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Dear  作者: 木谷未彩
1/1

彼氏が既婚者でした

私は今、人生で一番幸せだ。

後にも先にもこれだけの幸せは訪れないだろう。


私の彼氏は完璧だ。

思いやりがあって一緒にいて楽しい。頼りがいがあるし、会うたびに好きだと言ってくれる。

おまけに、高身長、高学歴、高収入、見ているだけで幸せになれる顔面までついている。

こんな素敵な人と付き合えるなんて、私は前世でどれだけの徳を積んだんだろう。

彼に出会うまでは不幸ばかりだったけど、これまでの不幸は、今幸せになるためにあったに違いない。

あー、私は本当に幸せだ。



あれ。噂をすれば彼氏の大輝(だいき)さんだ。

……驚かせようかな。

大輝さんなら、きっと『もうー。驚いたじゃないですか』なんて言って笑うんだ。

大抵のことは笑って許してくれる心の広さまで持ち合わせているなんて、どれだけ完璧な彼氏なんだ。


息を潜めてゆっくりと近づき。

「わ!!」

と大声を出した。

「……もうー。驚いたじゃないですか」

あれ。声がいつもと少しだけ違うような。

風邪ひいてるのかな?


彼がゆっくりと振り向いた。

大輝さんによく似ている。でも別人だ。

どこが違うのかと聞かれても答えられないくらいそっくりだけど、確信があった。

「……す、すみません!人違いでした!」

「ふふ。なに言ってるんですか。大輝ですよ」

「え……。違いますよね?」

「……どうして俺が大輝じゃないって思うんですか?」

「え……。だって大輝さんよりかっこいいし」


本当にそっくりなのに何故か、目の前の男の人の方がかっこよく見えた。

いや。私は大輝さんの外見ももちろん好きだけど、内面に惹かれている訳だから、この男の人を好きになったとかいう訳ではもちろんないんだけど。

でも外見はこの人の方がかっこいい気がする。

自分でも何故そう思うのか不思議だけど。


「ぶっ……ふふ。俺の方がかっこいいんですか?」

「……はい。外見はですけど」

「ふふ。そうか。俺の方がかっこいいですか」

「は、はい。あの!人違いしてすみませんでした!失礼します」

人違いで脅かすなんて、恥ずかしすぎる……。

さっさとこの場を立ち去ろう。

「待ってください」

先程の男性に手を掴まれた。

何故だろう。少し懐かしい感じがする。

「俺は……。未来から貴方を幸せにしにきました」

「……は?」




「……え、いや。あの。後にも先にもこれだけの幸せは訪れないだろうってくらい幸せなんで」

「……そうですか。でもその幸せはもうすぐ終わりますよ」

「は、はぁ」

「貴方の交際相手、既婚者なんです」

「はぁ?そんな訳」

「これが証拠写真です」

大輝さんにそっくりな男は、胸ポケットから写真を三枚取り出した。

そこに写っていたのは、とても幸せそうに笑うタキシード姿の大輝さんと、ウェディングドレス姿のとてもキレイな女性だった。

今話題の女優さんです。と写真を見せられたら、少しも疑わないだろうなと思うほど美しい。


「……大輝さんが既婚者なんてそんなことあるはずない。だってとっても優しくて。とっても素敵な人なんだから、こんなキレイな奥さんがいて私なんかと不倫なんてするはずないし。

