表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつも  作者: Hekuto
1/4

1話

公式企画の夏のホラー2023を見て書いてみようと思った作品です。初めてホラー書いてみましたが、楽しんで貰えるかドキドキしますね。



 いつもの帰り道、職場のある街から電車に揺られると見えてくる近所の駅。


 少し古めかしい電車から降りると私の街が見える。レトロな見た目の駅から出ると賑やかな街の音が聞こえてきた。


 私の家は駅から近い木造の一軒家、そこまでの道程は街の中を通るのでとても賑やかで明るい、夜でもそんなだから安心して帰路につける。


 今日もいつもと変わらない私の街、釣具屋のおじさんがいつもと同じ笑みで手を振ってくれる。和食屋のおばさんが私に気が付き手を振っている。この石畳の通りでいつも挨拶してくれる二人だ。


 いつもの狐が曲がり角の赤い鳥居の前に座っている。逃げるわけでも近付くわけでもなくじっと見つめてくる可愛い狐、野生だと思うので触れることは無いけど、その姿は毎日のちょっとした癒し。前から浴衣の女の子が歩いて来た、いつもキツネに餌付けしてるらしく何かを食べさせている。


 ここまで来たら家はすぐ、いつもの時間にいつもの玄関を開ける為に取手を握った。今日の晩御飯は何にしようかな?




 今日は嫌な事があった。


 会社から駅までの帰り道で犬に吠えられた。最悪だ、いつも通りの幸せな日常が台無しだ、どうして犬はあんなに怖いんだろう、きつねはあんなに可愛いのに……。


 最悪な日は早く家に帰りたくなる。いつもの駅で降りていつもの街を眺め足早に明るく賑やかな街の中を歩く。いつものおじさんが手を振っている。いつものおばさんも手を振ってくれた。


 小さく手を振り返して速足で歩く。曲がり角の赤い鳥居の下で女の子が屈んで狐に餌を上げている。いつも通りの光景を見て家の玄関の前、古めかしい丸い取手を手にする瞬間、道の先に誰かが居た。こちらをじっと見ている……こわい、早く家に入ろう、ご飯を食べてお風呂に入ってすぐに寝てしまおう。




 まただ、また犬に吠えられた。


 昨日と同じ、でもいつもと違う事が続いた。今日も早く帰ろう、きっと何か良くな日なのだ。そんな日は偶にある、前にも運が悪い日があったから、だから今日も急いで帰ろう。


 電車が止まって体が大きく揺れる。レトロな駅が気持ちの所為か汚れて見えた。いつもの明るく賑やかな街の中を足早に歩く、すぐに釣具屋さんが見えてきて、いつものおじさんが手を振っている。でも今日は少し腰が曲がっている様だ。どうしたのだろう腰でも痛めたのかな? そんなに歳じゃないけど太ってるから負担が腰に来たのだろうか、偶にはそんなこともある。


 もうすぐ和食屋の換気扇からいつもの醤油と甘い砂糖の良い香りがしてくるだろう。そしておばさんが手を振ってくれる。くれない? どうしたのだろう、何か怒っているようでこっちに気が付いてくれない。何かあったのか心配だけど、今日は急いで帰らないといけない。お皿の割れる音が聞こえる……帰ろう。


 曲がり角、赤い鳥居、そしていつものキツネが、居ない。浴衣を着た小さな女の子が泣いている。鳥居の下で、あれは油揚げだろうか、キツネの為の餌は油揚げだったようだけど、与えるべきキツネが今日は居ない。それはきっと悲しいだろう、でも野生のキツネだからそんなこともあるよね。


 急いで帰ろう、なんだか今日はおかしい、二日続けて犬に吠えられるし、なんだか街からはいつもと違う声が聞こえてくるし、キツネは居ない。早く帰ろう玄関の取手を捻ればすぐだ。


 また知らない人が居る。通りの先でこっちを見ているのは男だった、少し暗い通りの先、昨日より少し近い、こわいこわいこわい、見てるとすごく怖くなって来た。早く、早く、早く家に入らないと、今日はもう寝よう……。




 最悪、また吠えられた。ものすごく大きなお声で吠えられた。


 怖くて走って逃げたから歩くのもつらい。それでも電車は駅に到着して私の体を揺らして降りるように促す。足が棒のようでホームに出てもなかなか足が進まない。また吠えられたから早く帰りたいのに駅から出る道も長く感じる。


 気分が落ちているからか街が少し暗くなって見えた。賑やかな街の音もどこか遠く感じる。体調も悪くなってしまったのだろうか、石畳を歩く足が疲れでおぼつかないが早く帰らないといけない。


 短いはずの道程が遠く危険に感じる。今日は変な知らない男は居ないけど、気のせいかずっと後ろに気配を感じた。私の歩く速度に合わせて誰かが付いてくる、居る、絶対に居る。急げ、早く、周りを見る余裕もない、おじさんもおばさんもキツネも女の子も、みんなわからない、丸い取手が見える、回す、早く布団に入って寝てしまおう。ノックが聞こえる、木製のドアを叩くノックが聞こえる、知らない、いつもと違う、寝ないと、早く寝ないと……。




 暗い、暗い、暗い、暗い、暗い、いつもと違う暗い道、電車が止まった。犬が線路を横断して電車が止まったらしい。道行く人のざわざわした話だと、緊急停車した後で駅員さんが外を調べる時に犬に吠えられ怪我をしたらしい。本当に犬は最悪の生き物だ。


 暗い、一駅歩いただけで足が棒のようだ。もういつもの私の街に着いたはずなのに暗い。暗いいつもと違ういつもの道を歩く、釣具屋のおじさんが居ない、何だろう店先に人の様な泥が山になっている。よく見たらおじさんの服を着てる気味が悪い。


 早く家に帰ろう、今日はおばさん怒ってないと良いな、いつも優しいおばさんの怒った声は怖い、怖い、怖い、なんだあれは、お店の中が泥沼になっている。泡が沸き立つ、まるでおばさんのような形に泡立つ沼がおばさんの服を着て怒っていた。


 足が痛い、走っているはずなのに進まない。あれは何だったのだろう、もうお店には行けない、何がどうなって……骨だ。いつもの鳥居の下に骨が置いてある。思わず立ち止まってよく見ればそれは動物の物であることがわかる。でもあれは、あの布は女の子がいつも着ていた着物と同じ柄だ、いやあの女の子の着物を動物の骨が咥えている。そんな、あの女子は―――。


 犬だ!?


 犬の鳴き声が聞こえる。良く聞き覚えのある鳴き声だ。どうしよう、歩いて帰ってきたから跡を付けられたんだ。逃げないとまた吠えられる。あの鳴き声は頭が痛くなるから嫌だ、早く、早く、早く帰らないと、帰る。


 帰る? どこへ? あれは、あの知らない男だ……前を歩いている。真っ暗で何も見えない筈なのに、男の前には光が見えた。助けて犬が追ってくるの、鳴き声が、吠えかかってくる犬が近づいてくる。

全部で四話、最後まで楽しんでいってね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