たいへん!
こん こ こん こん
冷たい床にじかにあぐらをかき、酒をなめていたコウセンは、猪口を置く。
分厚い扉が叩かれたような音がしたからだ。
こんなところの扉を叩くのは、急用で迎えに来た、チョクシかアキラだ。
よっこいせ、と立ち上がり叫ぶ。
「開けたぞお。どうしたあ?」
いつものように、酔ったふりをした自分の声が響いた。
だが、入ってきた気配は、予想とは違い、ヒョウセツがつかう役神の薬サジだった。
『 たいへんだ! シュンカに! たいへん! 』
甲高い声で騒ぎながらコウセンのあしもとをとびまわる。
「シュンカ!?・・・・いや、―― なにかあっても、他のやつらだっているだろお?」
『 みんな たいへん! シュンカ、おかしい! たいへん! 』
「・・・ほんとかよ?」
伍の宮でなにかが起きたのか?
いや、天宮の『気』にかわりはない。
だが、子どもの名をきいてしまった男はそのまま宮を出る。
「―― ・・・だれか、蓋をしやがったな?」
伍の宮の『気』が感じ取れない。
小さなサジは、すでに先をゆきはじめている。
半信半疑で追う足が、駆け足になっていることに、コウセンは気付かなかった。