あ、分かりました。この写真の男の人、貴方でしょ?大輝さんにそっくりですもんね」

「……俺じゃなくてその大輝って人ですよ。よく見てください。俺の方がかっこいいんでしょ」

大輝さんが既婚者なんて、絶対に認めたくない。

でも写真に写っているのが、大輝さんであることに確信があった。

どうしてだろう。目の前にいる男の人は本当に大輝さんにそっくりなのに。



私やっと幸せになれたのに。

いつかは大輝さんと結婚して、子どもも産まれて幸せな家庭を築いていくと思っていた。

私なんかに優しかったのは、キレイな奥さんがいる余裕があったからなんだな。

あれだけキレイな奥さんと毎日いると、私みたいな普通の女と遊びたくなるのかも。

冷静に考えたら大輝さんみたいな優しい人が、私なんかを好きになるはずないじゃないか。

私なんてきっと一生、誰にも愛されないんだ。


「……泣くほどその男が好きなんですか」

「……好き。大好き。大輝さんのいない人生なんて考えられないのに」

「貴方に相応しい男が現れるまで側にいます」

「……私なんかを好きになってくれる人なんて」

「絶対にいます。大丈夫です」

なんの根拠もない言葉だけど、この人が言うと安心できた。


不思議な人だ。どこか懐かしい感じがする。

……付き合っていた人とそっくりなんだから当然か。


「取り敢えず、けりつけに行きましょう」

「え……」

「ついてきてください」

手を引かれるまま、歩き出した。

力強い足取りがなんだか心強かった。


「着きました。ここです」

「ここって…………」

大輝さんにそっくりな男に連れてこられたのは、最高級ホテルだった。


「……いやいや。こんな高級ホテル私なんかが入ったら、追い返されるよ。普段着だし」

「大丈夫です。話はつけてます」

「話って誰に?」

「まぁとにかく大丈夫ですから。さっさと終わらせましょう」

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

私の制止も聞かず、ずかずかとホテルの中に入っていく。


「……やばいって。追い出される前に帰ろう」

「大丈夫ですって。心配性ですね」

「大丈夫な訳ないでしょ!」

大輝さんにそっくりな男がホテルの中にある、レストラン前で突然立ち止まった。

「渡辺駿です」

「オーナーから話は伺っております。どうぞお入りください」

「ありがとうございます。行きましょう」

「し、失礼します」


他に適切な言葉があった気がする……。

失礼しますって、職員室じゃないんだから。

焦ると適切な発言ができなくなる、コミュ障な自分が嫌いだ。

でもこんなことでうじうじ悩むところが、一番嫌いだ。


「あそこにいますね」

とても幸せそうな大輝さんが、奥さんと一緒に居た。

あんな顔、向けられたことないな。


大輝さんにそっくりな男が、大輝さんと奥さんのいる方向へ歩き出した。

手を引かれて私も歩く。

どうしよう。全然心の準備できてないのに。

いや。心の準備なんてどれだけ経ってもできる気しないけど。

なんて思っていたら、あっという間に大輝さんの隣についてしまった。

レストランの中を移動しただけなのだから、当然だけど。もう少しだけ時間が欲しかった。


「……初めまして。天沢大輝(あまさわだいき)さん」

「なんだ君は。夫婦の時間を邪魔しないでもらいたい」

大輝さんって、こんな怖い声出せたんだ。

私が見ていた大輝さんは、氷山の一角に過ぎなかったんだな。

全部知った気になって、馬鹿みたい。


大輝さんがゆっくりと私たちの方を見た。

「……な!?ドッペルゲンガー!?」

そう思うのも無理はないと思う。

本当にドッペルゲンガーだったりして。


「さあ、どうでしょう」

大輝さんにそっくりな男が不敵に笑った。

「あら。貴方双子だったの」

大輝さんの奥さんが言った。

声までキレイなんて、私が勝っている部分は一つもないな。

いや。略奪婚をするつもりなんて、微塵もないんだけど。……それでも思ってしまう。


「僕が一人っ子なのは(かえで)も知っているだろう。揶揄わないでくれよ」

大輝さんが僕って言ってるの初めて聞いたな。

名前すらほとんど呼ばれたことなかったな。

こんなに慈しみを感じる声も初めて聞いた。


あれ?この人誰だろう?

