............」
ついに始まる、我々の戦いが。
私はラジオに耳を傾けながら、唾を呑んだ。
読んでくれてありがとーーー!!
感想とか待ってるよー!
【☆☆☆☆☆】で評価できるらしいからしてくれたらうれしいぞ