待ってる
「あ。来た」
絵師の笑顔が迎えた。
伍の宮にいかなくとも、いつも皆が集まるアズマヤには、いつもの面々がそろい、いつもの札遊びをしていた。
コウセンの低い声が恨めしげに響く。
「・・・はかったな?」
ぴょん、とヒョウセツの懐へとサジが逃げ込んだ。
セリが扇子をひらき、コウセンをあおぐまねをする。
「こうでもせぬと、出てこないのはわかっておったからな」
「セリちゃんよお・・・おれ、こうみえても今、ふさぎこんでるんだぜ?」
「それは、『逃げている』、というんです」
ふざけようとする男へ、ヒョウセツが冷たく言い切った。
「まあ、コウセンも、半分は疑いながらも、こうして出てきたんだ。もう、逃げまい?」
サモンが奥へ続く扉を示し、セイテツが続けた。
「待ってるよ」
「―― ・・・おれではない。あの子が待っていたのは」
「待ってるんだよ。シュンカは、ずっと、あの後、顔もみせなくなったあんたのこと」
セイテツのすこし怒ったような声が男の顔をうつむかせた。
ヒョウセツが、そんな男の背を押すように、優しく言う。
「ぼくが言えることじゃないけど、逃げたって、いいことなんか、ありませんよ」
「・・・・・」
諦めたように進んだ男は、廊下をまわり、その扉の前にたどり着く。
取っ手を掴み、中の様子をうかがったときに、くぐもった声がもれ聞こえた。
「 ・・う・・や、・・・いたい・・・それ・・・やあ・・ 」