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信頼できない語り手

作者: 左之

「おはよう、ひなちゃん、もう朝だよ」


愛らしい声とお日様の香りで目が覚める。まぶたを開けても目の前は真っ黒。顔の上に横たわる毛玉を抱え朝日を拝む。


「おはよう、モフモフ」


モフモフは私の手から離れ、ふわふわと宙に浮くと階段のほうに顔を向け前足でお腹をさする。


「もうお腹ぺこぺこだよ。1日は朝食からだよ」

「そうだね。朝ごはんにしよっか」 


時計の針が6に重なってる事を確認しベットから飛び起きる。

ひなが階段を降りリビングに向かうとテーブルにいつも通り紙が置いてある。

"ひなちゃんへ

ごめんお母さん朝早いから自分で作って食べてね

1日は朝食からよ

                   母より"

お母さんがいない事に内心寂しさを感じたもののすぐに切り替え朝ごはんの準備に取り掛かる。


「モフモフ、コーンフレークでいいよね」

「うん、というかひなちゃん料理できないでしょ。前作った時なんて真っ黒物質作り出してたし」

「も、モフモフにはわからないかもしれないけど料理っていうのは奥が深いんだよ」

「作ろうとしたのは目玉焼きだっだけどね」


主人を煽る毛玉畜生は皿に入ったコーンフレークをむしゃむしゃと平らげている。


「今更だけどモフモフって何なの?犬とか猫でもないし飛べるし」

「モフモフはモフモフだよ」


ある日モフモフは急に私の前に現れた。その名の通りモフモフした体毛に囲まれており4本小さな足がちょこんとはみ出している。大きさは犬や猫と同じぐらいだが言葉を話せる上飛べるという謎生物である。人間の食べ物を与えても良いかはわからないが以前にドッグフードをあげたがお気に召さなかったため今ではコーンフレークを一緒に食べている。


「ひなちゃん、今日はどうするの?」

食べ終わったお皿を吹いているとモフモフが話しかけてくる。


「んー、今日は学校行こっかな」

「本当に行くの?大丈夫?」

「うん、大丈夫」


私が学校に行くのを心配するモフモフの不安を吹き飛ばすようにめいいっぱい笑顔で応える。顔を洗い、髪を整え、制服に身を包む。


「じゃあ行こっか」

「…うん」


モフモフをカバンの中に入れ、玄関の戸を開ける。


「いってきます」


誰もいない家の中から返事は帰ってこない。

ガチャリ

重く鈍い鍵を閉める音が頭の中で鼓動する。

空元気を出して大きな一歩を踏み出した。


学校は隅々まで掃除されさながら新校舎のようだった。教室に着くとがやがやと騒がしくみんな友達同士で会話している。昨日のテレビの話、なんちゃら先輩がかっこいい話、宿題の話。私には関係ない話だらけだった。誰とも目を合わせないように下を向き自分の席へまっすぐと向かっていく。


「あ」


いつの間にか自分の席だけがなくなっていた事に言葉が漏れる。


「あら、ひなさん。また学校に来たんだ。もう学校には来ないと思って片付けちゃったわ」

「お、おはよう結菜ちゃん」


あははとひきつった笑う私に話しかけてきたのは()()()の結菜ちゃんだった。赤いシュシュで髪を整え、二重で小さな顔は芸能人のように綺麗だった。ただその目付きと言動から友好的では無いことは一目瞭然だった。


「あんたの居場所はここじゃない。早く出ていきなさいよ」

「そ、そんな事言わないで。昔みたいにな、仲良くしよ…。あ、そうだ結菜ちゃんに見せたいものがあったの。ほら私のペットのモフモフ。か、可愛いでしょ。空も飛べるし、言葉も話せるんだよ」


カバンからモフモフを取り出す。モフモフは人見知りなのかいつものようには動かない。


「ひな何いってんの?そろそろ目を覚ましたら?そんなものいないのよ」


結菜ちゃんは冷ややかな目線を私に向ける。動かないモフモフをカバンに詰めて教室から逃げるように去ってゆく。ひなが飛び出した教室は静寂に支配され静まり返っていた。


家まで全力疾走し、すぐに戸を閉める。身体中の細胞が酸素を欲する。玄関に倒れ、体からは汗や涙が流れ落ちていた。


「大丈夫?ひなちゃん」


カバンからちょこんと顔を覗かせるモフモフ。


「なんでモフモフさっき話してくれなかったの?動いてくれたらまた結菜ちゃんと仲良くできたかもしれないかったのに」


「ひなちゃん、()()()()()()()()()()()()()?」


一呼吸置きモフモフは淡々と話し出す。


「本当はーーー


モフモフの声を遮り階段を駆け上がる。聞こえなかった、いや聞こえないふりをしたその声のあとはもうとっくに気づいてた。



起きたらもう朝日が顔を出していた。時計を見ると時刻は6時。昨日の事を思い出し朝から憂鬱が頭を支配する。


「ひなちゃん、今日はどうするの?」


「今日はいいや」


布団の上から顔を出すモフモフ。最悪な気分で動ける気力は残っていなかった。ひなが部屋中を見渡していると棚の上に置いてあったある物に目が止まる。


青いシュシュ。結菜ちゃんと昔に一緒に買った。お揃いのものだった。


「そういえば、結菜ちゃん昨日赤いシュシュしてた…。モフモフやっぱやめ。今日も学校行く」


勢いよく体を起こし、階段からリビングに向かう。

テーブルの置き手紙にいつも通り目をくれる。

"ひなちゃんへ

ごめんお母さん朝早いから自分で作って食べてね

1日は朝食からよ

                   母より"

いつもの2倍のコーンフレークを皿に装い手を合わせる。

「今日は多いね」

「1日は朝食からだからね」


コーンフレークを食べ終わり学校へ向かう準備をする。シャワーをあび、制服に着替え、髪を整えて青いシュシュで結ぶ。


「モフモフは待っててね。じゃあ、いってきます」


「いってらっしゃい」


モフモフの声を背に学校へと向かう。昨日より少しだけ一歩が軽いそんな気がした。



今日も教室は声で溢れている。自分の席のあった場所を見ると結菜ちゃんと目が合う。

私は結菜ちゃんまっすぐ見つめ近づく。目を背けずに真っ直ぐに姿勢を正し歩く。


「ひな、また来たの?だからあんたはの居場所はここにはないんだよ」


昨日よりもひとまわり大きい怒声が教室中に響き渡る。


「うん、わかってる。今までありがとね結菜ちゃん。もう()()()()()()()()()()()()()()


ひなの発言と同時に一瞬にしてクラスメイトは消え、校舎は今にも崩れそうな古めかしいものへと姿を変える。


「やっと気づいたか。ひなは昔から弱々しくて心配だったよ。もう子供みたいになくなよな」


「ありがとね。結菜ちゃん、私頑張るから」


「うん、頑張って」


言葉を最後に結菜ちゃんはチリのようになり消えてゆく。


「よし行こっ」


自分の頬を強く叩き、こぼれ落ちそうな涙を我慢し学校を後にする。校門ではそわそわしたフワフワが心配そうに見つめていた。


「大丈夫?ひなちゃん」

「もうなんでこんな所にいるの?家の鍵とか大丈夫?」

「大丈夫だよ。誰もいないし」

「それもそっか」

改めて街を見渡すと誰もおらず風の吹く音しか聞こえない。お母さんも何日も帰って来ていない。

「これからどうするの?」

「旅にでも出よっかな」

「いいね、それじゃあ早速行こう」

「え、いまから私制服なんだけど?」

「善は急げだよ」


こうして1人と1匹は旅をする。








解釈は任せます

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