二人とも大輝さんの偽物で、本物の大輝さんは別の場所にいるのかな。

……そんなことない。

この人は間違いなく大輝さんだ。分かっていても考えてしまう。


「楓さんと(すみれ)さんへの謝罪を要求します」

「……なんでお前にそんなことを言われないといけないんだ」

「あら。菫さんってもしかしてそちらの女性?」

「な、なんでお前が!?」


自分にそっくりな男が現れた衝撃で、私のことなんて目に入っていなかったんだろう。

まるで化け物を見るような目で私を見ている。

いつも愛おしそうに私を見ていたのに。


いや。それも今思うと愛する女性に向ける眼差しというよりは、ペットに向けるような眼差しだった気もする。

この人は最初から私のことなんて、愛していなかったんだろうな。


どうしてだろう。さっきまですごく悲しかったのに、今はどうでもよくなってきた。

私は自分で思っていた程、大輝さんのことが好きだった訳じゃないのかもしれない。


「そちらの女性とはどういった関係なの?」

「あ、あー。……取引先の女性でね。この間仕事で少し失礼があったんだ。あの時は本当に申し訳なかった。今度改めてお詫びを」

「いいえ。違います」

「な!?」

私が話を合わせなくて、驚いてる。

私良い子だったもんね。

こんな状況でも話を合わせてくれると思っちゃたんだね。

大輝さんがそんなに頭の弱い人だとは思わなかったよ。

私が良い子でいたのは貴方のことを好きだと思っていたからなのに。そんなことも分からないんだね。


大輝さんが私が余計なことを言わないように、一生懸命睨んでる。

ごめんね。全然怖くないよ。

まだ子犬に睨まれた方が怖いと思う。


あれ?私この人のどこが好きだったんだっけ?



「貴方のご主人と不倫していました。本当に申し訳ありません」

頭を下げた。


「な、なにを言って……!?楓。気にしないでくれ!彼女は妄想癖があるようで、俺と付き合っていると思い込んでるみたいなんだ。仕事相手だから無下にもできなくて、俺も困ってるんだよ」

「この期に及んでとぼけないで」

「だったら俺と君が、交際していた証拠があるのか?」

「そんなのあるに決まって」

あれ。たしかにツーショットはどれだけ頼んでも『恥ずかしいから』とか言って撮ってくれなかったし、『声が聴きたいから、必ず電話して』なんて馬鹿みたいなセリフを信じたせいで、メッセージのやり取りもない。


