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いつも  作者: Hekuto
4/4

4話

 最終話になります。お楽しみください。





 あれから一月ほど、従妹の家の葬儀や親戚への説明やその他諸々、私にはよくわからない手続きで毎日忙しくしている両親。夏休みを少し貰えたので仕事の引継ぎを手早く終わらせ、母に頼まれ従妹の家を訪ね、あの日見た年の離れた従妹の女の子の笑顔が、最近では遠くに感じ始めている。


 まだうまく動かない体に、休職の現状から退職を考え始めた日、あの日私を助けてくれた男性が訪ねてきた。


 真実を知るには、あの時の私も両親も心が耐えられないだろうからと、日を置いて尋ねたと言う男性は、今日もあの日と同じ様な笑みを浮かべ、泥で汚れていない白く明るい服を身に着けテーブルの向こうの座布団に座っている。


 おじさんとおばさん、それから従妹の女の子の死に対して私以上にショックを受けていた両親は、忙しく動き回ることで少しずつ気持ちの整理をしていたらしく、私の状態も考慮して詳しい説明に一月と言う時間を置いたらしい。


 そして語られるあの日あの場所で起きた事故の真相、それは私にとって思わぬ理由で起き、すぐに飲み込めるものではなかった。


 冷えた麦茶を一口飲んだ男性によると、おじさん一家がダムから湧き出て来た泥に飲まれダムの中に引きずり込まれたのは事故ではなく、人ならざる者によってあの場まで呼び出され落ちるべくして落ちたのだと言う。


 落ちるべくして落ちた、そう言われても納得は出来ないが、男性は私の考えを見透かす様に顔を見て困った様に微笑む。どうやら男性は悪霊や霊障などよくわからないものを祓う仕事をしているらしく、仕事内容を軽く説明してくれるが私には半分も理解出来なかった。ただ、頭は霊など存在しないと否定するが、心は思いのほかすんなり受け止めている気がする。


 男性曰く、あのダム湖の下には昔の村落跡そのまま残っているらしく、村で祭っていた神の為に作られた神社もご神体と共に沈んでいるのだと言う。普通そう言ったものは別の神社に移ってもらうものらしいのだが、ダムを作る時に色々問題があって村から人が居なくなってしまい、ほうせん? と言うものが出来ないままダム開発が始まってしまったそうだ。


 ちょっとしたダムの歴史について語りまた麦茶を一口飲む男性。いったい今の話と私達に起きた事件にどんな関係があるのか分からず、いつの間にか顔を顰めていたのか、私の顔を見た男性がまた小さく笑う。男性はテーブルの上に大きめの黒い布に包まれた何かを置いて布を広げ始める。


 男性によると沈んだ神社にはきれいな朱色の鳥居が建っていたらしく、神社を建てた職人はこだわりの瓦で神社の屋根を仕上げたそうだ。これはその一部なんですと言って布を広げた男性は、丸みのある石の欠片の様な物を私たちに見せる。私はよくわからなかったが、お父さんは驚愕の表情で固まっていた。


 何かの模様が描かれた丸い瓦の欠片、お父さんが言うにはおじさんの家に飾られていた物にそっくりだと言い、男性は大きく頷きこれはおじさんの家の床の間に飾られていたものだと言う。どうやらおじさんはダム湖に釣りへ行った際、魚では無くて瓦の欠片を吊り上げた事があるらしく、その見た目から価値ある物だと思ったおじさんは大事に持ち帰って飾っていたのだそうだ。


 お父さんもその話には覚えがあるらしく、顔を蒼くして震えていてお母さんに背中を摩られている。


 なんとなく、何となく状況が見えてきた私は男性に目を向けると、彼は小さく頷いて話しを再開した。


 ご神体では無いとは言え、当時の職人が神様の為にと特別に用意した瓦の大事な部分、持って行かれた神は当然怒った。その怒りは呪いに、おじさんがダム湖へ来る度に呪いをかけ続け、すべての条件がそろった事で呪いの泥が実体化して全てを飲み込んだ。それが今回の事件の真相らしい。


 正直全てを信じる事は出来ない、詳しく問いただしたい事は色々あるが、知らないあのいつもの帰り道を歩いていた時の事を思い出すと、彼の言葉が全て嘘だと思う事は出来ない。そしてあの世界で毎日吠えかかって来た犬がペロであったことに気が付き自然と手が伸びる。


 私の手が伸びるとすぐに呼ばれている事に気が付いたキツネ顔は、満面の笑みを浮かべて駆け寄ってくる。駆け寄ってきてそのままの私の膝に飛び込むペロをみて微笑む男性に、私は何時もの帰り道の話をする。静かに頷き聞いていた男性は、私の身に何が起きていたのか説明してくれた。


 あの時泥に狙われていたのはおじさん、一緒にいたおばさんや従妹の女の子は、おじさんをより苦しめる為に襲われたのだろうと、そして私は本当についで、その場に居合わせたから生贄として求めたのだろうと男性に言われて私は呆けた。怒りや憎しみなどと言う感情が生まれる前に、神様と言うものの理不尽さに呆けてしまった。


 私の代わりに怒る両親に、男性は困った様に笑いながら神様と言うものはそんなものなのですと、特に信仰が途絶えた神は何をしでかすかわからないと言って私を見詰める。まだ何かあるのだろうかと、少し不安になっていると、いつもの帰り道の世界について説明してくれる男性。


 知らないのにいつもの帰り道だと思っていたのは、神様が私の記憶を奪って改ざんしていたのだろうとの事、しかし深い意識の中では違和感を感じている為、同じ帰り道を何度も繰り返させることで意識の奥まで刷り込み疑問を忘れさせたかったのだと、呆れた様に話す男性。


 そんなことをして何の意味があるのだろうかと、小首を傾げる私に、男性は神様の住む町の住人にしたかったのであろうと、いつの間にかいなくなった住人を連れ戻したかったのだと。しかしその擦り込みをペロが吠えて邪魔していたらしく、その隙から男性の力を送り込み、私は救助されたのだった。


 もう少し遅ければ、時間がかかっていれば、私の意識はあのダムの底に縛られていた可能性が高いと言われ、体から血の気が引いて行く共に手が震えだす。震える手に気が付き立ち上がるペロは、うろうろとし始めると膝の上で揃えて握っていた両手の上にのしかかり、温かいお腹で温める。


 命の恩人であるペロを見下ろす私は生きている。おばさんたちが死んでしまった事は悲しいが、こんな理不尽に負けないように強く生きようと、あの日おじさんたちの笑顔に誓う。これが私の近くて遠い世界で体験したいつもの帰り道の話である。


 あの後、麦茶を飲み干した男性は、ペロを一頻り撫でた後また何かあるといけないからと名刺を置いて行った。まさかその名刺が呼び水になってあんなことが起きるなんて、この時の私は考えもせず、受け取った名刺を大事にお財布に仕舞った。そんな思いもよらぬ事件はまた別の時に話そう。


 今は、とても懐かしく感じる本当の自宅へのいつもの帰り道を歩き、生きている事の素晴らしさを噛みしめる事にする。



 いかがでしたでしょうか?


 以上で『いつも』完結となります。楽しんで貰えたなら何よりです。評価や感想などありましたらお気軽にぽちぽちお願いします。


 それではまた何かホラーな機会がありましたら、いつものHekutoもよろしくね! さようならー

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