「急に黙り込んでどうした?やっぱりないんだろ?君と俺が付き合ってるなんて、全部君の妄想」

「これが証拠です」

大輝さんにそっくりな男が5枚、写真を取り出した。

その写真には私と大輝さんが、レストランで笑顔で食事をしている姿が写っている。

私の服装が写真ごとに違うから、それぞれ別日に撮った写真なのだろう。

大輝さんはどの写真も同じスーツを着ている。


「はっ。なにかと思えばただ、レストランで食事をしているだけじゃないか。不倫はね、婚姻関係にある人が配偶者以外の異性と肉体関係を持つことを言うんだよ」

「二人でホテルに入っている証拠写真もありますよ」

「な!?……あったら最初からその写真を出すはずだろう。出鱈目なことを言うんじゃ」

「菫さんの許可なく、そういった写真を出すべきではないと思っただけです」


「わ、私は出してもらって大丈夫……でも」

奥さんはきっと見たくないよね。

無意識で奥さんに目線を移した。

「私も大丈夫よ。出して」

「……これです」


大輝さんにそっくりな男が10枚、写真を取り出した。

その写真には私と大輝さんが、ホテルを出入りする姿が写っている。

これらの写真も私の服装が、写真ごとに違うから、それぞれ別日に撮った写真なのだろう。

大輝さんはどの写真も同じスーツを着ている。


「な!?……そうだ。この男お前だろ。俺と顔がそっくりだからこんな写真撮って騙そうとしたんだな」

「違います!!写真の人は間違いなく大輝さんです!!」

「はっ。なにを根拠に」

「この人の方が大輝さんよりかっこいいじゃないですか!!」

「は?」

「写真に写っているのは、この人よりかっこよくないので、間違いなく大輝さんです!!」


レストラン中が沈黙を纏った。

やばい。カッとなって変なこと言った。

奥さんとそっくりさんが、必死に笑うのを堪えていて申し訳ない。


「ふ、ふざけるなよ!!あいつのどこが俺よりかっこいいんだ!?」

「え、具体的には難しいですけど……。うーん。オーラですかね」

「ふざけるな!!そんなの証拠にならない!!」

「たしかに俺の方がカッコイイだけでは、証拠にはならないですよね」

「ああ……第一お前の方が、カッコイイというのも俺は認めて」

「写真の右手よく見てください」

そっくりさんの言葉で三人が、写真を覗き込んだ。

「右手のなにが証拠に」

「ああ、なるほど。指輪ね」

「え……」

奥さんの言葉に大輝さんがたじろいだ。

「不倫するならオーダーメイドなんてしなければよかったのに」

「……こ、この写真はきっと合成で」

「その言い訳はさすがに苦しいんじゃない?」

「…………わ、悪かった。あの女とはただの遊びだったんだ!愛しているのは楓だけだよ!信じてくれ!」


そっくりさんが大輝さんと奥さんのいた、テーブルに置いてあったワインを、大輝さんにかけた。


「なにをするんだ!!」

「菫さんにも謝ってください」

「はっ。なんであんな女にまで謝らないといけないんだ。むしろ感謝して欲しいくらいだよ。この俺が遊んでやったんだかグボッ」

大輝さんの顔をそっくりさんが、思いっきり殴った。

「謝ってください」

「しょ、傷害罪で訴えてやる!!」

「あら。そんなことしたら貴方の会社への融資取り下げるわよ」

「なっ!?ワインをかけられて殴られたのに、黙って見過ごせって言うのか!!」

「黙って見過ごせなんて言ってないわよ。謝罪して見過ごせって言ってるの」

「なっ!?楓にとってこの女は愛する旦那を盗った泥棒だろう!?なんでそんな奴に謝罪しろなんて言うんだ」

「貴方のことだから、既婚者であることも隠してたんでしょ」

「ち、違う!!俺には愛する妻がいるからと何度も断ったのに、どうしてもとしつこくて仕方なく……」

「そんなに融資を取り下げられたいの?」


血が出るんじゃないかという程、下唇を噛み締め、手を強く握りしめている。

そんなに謝りたくないのか。

プライドが高い人は、人生大変そうだな。


「………………す、すみませんでした」

蚊の鳴くような声だった。

怒りも悲しみも、なにも湧いてこない。

好きの反対は無関心というのが、本当なのだと実感した。


「大丈夫ですよ。もうどうでもいいので」

すごく久しぶりに、心から笑えた気がする。

大輝さんに嫌われないように、自分を押し殺していたから。


自分を殺すのには限界がある。

仮に大輝さんが独身で私と結婚していたとしても、私と大輝さんの限界はそう遠くなかっただろう。

そんな未来がこなくて良かった。


「ど、どうでもいい……」

「はい。どうでも」

大輝さんが驚いている。


『別れないで!!』と泣き叫ぶとでも思っていたのだろうか。

こんな扱いを受ければ、100年の恋だって冷める。

大輝さんは自分のことをどんな態度を取ろうと許される、魅力的な人間だと思っているんだろうな。


「独身だと嘘をつかれて交際していたなら、50万~200万円程度の慰謝料は取れると思いますよ」

「楓!!なに言って!?」

「弁護士紹介しましょうか?」

少し悩み

「いえ。慰謝料は大丈夫です。ありがとうございます」

と言った。

「私に悪いと思っているなら、気にしないでください。これを機に離婚するので」

「な!?離婚なんて俺は絶対認めないぞ!!」


「……もうこの人の顔を見たくないので」

「それもそうですね。気が変わったらこちらに連絡を。サポートしますので」

名刺を渡してくれた。

「あ、ありがとうございます!すみません。私持っていなくて……」

「大丈夫ですよ。……じゃあ私はこれで失礼します。さっそく離婚準備をしないと」

「おい、楓!!離婚なんて冗談だよな!?たった一回の不倫で!!」

「冗談な訳ないでしょ。今回の不倫がなくても、元々離婚したかったもの」

「なんでだよ!?俺以上に完璧な男がこの世にいると思うか!?」

「仕事のできる人が良い旦那とは限らないのよ。離婚理由がわからないなら、ボイスレコーダーを常備して、自分の発言を振り返るといいんじゃない?」

「なにを訳の分からないことを言って!!今すぐ謝れ!!謝るなら離婚するなんて言ったこと許してやる」

「謝るのは貴方の方よ」

「……もういい」

そう言って大輝さんは、私の方に近づいてきた。

な、なに。逆上して私のこと殴ろうとしてる?


そんなに距離もなかったため、あっという間に私の前に立つ。

次の瞬間私の手を取り、跪いた。


は??

「菫。結婚しよう」

は????

「俺が間違ってた。楓みたいな我儘な女より、菫の方がいい。だから俺と結婚してくれ」


「い、嫌ですけど」

「ん?すまない。聞き間違えたみたいだ。もう一度」

「嫌ですと言いました」

「なんで!?」

「逆になんで?」


この人は正気なのだろうか。

一体頭のネジが何本抜けていれば、この状況でプロポーズなんてできるのだろう。


「正気か!?菫!!高卒で容姿も良くはないお前が高身長、高学歴、高収入の俺と結婚できるチャンスなんだぞ!?チャンスは自分の手で掴み取らないと!!」

「私が結婚相手に求めているのは、思いやりがあって一緒にいて楽しくて、頼りがいがある人です」

「よかったな。条件にピッタリだ」

「どこがですか?」

「とりあえず結婚しよう。幸せにしてやるから」

「大輝さんは今のままじゃ、結婚相手を幸せになんて出来ません」

「そんな訳ないだろ。楓を見てみろ。とても幸せそう」

「不幸よ。貴方のせいでね」

「……とにかく大丈夫だから結婚しよう。ほら大船に乗った気持ちで」

「……タイタニック」


つい零れた本音に、そっくりさんと奥さんが笑った。

「ん。なにか言ったか?」

一番近くに居た大輝さんには聞こえなかったようだ。自分に都合の悪い言葉をシャットダウンする機能でもついているのだろうか。ある意味羨ましい。

「とにかく貴方と結婚なんて、絶対に嫌です!!」


「それ以上騒ぐなら、威力業務妨害で警察を呼ぶわよ」

「はっ。女の嫉妬は見苦しいな。今更よりを戻して欲しいなんて言っても、もう遅いんだからな!!」

「……貴方のその自信、少し分けて欲しいわ。一分以内にこのホテルから立ち去りなさい。さもなくば警察を呼ぶわよ」

「くっ!!……菫。安心して。必ず迎えに行くからね」

「来ないでください」

「照れちゃって。菫は可愛いなぁ」

……二、三発、ぶん殴ろうかな。


「迎えになんて来なくて結構ですよ。俺が菫さんを幸せにするので」

「はっ!お前みたいなドッペルゲンガーごときに菫を幸せになんてできる訳がないだろ!!」

「……少なくとも貴方よりは幸せにできると思いますけど。

それと俺は常に菫さんの側にいるので、菫さんに近づかない方がいいですよ」

「お前が近くにいようと関係」

「あれ、知らないんですか?ドッペルゲンガーに二回会うと死ぬんですよ」

「なっ!?……もういい。お前らなんかより従順で可愛い女の子と結婚して、幸せになってやるからな!!あとで後悔しても遅いんだからな!!ふんっだ!!」

幼稚な捨て台詞を残して、大輝さんは去っていった。


「俺たちも帰りましょうか」

「え、あ、うん。……あの、ありがとう」

「……どういたしまして」

大輝さんが既婚者なことを教えてもらえずに過ごしていたらと思うとゾッとする。

そんな未来、絶対に嫌だ。彼には感謝しないと。


奥さんの前に行き

「助けていただきありがとうございました」

と言った。

「もっと早く気づいてあげられたらよかったんだけど。あの男、自分の悪事を隠すことには長けているから」

「い、いえ!早く気づくべきだったのは私の方です!本当に申し訳ありませんでした」

頭を下げた。


「顔を上げて。悪いのは全部あの男。私たちは悪くないわ」

「……で、でも」

既婚者と知らなかったとはいえ、不倫していたのは事実だ。

今思うと、怪しい部分は全部見ないふりしていた気がする。

「でもじゃないの。分かった?」

「……わ、分かりました。ありがとうございます」

これ以上、謝るのは逆に失礼になるな。

「貴方ならきっと素敵な人と結ばれるわ。あんな男のことはすぐに忘れなさい」

「はい!本当にありがとうございました!」

「気をつけて帰ってね。あの男が待ち伏せしている可能性も0じゃないし、彼に送ってもらうといいわ」

彼とはきっと、そっくりさんのことだろう。

「い、いえ。そこまでお世話になる訳には」

「なに言ってるんですか。送りますよ。今後の話もありますし」

「こ、今後……?」

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